未央 | 「うわー、これは降ってきちゃったねー」 |
美穂 | 「ごめんなさい未央ちゃん、わたしがずっと迷ってたからだよね…」 |
未央 | 「私が誘われたのに乗っちゃったのも悪いんだからおあいこだよ」 |
美穂 | 「未央ちゃんは趣味がショッピングだから、わたしに似合いそうなの選んでくれる気がしたんです」 |
未央 | 「まあそれで似合いそうなのは買えたんだけど…ねえ」 |
美穂 | 「そうだけど…」 |
ザーーーーーーーーー |
事務所を出た時には降っていなかった雨、今は空からバケツをひっくり返したような雨が降りしきっている。 |
未央 | 「これ止むかなあ…」 |
美穂 | 「しばらくは無理そうだし傘は…」 |
未央 | 「このお店のはオシャレ用のだから高いよね」 |
美穂 | 「この買った服と同じくらい…みたいだね」 |
美穂 | そのまま雨宿りをさせてもらっていた店の中を覗くと4桁の値段を付けた傘が傘立てに並んでいた。 |
未央 | 「それならコンビニは、ちょっと遠いかあ」 |
美穂 | 「あのコンビニに行くまでにずぶ濡れになっちゃいそう」 |
未央 | 「さすがに次いつ来るか分からないお店の人に借りていくわけにもいかないし…」 |
美穂 | 「困っちゃったね。今はプライベートだからプロデューサーさんに来てもらうのは違うよね」 |
未央 | 「それにプロデューサーは今日までトラプリのお仕事だって言ってたからね」 |
美穂 | 「誰か知り合いの人が近くにいるなんてことは…ないよねぇ」 |
未央 | 「そんな奇跡があったら今こんなに困って無いけどさ」 |
そこに… |
ビビーーー |
雨とドアに掻き消されて二人の耳には環境音程度に小さくなったクラクションの音が響いた。 |
未央 | 「みほちーはこの後何か予定とかあるの?」 |
美穂 | 「わたし?わたしはもう寮に帰って明日のレッスンの準備かな」 |
未央 | 「寮かぁ…私は家が近いからどんな場所かは気になるなあ」 |
美穂 | 「未央ちゃんのユニットの人に寮の人はいないんだっけ」 |
未央 | 「うんっ。一番遠いあかねちんも栃木で関東だからね」 |
美穂 | 「3つも所属しているのにそういうのっては珍しいね」 |
ビビーーー |
未央 | 「ん?そういえば何だろう、またクラクションの音が聞こえた気がするけど」 |
美穂 | 「えっ?クラクション?わたし全然気付いてなかったけど…」 |
未央 | 「たぶんそこでハザード点けてるあの車かな?」 |
ビビーー |
未央が反応したことに気が付いたのかその車の主はもう一度短くクラクションを鳴らした。 |
未央 | 「曇ってちゃんとは見えないけど中で手を振ってるし、私達のことを呼んでるみたいだよ」 |
美穂 | 「それなら行った方がいいかもね」 |
未央 | 「それじゃあちょっとだけ濡れる覚悟で雨に突入しよっ!」 |
美穂 | 「うんっ」 |
二人はその車へと向かってダッシュをした。 |
……… |
?? | 「えっと、未央ちゃんと…美穂ちゃんだよね?」 |
美穂 | 「は、はい!そうです…ありがとうございます」 |
未央 | 「はい!ありがとうございます!」 |
二人はその車の後部座席へと急いで乗り込んだ。そして二人がシートベルトを締めたのを確認するとその車は走り出した。 |
?? | 「良かったぁ…人違いだったらどうしようかと思ってたんだ」 |
未央 | 「どうして私達の名前を…?あれ、でもどこかで何か聞き覚えがある声のような…」 |
?? | 「ちょうど車で事務所に向かう途中で、困ってそうだったからねっ♪」 |
美穂 | 「事務所…ということはわたし達の事務所の人ですよね?」 |
未央 | 「あーっ!思い出したっ!私の最初のグラビア撮影で同じグラビアだったー!」 |
?? | 「良かったっ、未央ちゃんが憶えててくれて」 |
未央 | 「はらみー、本当にありがとー!」 |
美穂 | 「え?はらみーって…えっ!?」 |
美世 | 「二人ともこんにちは、美穂ちゃんとは初めましてかな?同じ事務所だからどこかで顔は合わせてるかもだけどっ」 |
美穂 | 「いえこちらこそ、こうやってちゃんとお話は初めてかもですから。小日向美穂です」 |
美世 | 「あたしは原田美世だよ。よろしくね美穂ちゃん」 |
美穂 | 「はい…今日はありがとうございます、美世さん…ってああっ!名前は失礼だったですか?」 |
美世 | 「ん?別に名前の方が呼ばれなれてるからそれでいいよっ。あたしだって最初から名前で呼んじゃってるし」 |
未央 | 「でもはらみー、私とみほちーのことよく気が付きましたね」 |
美世 | 「さっきこの近くのガソリンスタンドにいたんだけど、二人のこと見たって噂してたからまだ近くに居そうだなって♪」 |
未央 | 「うそっ!変装してたのにバレてたっ!?」 |
美穂 | 「そうみたいだね未央ちゃん、帽子とか伊達メガネもちゃんとしてたのにそれでもダメだったのかな」 |
美世 | 「だから来てそうな店の通りに入ったら案の定ね」 |
未央 | 「本当にありがとうございます。私達このまま閉店まで帰れないかと思っちゃったよね」 |
美穂 | 「この雨で駅まで行ってずぶ濡れのまま電車とかは迷惑ですし」 |
未央 | 「曇りでもつかなーって思ったんですけどやっぱり梅雨の時期は分かんないなぁ」 |
美世 | 「あたしも今日はこのまま雨はやだなあ」 |
美穂 | 「美世さんは今日はどうされたんですか?」 |
美世 | 「あたしは今日の夜に事務所で取材が入ってるのと、連載の原稿チェックがあるからこれから事務所なの」 |
未央 | 「連載って車雑誌のですよね?」 |
美世 | 「あっ、未央ちゃん読んでくれてるんだ♪」 |
未央 | 「はい。レッスンルームとかロビーの雑誌ラックに入ってるのをたまにですけど」 |
美穂 | 「連載してるのが全部あるから凄い量だよね。他部門の人のもあるし」 |
美世 | 「あたしも暇な時は読んじゃうな。あの量だともう空き部屋使って図書室でも作るとかした方が良さそうだけどね」 |
未央 | 「本も本棚にいっぱいだから大変ですよねー」 |
美穂 | 「確か本が好きなのは…鷺沢さんだったかな?もし図書室が出来たら入り浸りそうです」 |
未央 | 「あー、ふーみんだったらありそうかも」 |
美世 | 「346プロって大きいからまだ一度も会った事ない人がいそうだよね♪」 |
美穂 | 「アナウンサー部門とかアスリート部門とか私達とは縁遠そうですよね」 |
未央 | 「全部の人スマホに入れたらとてもじゃないけど電話帳入りきらないよー」 |
美世 | 「あ、そういえば未央ちゃん達はこのまま事務所でいいのかな?」 |
未央 | 「はいっ。私は事務所に置いてた荷物を持って帰らないとなんです」 |
美穂 | 「わたしはこのまま寮なんで事務所で大丈夫です」 |
美世 | 「そっか、それなら遅くならない方がいいね♪」 |
3人が乗った車はそのまま事務所へと向かっていく… |
……… |
未央 | 「ただいまーっ!」 |
美穂 | 「ただいまです」 |
そしてアイドルルームへと帰って来た美穂と未央。 |
卯月 | 「美穂ちゃん、未央ちゃんお帰りなさい。雨、大丈夫でした?」 |
未央 | 「大丈夫だったよしまむー」 |
卯月 | 「でも傘は持ってってなかったですよね」 |
美穂 | 「それはですね卯月ちゃん…」 |
美世 | 「おじゃまします♪」 |
美世も二人についてきたようだ。 |
卯月 | 「えっ?えっと…」 |
茜 | 「あーっ、美世さん!お久しぶりです!」 |
美世 | 「あっ、そういえば茜ちゃんもここだったんだ。うん、お久しぶり♪」 |
未央 | 「あれ?茜ちんもはらみーのこと知ってたんだ」 |
茜 | 「はい!以前ロワイヤルでご一緒させてもらいました!」 |
未央 | 「そっかー」 |
卯月 | 「んーと…美世さん…美世さん?」 |
美世 | 「うーんと、卯月ちゃんだっけ?」 |
卯月 | 「あ、はい、そうです」 |
美世 | 「卯月ちゃん関係だと…響子ちゃんとは共演があるんだけど」 |
未央 | 「そっか、私と同じグラビアのメインでしたよね」 |
美穂 | 「グラビア…あのもしかしてクリスマスの時のですか?」 |
美世 | 「美穂ちゃん正解っ♪未央ちゃんと響子ちゃんと…雪美ちゃんだったかな?その時にあたしも出てたんだ」 |
卯月 | 「そうだったんですか、えーっと…」 |
美世 | 「あ、自己紹介まだだったね。あたしは原田美世。卯月ちゃんのことは色んなとこでよーく聞いてるよ♪」 |
卯月 | 「あ、ありがとうございます!美世さん…でいいのかな…?」 |
美世 | 「うん、卯月ちゃんの好きに呼んでくれていいからね」 |
卯月 | 「はいー。それで未央ちゃん達を…車だったんですか?」 |
美世 | 「ちょうど道で通りかかったところで二人を見掛けて、それで二人を捕まえて来ちゃった」 |
茜 | 「そうだったんですか!未央ちゃん良かったですね」 |
未央 | 「本当に困ってたから助かったよー茜ちん」 |
美穂 | 「そういえば美世さん、この後取材だったんじゃないですか?」 |
美世 | 「まだ時間はあるけど、そろそろ原稿チェックもあるから自分のアイドルルームに行こうかな♪」 |
未央 | 「はらみー、今日は本当にありがとうございましたっ!」 |
美穂 | 「美世さん本当に助かっちゃいました。乗せてくれてありがとうございました」 |
美世 | 「どういたしまして、それじゃあまたね。あ、響子ちゃんにもよろしく言っておいてほしいな」 |
美穂 | 「分かりました。伝えておきますね美世さん」 |
ガチャっ バタンッ |
美世はそのまま自身のアイドルルームへと戻っていった。 |
茜 | 「いやー、未央ちゃんも美穂ちゃんも大変でしたね!美世さんが来てくれて良かったです」 |
未央 | 「本当に助かったよ。この後お仕事だったらと思うとゾッとしたもん」 |
卯月 | 「美穂ちゃん、その服は未央ちゃんの選んだものですか?」 |
美穂 | 「うん。未央ちゃんも加蓮ちゃんもセンスが良くて羨ましいよぉ」 |
未央 | 「そんなことないってばみほちー、私はただショッピングが好きなだけだし…」 |
卯月 | 「でも未央ちゃんと美穂ちゃんが二人でって珍しいなって思います」 |
未央 | 「しまむーが繋いでくれた縁だよね」 |
美穂 | 「そうだね、卯月ちゃんがいなかったらこうやって一緒に買い物とかもなかったね」 |
未央 | 「あれ?どうしたの茜ちん、さっきから難しい顔してるけど」 |
茜 | 「未央ちゃん…美穂ちゃん、それに美世さん…何だか名前が似てる気がします!」 |
三人 | 『………あーっ!!!!』 |
その日一番の驚きの声が事務所のとあるアイドルルームに響いたという… |