Amid the Singing of the Cicadas(蝉時雨に囲まれて)

ミーンミンミンミンミンミーン
ここは絵に描いたようなどこかの山間の街。おや?こんなところに珍しい人が…
「ふー…プロデューサー、やっぱりあっついですねー」
バサバサバサ パタパタパタ
左手でTシャツの胸元を開けて、右手で団扇の風を煽ぎ入れる少女が一人。
「こーら、人が少ないとはいえ女の子がそういうことするなって」
「だいたいプロデューサーが、こんなところに連れてくるからじゃないですか」
「ほう?今度の曲のイメージを掴みたいとか言ったのは、どこの誰だったかな?」
ぐりぐり
プロデューサーと呼ばれた男性が、拳骨でその相手の頬をグリグリとする。
「だ、だからって実際に行くなんて聞いた時はびっくりしましたよ」
「イメージを掴むにはそうするのが一番なんだぞ」
「しかも…プロデューサーとボクの二人きりだなんて…」
「しょうがないだろ?宿が二人分しか取れなかったんだからさ。ほら、見えたぞ」
プロデューサーが指差した先には…
「うわぁ、絵に描いたような民宿ですね」
「海と山があるこういう環境、見付けるの苦労したんだぞ」
「ありがとうございます、プロデューサー」
チュッ
真はプロデューサーの頬へそっとキスをした。
「真…だからさっきから言ってるだろ?いくら人は居ないとは言ってもだな…」
「へへーん、先に行ってますねー」
真はその民宿へと走り出した。
「…まあいいか」
プロデューサーはその真を追いかけ始めた。
………
「ふう…」
「こうして中に入ると涼しいもんだな」
「そうですね、プロデューサー」
「さて、これからどうする?ま、2泊3日だけどさ」
「うーん、今日はまず川の方がいいかなあ」
「川か、俺はそれでいいぞ」
「あれ?プロデューサー…虫取り網は?」
「ん?あ、ここだ。真はその格好で大丈夫か?」
そんな真の格好は下は短パンにミニの白いソックス。麦わら帽といういでたちだった。
「はい、これでばっちりです。プロデューサーこそ暑くないんですか?」
「ん?ああ、俺もこれ脱いで…っと」
プロデューサーも下はジーパンに上はTシャツといういでたちになった。
「プロデューサー、早く行きましょう!」
「ちょっと待て真。これちゃんとしてかないと後で大変なことになるぞ」
シューーーーーーー
真の全身へと掛けられる虫よけスプレー。
「プロデューサー、準備がいいですね」
「大事な真が虫にでも食われたら大変だろ?特に雪歩と美希に何て言われるか…」
シューーーーーーー
そう言いながらプロデューサーは自らにも虫よけスプレーを掛けた。
「雪歩と美希かぁ…」
「あいつらの説得も大変だったんだぞ。二人きりで行くと分かった日には、自分達も行くって聞かなかったくらいだしさ」
「ゴメンなさい、ボクの我がままにプロデューサーを巻き込んじゃって」
「これくらいの我がまま、どうってことないぞ。そっちこそ大丈夫だったか?」
「え、何がですか?」
「親には何て伝えたんだ?」
「あ、大丈夫です。事情を話したら、本当に渋々納得してくれました」
「渋々…かあ」
「とにかく父さんの説得が大変だったけど、ちゃんと説明しましたから」
「…本当に大丈夫だよな?」
「前に一度家に来てくれたじゃないですか。その時に人となりは問題ないって言ってくれてたんできっと大丈夫です」
「ま、今さら気にしたってしょうがないし行くことにするか」
「はいっ!」
真は笑顔になって、プロデューサーを引っ張るようにその民宿を出た。
………
ジーーーーーーーーー
蝉が鳴く林の中。真の手には虫取り網、プロデューサーの手には事務所のカメラがあった。
「えいっ!」
バサンッ
真はジャンプしながら樹に向かって虫取り網を振った。
「やったぁっ!」
真は逃がさないように少しずつ網を下ろしていった。
「プロデューサー、これって何蝉ですか?」
「俺もそんなに詳しくは無いからなあ…たぶんヒグラシじゃないかな」
「これがヒグラシかあ…でも虫取りって意外と楽しいですね」
「ま、確かに女の子はそうそうやるもんじゃないしな」
「でもこいつは逃がしてやらないと」
真は虫取り網から上手く蝉だけを逃がした。
「蝉の命って意外と短いんですよね」
「ああ。だからむやみやたらに取るもんじゃないな」
「さてっと…プロデューサー、そろそろ川の方へ行きませんか?」
「もういいのか?」
「はい、これくらいで楽しさは分かりました。あと今日は川の方で楽しみたいです」
「ん、了解。」
二人は近くにある川へと移動した。
 
ここはさっきの林から近くにある川。二人とも靴と靴下を脱いで川へと入っている。
「プロデューサー、えいっ!」
バシャッ
水辺でのお約束、プロデューサーへと清水を掛ける真。
「やったな真、えいっ!」
お返しとばかりにプロデューサーも真へ水を掛けた。
数分後、お互いに水の掛け合いっこはエスカレートして…
「プロデューサー、ちょっとこっちに来てくれますか?
「ん?何だまこ…」
「えいっ!」
そう言ったとたん、真の身体と手がプロデューサーのバランスを崩す方へと向かって…
ぐいっ
「わ…わっ!」
バッシャーンっ
真はプロデューサーの身体を上手く崩して水の中へと落とした。
「真…やったなあっ!」
そんなプロデューサーの手も真へと伸びていき…
ぐうっ
「うわあっ!」
バシャーンっ
いくら空手をやっているとはいえ、そこはやっぱり女の子。男性の力に敵うまでもなく真も水の中へと引き落とされた。
「プロデューサー、もうびしょびしょですよぉ」
「そんなのお互い様だろ?」
「そんなにしたからボクのTシャツ、透けちゃったじゃないですか」
「だからそれはお互い様だろって…ブッ!」
少し顔を紅くしたプロデューサー。
「え?あ、ああっ!」
プロデューサーはさっきの光景を思い出した。
………
『ふー…プロデューサー、やっぱりあっついですねー』
バサバサバサ パタパタパタ
左手でTシャツの胸元を開けて、右手で団扇の風を煽ぎ入れる少女が一人。
『こーら、人が少ないとはいえ女の子がそういうことするなって』
………
思い出したところ、見えた部分で何かが足りなかったようだ。
「真、アイドルとしてじゃなくて女の子としてそれはどうなんだ…?」
「今日の朝慌てててつい…」
「とにかく、ここからは絶対に乾かしてからじゃないと帰れないな」
「…ゴメンなさいプロデューサー、ボクの所為で」
すっかり顔を紅くしてしまった真。
「いいんだよ。いい物見せてもらった気がするしさ」
「も、もう…プロデューサー!でも、プロデューサーならいいやって思っちゃいましたけどね」
「真…」
ぎゅうっ
そんな真を抱きしめたプロデューサー。
「濡れてるけど…温かいです、プロデューサーの身体」
「真もだぞ。心臓のドキドキも伝わってきてる」
「プロデューサーのリズム…気持ちいいです」
「真のリズムもな…ってこんなことしてたら風邪ひくし、上がるぞ」
「そうですね、もう中までびしょびしょですよ」
「お互いさまってとこか。その辺で休みつつ乾かそうな」
二人はとりあえず着たままある程度乾かして、宿へと戻って行った…
………
翌日…
「プロデューサー、早く早くー!」
「おーい、待ってくれよ真ー!」
真の身には空色に虹のラインが入った上下ビキニ、プロデューサーの身にも空色に虹のラインが入った海水パンツ。
そんな真をプロデューサーが追いかけるという光景が砂浜で見られたらしい…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
はいはーい、8月のカレンダーSSですよー!ちょっとラブラブになっちゃいましたね。
実は5・6・7と二人以上が続いて久々のアイドル単騎。こういう作品こそ私の真骨頂です。
暑い日が続きますが、何とか乗り切っていきましょー。
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2010・07・28WED
飛神宮子
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