ここは異国の土地。千早とプロデューサーの海外へと活動の場を移し、それが少しずつ芽生え始めてきた頃… |
P | 「どうした千早、疲れてるのか?」 |
千早 | 「えっ…そんなことは無いですが…」 |
P | 「俺の気のせいかもしれないけど、声の出方が何か弱々しく聴こえるんだけどな」 |
千早 | 「プロデューサー…な、何でも無いです」 |
P | 「いや、そんなことは無いはずだろ」 |
千早 | 「(どうしてこういうことには敏感なの?プロデューサー…)」 |
P | 「話してみろよ、俺は千早のプロデューサーなんだから」 |
千早 | 「でも…こんなことは話せません…」 |
P | 「そうやって自分に押し込めるなよ、それとも俺が信用できないのか?」 |
千早 | 「いえ、そうでは…分かりました。あの…思い切り声を出したいんです」 |
P | 「思い切りって…スタジオじゃなくてってこと?」 |
千早 | 「はい…」 |
P | 「そういうことか…分かったよ」 |
千早 | 「すみません、何だか私のわがままになってしまって」 |
P | 「いや、それを聞くのが俺の役目なんだからさ」 |
千早 | 「ありがとうございます…」 |
P | 「ちょっと待ってな。今、予定を確かめるから」 |
と、手帳を見るプロデューサー。 |
P | 「千早、明日から三日間のレッスンは全てキャンセルでいいか?」 |
千早 | 「えっ?プロデューサーがそう言うなら、私は構いません」 |
P | 「よし、それなら行くか。ちょっと遠出になるからな」 |
千早 | 「どこに行くんですか?」 |
P | 「どこに行くかは言わないけど、寒い場所なのは間違いないよ」 |
千早 | 「この時期に寒いとなると、山ですか?」 |
P | 「ああ、そうなるな。多少長旅になるから覚悟しておけよ」 |
千早 | 「分かりました」 |
P | 「他の準備は俺がしておくから、心配しなくていいからな」 |
……… |
翌日の昼… |
P | 「よし、準備は大丈夫だな?千早」 |
千早 | 「はい、問題ありません。何時間くらいですか?」 |
P | 「半日くらいだな、アメリカはやっぱり広いなと思うよ」 |
千早 | 「そうですね…」 |
P | 「寒かったり暑かったりしたら言ってくれ、適宜調節するから」 |
千早 | 「分かりました、プロデューサーも休みながらでいいですから」 |
P | 「分かってるって、長時間の連続運転は避けるよ」 |
千早 | 「お願いします…」 |
チュッ |
千早はプロデューサーへと軽く口付けをした。 |
P | 「ち、千早…」 |
千早 | 「あ、挨拶代わりです。それに頑張って欲しいですから」 |
P | 「サンキュ、千早」 |
千早 | 「それでは気を付けて、運転は任せます」 |
……… |
翌朝… |
つんつんつん |
千早の頬をそっと突くプロデューサー。 |
千早 | 「んっ…」 |
P | 「千早、朝だぞ。それに着いたぞ」 |
千早 | 「…おはようございます、プロデューサー…ここは…」 |
P | 「おはよう千早、まずこれを飲んで目を覚まして」 |
と、魔法瓶に入れておいた紅茶を差し出すプロデューサー。 |
千早 | 「はい…んぐっ…ここは…?」 |
P | 「そうだな、ヒント。俺たちが居たロス・アンジェルスのあるカリフォルニア州じゃない」 |
千早 | 「オレゴン州ですか?それともアリゾナ州?」 |
P | 「アリゾナ州だな。あ、もう入場料は払ってあるから」 |
千早 | 「と、なると…グランドキャニオンですか?」 |
P | 「そういうこと。折角アメリカなんだし、日本じゃ無理だろ?こんな場所」 |
千早 | 「…思い切り歌って…いいんですか?」 |
P | 「構わないさ。でもアカペラでいいか?演奏するものは持ってきてないからさ」 |
千早 | 「構いません。ただ…思い切り歌いたいだけですから…」 |
バタンっ バンっ |
車を降りた二人。目の前には峡谷が拡がっている。 |
千早 | 「…よしっ…」 |
深呼吸一つ、そして… |
千早 | 「♪〜」 |
千早の唇から…いや、全身から朝の峡谷へと歌が拡がっていく… |
|
3曲目を歌い終わった頃… |
千早 | 「ふう…あれ?プロデューサー?」 |
ふと千早が周囲を見回すと、何やら別の日本人と話し合っているプロデューサーの姿が。 |
千早 | 「どうしたんですか?プロデューサー」 |
P | 「千早、ちょうど良かった。その…な、あそこに見える物は分かるよな?」 |
千早 | 「そこ…って、テレビカメラ!?」 |
千早の視線の先、そこには…日本の朝○放送のカメラがあったのだ。 |
P | 「旅番組のロケで、グランドキャニオンに来ていたらしい」 |
千早 | 「まさか…私の歌声も入ってしまったとか…ですか?」 |
P | 「そのまさかだよ…」 |
千早 | 「ど、どうしたらいいのでしょうか?」 |
P | 「入った部分は音楽を被せるとか言ってるからいいんだけど、そのな…」 |
千早 | 「その?」 |
P | 「千早もここからのレポーターに加わってくれないかってさ」 |
千早 | 「わ、私がですか!?」 |
P | 「どうやら日本での人気はまだ衰えてないらしいんだって。春香とかが紹介してくれてるんだろうな」 |
千早 | 「こんな突然、私が入っても良いのですか?」 |
P | 「構わないってさ、あとは千早の気持ち次第だから。千早が嫌と言えば、簡単なインタビューだけで終わるってさ」 |
千早 | 「一つ聞いていいですか?」 |
P | 「ああ、いいぞ」 |
千早 | 「ここまでリポートしていたのは…あそこに居る…」 |
P | 「そういうことだ…こっちに来るとの連絡、社長には受けてなかったんだけどなあ」 |
……… |
某月某日の土曜日の朝のこと… |
春香 | 「見てください!この雄大な景色!2億年の歴史が作り上げた景色ですよ!」 |
春香N | 『目の前に拡がる雄大な景色、無限に拡がっているような感じさえ覚えます』 |
春香 | 「あれ?何か聴こえますね。ちょっと行ってみましょう…」 |
春香N | 『地元の方では無さそうですが、お話が聞けるかなーって思って行ってみました』 |
春香 | 「…この歌声、聞き覚えがあるような…もしかして…」 |
春香N | 『そのまま近づいていくと、そこに居たのは…』 |
千早 | 「は、春香っ!?ど、どうしてこんなところに!?」 |
春香 | 「千早ちゃんっ!!!」 |
ぎゅうっ |
春香N | 『えへへ、思わず抱き着いちゃいました。そうです、世界進出のために渡米していた如月千早ちゃんが、オフを利用してここに来てたんです!』 |
……… |
司会 | 「海外マンスリー、来週もアリゾナ州からです。天海春香さんありがとうございました」 |
春香 | 「あ、次回からこのシリーズ終わるまで、千早ちゃんも一緒ですよー」 |
司会 | 「それにしても元気そうだったね、如月さんも」 |
春香 | 「はいー、積もる話も色々話せちゃいました」 |
それから数週間、この番組の視聴率が上がっていたというのはまた別のお話である… |