Abrupt Shimmering(不意の揺らぎ)

ここはある日の事務所…
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…
キーボードを打つ音だけが響き渡っている。
カチカチっ
小鳥「…保存っと。これでプロデューサーさんに頼まれていたのは全てだわ」
どうやら一人で書類の取りまとめをしていたようだ。
小鳥「んーっ!さすがに誰もいないと静かね」
伸びをしながら一人呟く小鳥。他の人はオフや仕事で出払っていて、社長も含めて全員不在である。
小鳥「本当にみんな成長しちゃって…嬉しいけれど、ちょっと淋しい…」
そこに…
ピンポーン
業者『○○通運でーす。荷物の集配に参りましたー』
小鳥「あら、もうそんな時間なのね。はーい…えっと今日出すのは…ここにあるのよね」
出す荷物と事務所のゴム印を持ってドアへと向かった。
カチャッ
業者「いつもどうもー、こちらが今日のお届け物ですがどちらに運びましょう?」
小鳥「あ、ここに入れちゃってください」
業者「分かりました。全部に受け取り印をお願いします」
小鳥「はい。今日も多かったですね」
ポンポンポン…
一つ一つに事務所の受け取り印を押していく。
業者「毎日毎日これだけあるんですから、さすがは人気随一のアイドルばかりの事務所です」
小鳥「そ、そんなことありませんよ」
業者「そうですか?昔に比べたらだいぶ増えたと思いますよ」
小鳥「昔に比べたら…確かにそうですね。あ、はいこれでハンコ全部です」
業者「ありがとうございました。それで今日は送る荷物あります?」
小鳥「この4つをお願いします。全部でお幾らになります?」
業者「全部60ですね。740二つに1160と840で3480円になります」
小鳥「それなら3500円でお願いします」
業者「3500円ね、20円のお返しになります。ありがとうございましたー」
カチャンッ
小鳥「さて、この仕事もやっちゃわなくちゃね」
ファンからのプレゼントの仕分け作業も一つの仕事である。
小鳥「まずはこれが春香ちゃん、これはやよいちゃん、これは真美ちゃん、これは貴音ちゃん…」
手際良くテーブルへと載せていく。
小鳥「これが雪歩ちゃん、これは美希ちゃん、こっちは律子さん、これはあずささん…」
この作業も実に手慣れたものである。
小鳥「これが響ちゃん、これが伊織ちゃん、こっちのは真ちゃん、これは亜美ちゃん、これが千早ちゃん…」
そして最後の箱に手を掛けてみると…
小鳥「最後のは…ええっ!?わ、私!?」
送り主にも何ら見覚えが無い。
小鳥「…品目は衣服…」
それは大きさの割に重い箱であった。
小鳥「開けてみましょう。衣服なら少なくともどうにでもなるわね」
ペリペリペリペリペリペリ
慎重にガムテープを剥していく小鳥。
パカッ
開けるとそこには…
小鳥「えっ…」
白いウエディングドレスが収められていた。
小鳥「ど、どど、どうして!?」
そこに…
Trrrrrr… Trrrrrr…
このタイミングを見計らったかのように電話がかかってきた。
小鳥「はいもしもし、765プロダクションです」
『もしもし、小鳥さんですか?俺です』
小鳥「プロデューサーさん、今どちらです?」
『今は仕事先から真達を家に送って事務所に戻るところですが…届いちゃいました?』
小鳥「この送り主ってもしかして…プロデューサーさんの関係者ですか?」
『はい、俺の親類からです。どうしても俺がデザインからやるって聞かなくて』
小鳥「これはど、どうするんですか?」
『今から預かりに行くんで置いておいてください』
小鳥「分かりました」
『あ、でももうすぐ使うことになるし…置いておいた方がいいですかね?』
小鳥「もう、そんなこと…」
『とにかくすぐに行きますから』
小鳥「分かりました」
カチャッ
小鳥「ふう…でも、ビックリ…ね」
あらためてそのドレスを見る小鳥。
小鳥「…ちょっとくらいなら、いいかしらね」
そう言った時には既に、小鳥の手には衣裳部屋の鍵があった。
………
「まさかこっちに送るとは、しかも相手の名前も言っちゃったとはいえなあ…」
苦笑いしながら事務所のドアの前まで来たプロデューサー。
ガチャッ
プロデューサーがドアノブを開けたその瞬間見たのは…
「小鳥さん遅くなりましたー…っ!」
小鳥「………プロデューサーさん…いいえ、○○さん」
そこに居たのは、ウエディングドレスと備品のアクセサリーを付けて待っていた小鳥だった。
「小鳥…さん」
小鳥「今さらこんな歳になって…着る機会が巡って来るなんて…ね」
「今さら…って、そんなことないですよ」
小鳥「こんな私でも…本当にいいの?」
「そんな小鳥さんだからこそですよ」
小鳥「…この衣装着たら色々考えちゃったわ。本当に貴方に私は相応しいのかしらって」
「相応しいとかそういう問題じゃないんだ」
ギュッ
小鳥を後ろから抱きしめたプロデューサー。
「俺が生涯愛したいと決めた人、それが小鳥なんだ」
小鳥「…○○さん…愛してます…」
「…小鳥…愛してるよ…」
チュッ
二人だけの事務室。いつしか顔だけ互いに向けて、自然と口付けが交わされていく…
………
「ところでこれ、どうします?」
小鳥「そうね…やっぱりここの衣裳部屋に入れておきましょ」
「そうですね。持って帰って型崩れとか虫食いとか怖いですし」
小鳥「ちゃんと管理、頼みますね」
「分かってますよ。何せもう俺のタキシードも入っちゃってるんで、そこに一緒にしておきます」
小鳥「ええっ!そんなの入ってるんですか?」
「1週間前に俺に荷物ありましたよね?あれですよ」
小鳥「あれってそうだったんですか、もうそれならそうと説明してください」
「まあいいじゃないですか」
確かな愛の確かめ合い、自分たちの愛にもう偽りなど無いと感じた二人だった…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
どもっ、飛神宮子です。
これが一番結婚時期に近いSSになりますかね。若干のマリッジブルーが入っています。
自分が本当に相手にふさわしい人なのか。みんなが売れて少し淋しくなっていた心にこの箱。
特に売れっ子プロデューサーが相手の小鳥は、自分が釣り合うのか考えちゃったんでしょうね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2010・10・20WED
飛神宮子
短編小説に戻る