I Can't Shit you about Adam's Apple(喉だけは貴方を騙せない)

ここはある日の765プロの会議室…
「なるほどな。秋月さんとしてはどっちの方向性に向かいたいんだ?」
「当然男の子としてですけど…」
「そりゃ律子や向こうの社長に言われてそうなったんだしなあ」
「どうしたらいいと思いますか?」
小鳥「そうね…でも1年やり切ったら男の子としてデビューさせてくれるんでしょう?」
「はい…でもこのままだと女性として認識され続けそうで…」
「かと言って名前を変えたら一からやり直しだしな」
「そうですよね、でも…だったらそれ一層どうしたら…」
小鳥「まずは衣装からかしらね。どう?」
「そうなるとここがどうしても…」
と、涼が指した先は…
「普段はパッドだよな?それなら何とかなるんじゃないか?」
「だから、そうなると衣装の胸の部分が合わなくなっちゃって…」
「ああ、そうか。そっち用に作ってるからな」
小鳥「それならこっちのって貸せないかしらね?」
「どうだろう…身長は千早くらいだけど、やっぱり男だから確かウエストはあずささんくらいあるんだよな」
「え?知ってるんですか?」
「まあ身長とかスリーサイズはプロデューサーとして敵情もチェックしないとな」
「なるほど…」
「ま、向こうの社長にはうちの社長から何か言って貰うように言っておくよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
コンコン
そこにノックが…
千早「プロデューサー、ここですね?」
「その声は千早か、どうした?」
「わあっ!私はどうしたら…」
「いいよ、でもメガネは隠しておいてくれ」
「分かりました」
と、メガネを外す涼。
千早「こちらにプロデューサーが居るとホワイトボードにありましたので」
「そういうことか、入って来ていいぞ」
カチャッ バタンッ
千早「失礼します、プロデューサー」
小鳥「いらっしゃい千早ちゃん」
千早「音無さんと…秋月さんも一緒だったんですね」
「お邪魔しています、千早さん」
「今日はどうした?フリーにしていたよな?」
千早「次の番組に向けて自主レッスンでもしようかと思いましたので。練習部屋は空いてますか?」
「練習部屋か、空いてるけど…そうだ、秋月さん一緒にやっていくか?」
「私が…いいんでしょうか?」
「千早はどうだ?」
千早「秋月さんとですか?私はそれでも構いませんが」
「よし、じゃあ行くか。小鳥さん、秋月さんを練習部屋にお願いします」
小鳥「分かりました。プロデューサーさん、着替えはどうしましょう?」
「そうだなあ…誰かのジャージで合うやつの予備を出して下さい」
小鳥「分かりました。それじゃあ秋月さん、衣装部屋に行きましょう」
「はいっ」
「あ、そうだ。千早はちょっと残っていてくれるか?」
千早「分かりました」
カチャッ バタンッ
小鳥と涼は一緒に会議室を出て行った。
千早「それで何でしょう?」
「まあ今から言うことを驚かないでくれ。もしかして律子から聞いているかもしれないけどさ」
千早「何でしょうか?」
「秋月さんなんだけど、実は男の子なんだ」
千早「…そうですか…はい?!それって…」
一瞬冷静に返事をしたものの、驚きは隠せない様子だ。
「男の子だけど、事務所の方針でああいう形でのアイドル活動をしているんだ」
千早「普段の歌声も少し無理していると思ってましたけど、そういうことだったんですか」
「そういうことだ。黙っていてもしょうがないと思ったしさ」
千早「…そんなこと…はい」
「今日ここに来たのもその相談でな。歳が近くて事情を知っている男の関係者は、なかなかいないしさ」
千早「なるほど…そういうことだったんですか」
「周りのアイドルにも一人くらい分かっている人がいた方がいいんじゃないかなってな」
千早「確かに…私がその力になれるのならそれでも構いません」
「ま、今日の自主レッスンで涼の歌声を聴いてやってくれ」
千早「…はい」
………
場所は変わってここはレッスン室。
千早「秋月さん、凄く喉に負担掛かってないですか?」
「やっぱりそう聞こえちゃってます?千早さん」
千早「ええ。1オクターブ低くても良いと思うわ」
「…えっ?1オクターブって男の声域ですよ」
千早「今のままだと余計に喉を潰してしまいそう。あなたの喉は…」
さわさわ
千早は涼の首を触った。
「んっ!」
千早「女の子の喉じゃ無いんだから、無理はしない方がいいわ」
「ち、千早さん、ど、どうして…」
千早「さっきプロデューサーから教えてもらいました」
「ええっ!?」
千早「プロデューサーが、私なら力になれるかもって言ってくれたんです」
「千早…さん」
千早「私は、秋月さんの味方ですから」
「ありがとうございます!」
千早「事務所の方針とは言っても、近い将来に本当の自分を出せる時が来ると思うわ」
「そうですか?律子姉ちゃんにはまだまだって言われてますけど」
千早「フフフ、それは…分が悪い勝負じゃないかしら。律子は高槻さんと一緒のユニットでトップアイドルの一人ですし」
「確かに、でも認めさせて見せます…きっと」
千早「その心意気なら大丈夫。時が全て解決してくれると思うわ」
「そうですね、頑張ってみます」
千早「じゃあさっきの曲、今度は秋月さんの本当の声で聴かせて」
「分かりました、やってみますね」
涼の喉からさっきとは違う音が紡がれていく…
 
「どう…ですか?」
千早「さっきの色とは違う、自然の秋月さんが出てた感じがします」
「分かってもらってる人の前だからかもしれないですね」
千早「秋月さん、きっと秋月さんの目指す場所に到達できる…はずよ」
「千早さん…はいっ」
千早「そろそろ私も一回歌おうかしら。秋月さん、そろそろ休憩が必要じゃないかしら?」
「そうですね、ちょっと休ませてもらいます…千早さんの歌声、聴かせてください」
千早の歌声、涼の心には確かな物となって響いていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
千早と涼。歌に対して真剣な女の子と、喉の使い方が特殊にならざるを得ない男の娘。
こんな二人のストーリーとなると、こうなるでしょう。
私自身、裏声を出すことも歌うことも嫌いじゃないですよ。
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2010・04・26MON
飛神宮子
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