Latitudinous Aptitude for Singing(自由な歌の才能)

ここはある日の事務所のボーカルトレーニングルーム…
千早「♪〜」
どこか透明感のあるメロディが響き渡っている。
千早「…よし、これくらいでいいわね」
どうやら自主練習をしに来た人が声出しをしていたようだ。
千早「まずはこの…ううん、この曲からにした方がいいかしら…」
その部屋の外から何やら声が…
やよい『ううー、ここも使用中です…どうしようかなあ…』
千早「あの声は…高槻さんかしら?」
ガチャッ
千早は部屋のドアへと駆け寄って開けた。
千早「高槻さん、どうしたんですか?」
やよい「あ、千早さん。その…ちょっと次の曲に向けてトレーニングしようかなーって」
千早「それなら一緒にトレーニングはどうかしら?」
やよい「え?でも千早さんの邪魔しちゃ悪いです…」
千早「いいの。私だって聞いてもらう人がいた方がいいから」
やよい「本当に私が一緒で邪魔にならないですか?」
千早「大丈夫よ。私だって自主練習だもの、それに高槻さんの歌声を聞きたいわ」
やよい「そ、そんなあ…千早さんに聞かせるような上手さじゃないです…」
千早「違うわ、高槻さん」
やよい「えっ…」
千早「高槻さんの歌には、また聞いて欲しいって心が沢山入ってる」
やよい「はいっ!それはどんな曲でもそう思って歌ってますっ!」
千早「それは簡単に言ってるけど、なかなか出来ることではないわ」
やよい「そ、そうなんですか?」
千早「ええ。だからそんなに…自分を謙遜しないで」
やよい「…はい。だけど本当に一緒でいいんですか?千早さんが先に使ってたんですから」
千早「いいのよ。私もこれからってところだったし…一緒にやりましょ、高槻さん」
やよい「それならお願いしますっ!千早さん」
 
まずやよいが先に練習を始めたようだ…
千早「高槻さん、もうちょっとこの音がはっきり出た方がいいもしれないわ」
やよい「でもでも、そうするとこの後のメロディがちょっと不安定になっちゃうんです」
千早「なるほど…でも確かにこの曲の聞かせどころはサビ前のメロディね」
やよい「だからどっちかって言えばそっちに集中しちゃうんです…」
千早「んー…でもそれは練習でカバーするしかないわ」
やよい「うー…難しいかもです…」
千早「あっ…それなら高槻さん」
やよい「何ですか?」
千早「頭の…」
ツンツン
千早はやよいの頭頂部らへんを指で突いた。
千早「この辺から声を出す感じでやってみたらどうかしら?」
やよい「その辺ですか?んー、どうやればいいんでしょう?」
千早「気持ちだけでもその辺を意識するだけで変わると思うわ」
やよい「えっと…うーん…はい、ちょっとやってみますっ」
♪〜
やよいの練習している曲のカラオケが再生され…
やよい「♪〜」
そしてやよいの歌声が部屋の中に響き始めた。
 
やよい「こんな感じですか?」
千早「そうね、さっきよりずっと良くなってるわ」
やよい「エヘヘ、ありがとうございます千早さん」
ぎゅっ
やよいは嬉しかったからか千早へと抱きついた。
千早「た、高槻さんっ!?」
やよい「あ、ご、ごめんなさいっ。嬉しくってつい…」
千早「いえ、いいのよ。突然のことだからびっくりしちゃって…」
やよい「でもさっきよりずっと何か歌い方が分かっちゃった感じがします」
千早「あとは高槻さんなりにアレンジすればいいんじゃないかしら」
やよい「そうですね、色々考えてみます」
千早「それじゃあ今度は私の歌を聞いてもらえる?」
やよい「はいっ!私でよかったら喜んで聴いちゃいます」
♪〜
千早の練習している曲のカラオケが再生され…
千早「♪〜」
そして千早の歌声が部屋の中に響き始めた。
 
歌い終わって…
千早「どうだった…かしら?高槻さん」
やよい「やっぱり千早さん、歌がすっごい上手くて聴き惚れちゃいました」
千早「そんな…でも嬉しい…」
やよい「でも何だか歌声とイメージとが違うかなーって、そんな感じがしちゃった気がします」
千早「はあ…やっぱり言われてしまったわ…」
やよい「えっ?」
千早「この曲…凄く悩んでたの。私はこの曲みたいなこと、良く分からなくて…」
やよい「分かります。私も2枚目のシングルで同じようなことで凄い悩んだのを憶えてます」
千早「高槻さんはその時はどんな風に乗り切ったの?」
やよい「あの…そのですね…」
千早「その…?」
そこに…
ガチャッ
「お、ここにいたのか」
やよい「プロデューサー!どうしたんですか?」
「いやちょっとアクセサリーのサイズの確認でな」
千早「そうだったんですか…」
やよい「あ、プロデューサーちょうど良かったですっ。千早さんの悩みを聞いてあげてくださいっ!」
千早「た、高槻さんっ!」
「どうしたんだ?千早。何でも聞いてくれよ」
千早「そ、そんな…何でも…」
「悩みは無いのか?でも、やよいが嘘吐くようには思えないしなあ…」
やよい「千早さん大丈夫です、私だってそうしたんですっ」
千早「えっ…そ、そうなの?」
やよい「はいっ!とっても優しかったですよ」
千早「そうなの…あ、あ、あの…プロデューサー」
「どうした千早、落ち着いてゆっくりでいいから」
千早「はい…あの…お願いがあるんです」
「お願いか…何だ?」
千早「その…新曲のために一日だけ、い、い、一緒に過ごしてくださいっ…」
千早の顔はこれはもう真っ赤に染まっていた。
「えっ…」
千早「あのですね…次の新曲のことがどうしても分からなくて…」
「紫陽花の…次の…ああ!そういうことか。でも、俺でいいのか?」
千早「こんなこと頼めるの…プロデューサーしかいないです…。だから…」
「千早がそう言うなら…スケジュール何とかしておくからさ」
千早「ありがとうございます…」
ぷしゅー
まるで一世一代の告白をした後のように、頭から湯気が出たように倒れていく千早。
「おっと!」
ガシッ
プロデューサーはその身体をしっかりと支えた。
「あちゃー、これはしばらく休んでもらわないとだな。やよい、ちょっと仮眠室に連れていくから手伝ってくれるか?」
やよい「はいっ」
お姫様抱っこで運ばれている千早の顔は紅いながらも、どこか幸せそうだったらしい…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
意外とまだやっていなかった『ちはやよ』。もっと百合百合しくしても良かったんですけどね。
歌に真剣なのは千早もやよいも一緒。だからこそ、上手くなりたいと思うはずです。
歌い方の答えは一つだけじゃない、私はそうだと信じています。
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2011・04・30SAT
飛神宮子
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