We Accede to Program(番組を継ぐ者)

ここはある日の事務所…
雪歩「あ、あの…律子さん。ちょっと相談してもいいですか?」
律子「いいけど…珍しいわね雪歩」
律子が事務仕事をしているところに珍しく雪歩がやってきた。
雪歩「す、すみませんですぅ…」
律子「いやそういうことじゃなくて、雪歩が私になんて珍しいじゃない」
雪歩「でも、律子さんじゃないとダメな話なんで…」
律子「なるほどね。それでどうしたの?」
雪歩「あの、来月から始まるラジオのことでちょっと…」
律子「ラジオ…あ、そっか。来月からは雪歩もこっちに移るのよね」
雪歩「私なんかが2時間も大丈夫なのかなって」
律子「大丈夫よ。私なんか最初は1ヶ月に一人で2回もやってたんだから」
雪歩「律子さんは頭の回転も速いですからそうやって言えるんですぅ…」
律子「そんなことないわよ。初期には結構厳しいお便りとかも貰ってたのよ」
雪歩「ええっ!そうなんですか?」
律子「そうよ。だって私なんてあの頃はまだ新人に近いくらいだったの」
雪歩「そ、そうでしたっけ?」
律子「いつ始まったかも憶えてない?ラジオが始まったのは、まだやよいと組む前よ」
雪歩「えっ…?」
律子「やよいと組むことになったのはあの半年…んー違うわ、3ヶ月くらい後になるかしら」
雪歩「やよいちゃんってもっと前から律子さんと一緒だと思ってました」
律子「確かにうちの事務所では一番長く組んでるからねぇ」
雪歩「そういえば律子さんってラジオはずっと一人でやってましたね」
律子「これは私に与えられた仕事だったから…そこはけじめだったの」
雪歩「やよいちゃん、律子さんが放送の時に毎回事務所で聴いてましたよ」
律子「え?そうなの…?」
雪歩「はい。毎回律子さん凄いなあって言ってました」
律子「お仕事お休みなんだから、来ないでもいいって言ってたのにやよいったら…」
雪歩「やよいちゃん、やっぱり律子さんのことが大好きなんですね」
律子「…そう言われるとちょっと照れちゃうわ…」
雪歩「でも今度から全国の皆さんに私の声が届いちゃうんですよね…」
律子「全国と言っても6局ネットだけど」
雪歩「それでも私にとっては6倍ですぅ」
律子「緊張することはないわよ。今まで通りやっていけばいいわ」
雪歩「そう言われても…やっぱり自信がぁ…」
律子「あら…じゃあ一つ聞いていい?」
雪歩「は、はいぃ?」
律子「雪歩は真美のこと信用してないの?」
雪歩「えっ…?」
律子「自信が無いってことは、一緒にラジオをやる真美のことを信用してないってことでもあるわ」
雪歩「そんなこと…そんなことないですぅ」
律子「それに、雪歩はラジオでは真美の先輩になるんだから。雪歩が自信を持ってやれば、絶対に真美も雪歩についてきてくれるから」
雪歩「…はい」
律子「よし、もう大丈夫ね?」
雪歩「あ、あともう一ついいですか?」
律子「もう一つ?」
雪歩「あの…前担当されてた△△さんって、どんな方だったんですか?」
律子「え?知らないの?」
雪歩「名前とか歌は聞いたことがあるんですけど、一度もお会いしたことが無いから詳しいところがよく分からなくって…」
律子「そうなの…△△さんはね番組が始まった頃は、まだ私と同じ駆け出しのシンガーソングライターだったの」
雪歩「律子さんと同じくらいのデビューだったんですね」
律子「そうよ。私がアイドル側として、△△さんがミュージシャン側として自由に番組を作ってもらおうってコンセプトだったわ」
雪歩「そういえばどうして律子さんが抜擢されたんですか?」
律子「昔はまだ仕事が少なかったじゃない。それでこういう番組があるってことで応募したら…通っちゃったのよ」
雪歩「…昔は事務所で過ごす時間も多かったですね…」
律子「あの頃はみんな事務所で顔を合わせて騒いでる時間の方が長かったものね」
雪歩「今からだと少し懐かしい感じです…」
律子「そうね…それで少しずつみんなの曲とかも流したりして、ちょっとずつ知名度が上がるように努力はしたつもりなのよ」
雪歩「律子さん凄いです…」
律子「でも今はもうみんな名前が知られるようになったわね…」
雪歩「それも律子さんがまず底辺を拡げてくれたからだったんですね…」
律子「そんなこと無いわ。私のなんかただの下地で、あとはみんなの実力と努力が実ったからよ」
雪歩「そうですか?」
律子「ええ。だからこそ今や向こうから仕事のお願いが来るまでに成長できてるんでしょ?」
雪歩「うう…でもどうして私なんかラジオに…」
律子「雪歩がコンセプトに合ったってことじゃない、それを自信にしなさい。もうさっきから…」
雪歩「…はい…」
律子「それでその△△さんは私より4歳年上だったんだけど、本当に仲良くさせてもらったわ」
雪歩「写真だけ見てもとっても優しそうな人ですよね」
律子「そうね。とっても笑顔が優しくて、でも芯はしっかり通った…うちの事務所で言えばそうね…雪歩みたいな感じだったわ」
雪歩「ええっ!わ、私ですかぁ?」
律子「そんな驚くこと無いわよ。事実を言ってるんだから」
雪歩「何だか恥ずかしいですぅ…」
律子「それから△△さんの方が先にメジャーデビューしてね、あの時初めて私も本格的なデビューを考えたわ。雪歩たちのこともあったからね」
雪歩「もしかしてプラハと同じ頃のデビューなんですか?」
律子「確かそうね。えっ…じゃあ音楽番組とかで会ったりしてるはずだけど?」
雪歩「覚えが無いです…ちょうど全部週がズレていたのかもしれないです」
律子「そっか…えっとそれで1ヶ月くらいして私もやよいと秋のま〜ちでデビューで…」
雪歩「あの頃の律子さんって、何だか近付けない雰囲気でした…」
律子「え?ええっ…そ、そうだった?」
雪歩「はい…何だかプロデューサーにも凄く突っかかっててました」
律子「…もしかして焦ってたのかもしれないわね…やよいとのコンビが決まって心配もあったのかもしれないけど…」
雪歩「やよいちゃんも何だか少し心配そうに律子さんのことを見てた気がします」
律子「そういえばあの頃のやよいには、私がちょっと怖いって言われてたのよね」
雪歩「でも、メジャーデビューの頃にはすっかり打ち解けてましたよね」
律子「そうなのよ。それも△△さんのおかげなの」
雪歩「そうなんですか?」
律子「その頃に二人とも△△さんに呼ばれてね、その時に言われたの、お互いに家族のように思いやった方が良いって」
雪歩「やよいちゃんと律子さんが姉妹みたいって言われてるのってそれじゃあ…」
律子「そういうこと。その忠告が無かったらもしかしたら今はもう別のユニットだったかもしれないわ」
雪歩「△△さんって人を見ることのできる方…なんですね」
律子「確かにもう結婚されたけど、そういう意味では人を見極められる方だったのかも…」
………
律子「でも今週末で△△さんとはお別れなのね…」
想い出が蘇ってどこか哀愁漂う律子。
雪歩「やっぱり寂しいです?」
律子「寂しいわ。長いお付き合いだったもの」
雪歩「今週も律子さんは行くんですよね?」
律子「ええ。やよいと行って来る予定で調整が付いてるわ…ってま〜ちの予定はもう私が殆ど組んでるんだけど」
雪歩「私とかって行ったら迷惑になりますか?」
律子「雪歩も?」
雪歩「真ちゃんとも相談してて、次のパーソナリティなのに挨拶しないのってどうなのかなって」
律子「そうね…それなら確かに行った方が良いかも。ちょっとプロデューサーに相談してみたら?」
雪歩「はい、ちょっと予定聞いてきますぅ」
雪歩はそのままプロデューサーの方へと向かった。
律子「△△さんに…最後は何て言おうかしらね…」
律子は少し目を閉じて、一言小さくそう呟いていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
設定上10月からの改編ということで、このお話を持ってきました。
律子がやよいと組む前からというのも、ちゃんと前の方の作品で触れていますよ。
雪歩は何だかんだ言っても芯は通っている女の子ですもん。自信を持てば真美もきっとそれに呼応してくれるでしょう。
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2011・09・30FRI
飛神宮子
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