未央 | 「おつかれーっ!」 |
事務所に残っている人に挨拶をして私は帰宅の途についた。 |
未央 | 「しぶりん、しまむー…今日も一緒にレッスンできなかったな…」 |
最近まで同じユニットでいつも一緒だった二人。何か思わず呟いちゃった。 |
未央 | 「二人とも今日はお仕事だったっけ」 |
夕日が私の身体で長い影を後ろに作っていた。 |
未央 | 「プロデューサーは次こそ未央の番だって言ってくれてたけどさ」 |
心に隙間が無いと言ったら嘘になるよ。1人でやるレッスンって淋しいしさ… |
未央 | 「もうすぐ、一年なんだよね」 |
私がオーディションでこの事務所に入ってから、もうそれくらいの月日が経っていたんだ。 |
未央 | 「………本当にこのままで、いいのかな…?」 |
最近の悩みはずっとこれ。どうしても、そうなっちゃうよね。 |
未央 | 「…帰ろ…また明日もあるんだし」 |
秋の夕空は足早に夜空の色へと変わり始めていた。 |
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未央 | 「おはよーっ!」 |
それから数日経ったある日。その日もレッスンのために事務所に来たんだけど、その日はちょっと騒がしかった。 |
未央 | 「どうしたの?みんな掲示板に群がってさ」 |
美羽 | 「あ、おはよう未央ちゃん!」 |
未央 | 「おはよ、みうみう。それでどうしたの?」 |
美羽 | 「コレ見てみんな騒いでたっていうかな」 |
私は掲示板に貼られていた一枚の紙を見た。 |
未央 | 「なになに、この紙を見た人は明日17時にレッスンルームに集合?伝えられる人がいたら伝えておいて?」 |
美羽 | 「うん。何するのかな?」 |
未央 | 「そろそろ月末から来月のイベントとか月末のグラビアに出る人の発表じゃないかな?」 |
美羽 | 「私は大きなお仕事だとハロウィンが最後だったなあ」 |
未央 | 「あのみうみう、凄く悩んでたよね」 |
美羽 | 「うん。衣装は自分で決めていいって言われると難しくて」 |
未央 | 「そういえば今月末は事務所の1周年のイベントって言ってたよね」 |
美羽 | 「いつもより絶対に盛大にやるから、メディアへの露出も多くなるだろうってそれでさっきまでね」 |
未央 | 「そっか、もう1年経つんだね」 |
美羽 | 「早いね、1年って」 |
未央 | 「でもみうみうはいいよねー、私なんかまだ全然大きなお仕事できてないし」 |
美羽 | 「未央ちゃんもすぐできるってー」 |
未央 | 「そっかなー、へへんっ」 |
美羽 | 「だってプロデューサーさんからお話とかあったんだよね?」 |
未央 | 「そうだけど…こんだけ待ってると本当なのか分かんないもん」 |
美羽 | 「大丈夫だよ。でもこれだけ待ってると見返りも大きいかもね」 |
未央 | 「それならいいけどねー。あ、くみねぇには連絡取った?」 |
美羽 | 「私はまだだけど、未央ちゃんが連絡とる?」 |
未央 | 「みうみうがまだ取ってないなら私が取っておくね」 |
美羽 | 「うん」 |
これが本当に激動の始まりだなんて、この時の私は思ってもなかった。 |
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翌日のレッスンルーム、事務所のみんなが割と全員来てるみたい。 |
未央 | 「うーん、私にはお仕事来そうにないなぁ…」 |
順番に発表されていたお仕事だけど、私の名前はそこにはなかった。 |
統括P | 『最後に、ここにいる人で呼ばれた人は残っていてください』 |
今みんなの前で話しているのは、全体を統括しているプロデューサーなんだけど、月末のグラビアとかメインになるのは必ず最後に別でやるんだ。 |
統括P | 『荒木、五十嵐、佐城、原田、星、本田、三船…以上…っと、こっちもだな』 |
未央 | 「え?私…名前呼ばれたよね?嘘じゃないよね?」 |
一瞬きょとんとしちゃったけど、横にいた美羽の顔で確信できた。 |
美羽 | 「未央ちゃん、良かった…良かったね…」 |
未央 | 「み、みうみうが泣かないでよぉ…」 |
ぎゅっ |
いつの間にか美羽も私も嬉し涙なのかな?流しながら抱き合って喜んでたよ。 |
統括P | 『こらそこもそこも騒がしいぞ』 |
統括プロデューサーの言葉がまだ続いていた。 |
統括P | 『あと川島さん、小日向、多田、十時、以上の4名も別に話があるので残っていてください。では解散です』 |
美羽 | 「未央ちゃんどうしよう、一緒に帰る予定だったけど…」 |
未央 | 「待たせるのも悪いから、先に帰った方がいいんじゃない?時間も遅くなるんだよね?」 |
美羽 | 「前の私の時もそうだったからそうじゃないかな。うん、そうさせてもらおうかな」 |
未央 | 「それじゃあこの話はまた夜にメールするから」 |
美羽 | 「うんっ」 |
私は統括プロデューサーの許へと向かっていった。 |
……… |
統括P | 「よし、これで全員か」 |
統括プロデューサーの前には私を含めて何人かが来ていた。 |
統括P | 「分かっているとは思うが、今回の月末のグラビアはここにいる6人…と、荒木はどうした?佐城は小学生組だから早めに帰したが」 |
瑞樹 | 「比奈ちゃんは今日来るには厳しいって、私に連絡があったわ」 |
統括P | 「そうですか川島さん。それなら後で担当から連絡取ってもらうか…」 |
瑞樹 | 「私も待っている間に連絡取るわね」 |
統括P | 「ありがとうございます、お願いします。それで今月末は少し早いがクリスマスがテーマになる」 |
輝子 | 「クリスマスは…ぼっちにも…やってくる…フヒ…」 |
統括P | 「こら、そういうこと言うな星。それでグラビアのメインは…」 |
ごくり… |
私の他にもみんな息を飲んだ。 |
統括P | 「まずは五十嵐」 |
響子 | 「私なんかがメインで、いいんですか?」 |
統括P | 「ああ。家庭的なものが欲しくてな。そしてここにはいないが佐城、あと…」 |
プロデューサーはそこで一拍置いて… |
統括P | 「本田、初の大仕事だな。頑張って来い」 |
未央 | 「………」 |
統括P | 「どうしたんだ?」 |
未央 | 「す、すみません!思っていた以上だったからポカンってしちゃって」 |
あまりの事態に思わずポーっとしちゃった。感動もしてたんだと思う。 |
統括P | 「そうか。まあ詳しい話や書類は各人の担当プロデューサーに確認して欲しい」 |
グラビア組 | 『はい』 |
統括P | 「よし、グラビア関係の面々はこれで解散。あと、本田はまだ話があるからこのまま残ってくれ」 |
未央 | 「私だけですか?」 |
統括P | 「いや、川島さんたちもこっちにお願いします」 |
響子たちが帰された後、今度は李衣菜たちが来た。 |
李衣菜 | 「私より先にみおちゃんが月末のグラビアメインかぁ、羨ましいぞこのこのっ」 |
未央 | 「りーなだって先にやったじゃん」 |
李衣菜 | 「私はメインまだだもん。最初からメインなんて凄いじゃん」 |
統括P | 「はいはい、そこまで。まあこの人数で勘付いた人もいるかもだがな」 |
瑞樹 | 「この5人で決まったってことかしら?」 |
統括P | 「はい。ではあらためて…小日向」 |
美穂 | 「はいぃっ!」 |
統括P | 「多田」 |
李衣菜 | 「はいっ」 |
統括P | 「十時」 |
愛梨 | 「は〜い」 |
統括P | 「川島さん」 |
瑞樹 | 「はい」 |
統括P | 「本田」 |
未央 | 「はいっ!」 |
統括P | 「君たち5人のソロCDデビューが決まった。5人ともおめでとう」 |
その言葉に、私はついに耐え切れなくなったのかな… |
ガクッ |
足の力が入らなくなって膝から崩れ落ちちゃった。 |
未央 | 「……んっ…」 |
みんなに顔見せなんてできないくらい、私は顔を覆った手の中で今日何度目か分からない涙を流していた。 |
愛梨 | 「未央ちゃん、大丈夫〜?」 |
未央 | 「ごめん…とときん。急にいっぱい……んっ…」 |
ぎゅうっ |
そんな私の顔はいつの間にか愛梨の胸の中にいたみたい。 |
愛梨 | 「未央ちゃんなら絶対大丈夫です。これは未央ちゃんが自分に負けないで信じ続けた結果…なんです」 |
未央 | 「とときんっ…うんっ、私…アイドルの扉…開けてみるよ…!」 |
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その後のことなんだけど、私のプロデューサーのこと事務所の屋上に引っ張ってきちゃった。 |
未央 | 「ねえ、プロデューサー」 |
担当P | 「どうした、未央」 |
星空と夜景を見ながら…ちょっとロマンチックだったかな。 |
未央 | 「まだスタートラインに立っただけなんだよね」 |
担当P | 「やっと未央のこと、そこに立たせることができたよ」 |
未央 | 「これから、どんな世界が拡がってるのかな?」 |
担当P | 「それは分からない。これから歩き出す未央しだいさ」 |
未央 | 「プロデューサー!」 |
ギュっ |
私はプロデューサーに背中から抱き付いちゃった。そして… |
未央 | 「これからも、プロデュースお願いしますっ」 |
担当P | 「ああ、きっとトップアイドルに導いてみせるさ」 |
未央 | 「………うん」 |
担当P | 「未央達は最初に俺が任された3人だからな」 |
未央 | 「………へ?…さんに…」 |
担当P | 「卯月、凛、そこにいるんだろ?」 |
顔だけ後ろに振り返ったら… |
凛 | 「未ー央ー!」 |
卯月 | 「未央ちゃん!」 |
未央 | 「あれ?あれあれ?しぶりんもしまむーも、目がいつもと何か違うような気がするんだけどなー」 |
凛 | 「抜け駆け無しって約束!」 |
卯月 | 「未央ちゃんだけずるいです!」 |
未央 | 「こ、これは違うって!嬉しかったからってだけでっ!」 |
凛 | 「…卯月、これくらいでいいかな」 |
卯月 | 「…はい、凛ちゃん」 |
二人の目はそういうことを言う目じゃないって何となく分かってたよ。 |
凛 | 「未央おめでとう、決まったんだよね…?」 |
卯月 | 「おめでとうございます、未央ちゃん。私も…私のことみたいに嬉しくて…」 |
未央 | 「うんっ!しぶりんもしまむーもありがとう!私、やるよ!」 |
その瞬間、私の心に新しい風が吹き込んだのを感じた。 |
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それからだけど、その日から世界が一変しちゃった。 |
レッスンも厳しくなったし、アイドルとしての活動も忙しいけど…全てがさらに充実してるんだ。 |
ねえ、プロデューサー。本田未央、今とっても楽しくて幸せだよ! |