ここは寮の事務室。この木曜日は大事な書類の入力の日。 |
事務員 | 「さてと、今週の帰省・諸活動は…ネット経由の登録分の確認っと…」 |
あ、私はこの346プロのアイドル寮の事務員です。この私は基本的に日・月・水・木曜日の担当をしています。 |
事務員 | 「この子はいつものラジオね。それと…この子はラジオじゃなくてテレビのリポーターねえ…」 |
毎週木曜日、いつもは学生の方を送り出している時間ですが今日はまだ夏休みみたいです。 |
事務員 | 「これが昨日までのここへの提出分ね」 |
決まって毎週この木曜午前中はこのチェックをしています。 |
事務員 | 「これから紙の分の入力して今週分のリスト化ね…」 |
そこでふとあることに気が付いたの。 |
事務員 | 「そういえばほとんど見たことが無いわ…」 |
何をというと手書きで帰省届とかを見たことが極端に少ない子が何人かいたの。 |
事務員 | 「どうしてかしら…今度事務に来た時に聞いてみましょ」 |
カタカタカタカタカタカタ |
私は宅配の受け取り等もこなしつつ、入力等の事務作業も並行して事務もして…木曜日のこの時間が週の中でも大変な時なのよね。 |
……… |
さて次は宅配・郵便物のリストを昨日のと合わせてサイトに登録と掲示しておかないとね。 |
そんなことを考えてると誰かやって来たみたい。 |
美由紀 | 「こんにちはー!」 |
事務員 | 「こんにちは柳瀬さん。今日はどうしたの?」 |
美由紀 | 「お母さんが今日届くように荷物送ったって言ってたから取りに来ましたっ」 |
事務員 | 「柳瀬さんね…部屋番号も教えてもらえる?」 |
美由紀 | 「S−212ですっ」 |
事務員 | 「Sの2階のは…あったわ。この箱ね」 |
美由紀 | 「ありがとうございまーす」 |
事務員 | 「それじゃあここに受け取りのサインを貰えるかしら?」 |
美由紀 | 「あの、印鑑でもいいですか?」 |
事務員 | 「もちろんよ、この自分の場所に押してね。朱肉はそこにあるわ」 |
そういえばこの子、手書きの諸活動届とかはほとんど見ない一人ね… |
事務員 | 「そういえば柳瀬さん、一つ聞いていいかしら」 |
美由紀 | 「はーい」 |
事務員 | 「柳瀬さんってこういう時はいつも判子よね。手書きにはしないの?サインでもいいのに…」 |
美由紀 | 「判子ならポンってやるだけで終わるから、もうそれで慣れちゃったんです」 |
事務員 | 「そうなのね…ということはいつも持ち歩いたりしてるの?」 |
美由紀 | 「ちゃんとしたのはみゆきの部屋にあるけど、シャチハタのは筆入れに入れて持ってまーす」 |
事務員 | 「なるほどねえ…ゴメンね急にこんなこと聞いちゃって」 |
美由紀 | 「ううん、いいのっ。お荷物ありがとっ」 |
事務員 | 「はい。気を付けて持っていってね」 |
……… |
それから荷物と手紙の到着リストを掲示して専用サイトにアップした後、しばらくしてやってきたのは… |
歌鈴 | 「わわっ!」 |
ツツツツツツツ バタンッ |
あらら、事務室の前で盛大に転んじゃって。ワックス掛け立てだったものね… |
歌鈴 | 「あいたたたぁ…また転んじゃいましたぁ…」 |
事務員 | 「大丈夫かしら?道明寺さん」 |
歌鈴 | 「あ、ひゃいっ!いつものことなんで慣れてましゅ…あうう…」 |
事務員 | 「道明寺さんは…手紙の受け取りね?」 |
歌鈴 | 「はい、届いてましたよね」 |
事務員 | 「ええ、この二通よ」 |
歌鈴 | 「ありがとうございます、向こうの友達が一昨日送るって話だったんです」 |
事務員 | 「でも道明寺さん、今週帰省されるのよね」 |
歌鈴 | 「あ、はい。急遽なんですけれど土曜日に実家の神社の方でお手伝いしなくてはいけなくて…」 |
事務員 | 「あらどうして?」 |
歌鈴 | 「神前式で巫女をするんです。いつもは勤めている方がやるんですけどどうしても都合つかなくって」 |
事務員 | 「実家の都合とはいえ大変ねぇ。あ、その受け取りのところにサインお願いできる?」 |
歌鈴 | 「印鑑でもいいですよね」 |
事務員 | 「ええ、もちろん」 |
そういえばこの子も判子が多いわね… |
事務員 | 「道明寺さんも判子なのね。さっきの柳瀬さんもそうだったけれど」 |
歌鈴 | 「サインよりこっちの方が受け取ったって感じがするのもありますし…」 |
事務員 | 「この寮は苗字が同じ人がいないからそれでもいいけれどね」 |
歌鈴 | 「はい。ありがとうございまひた…あうまた噛んだぁ…」 |
事務員 | 「気をつけてね、さっきみたいにまた転ばな…」 |
ツツツツツ びたんっ |
歌鈴 | 「あうううう…」 |
言うより前に転んだなら何も言えないわ… |
……… |
それからしばらくして来たのは… |
詩織 | 「あの、すみません…」 |
事務員 | 「どうしたの?瀬名さんよね」 |
詩織 | 「その…帽子の落し物ありませんでしょうか…?」 |
事務員 | 「どんな形の帽子かしら…ちょっと待ってて」 |
忘れ物・落し物の棚は…ここで、帽子は…何個か。これもまたリストアップしてサイトに掲載と掲示しておかないと。 |
詩織 | 「白い大き目のハットで…水色のリボンがあるものです…」 |
事務員 | 「その特徴だと2つ届いてるわね」 |
私は瀬名さんに二つの帽子を差し出したわ。 |
詩織 | 「その…両方です」 |
事務員 | 「へ?」 |
詩織 | 「両方とも私のなんです…」 |
事務員 | 「これが二つとも瀬名さんのなのね」 |
詩織 | 「はい…。失くした後に買ったほうもまた失くしてしまっていて…」 |
事務員 | 「番号は……と……だから、こっちは屋上でこっちは談話スペースみたいね」 |
詩織 | 「ありがとうございます…二つとも戻ってきて良かった…」 |
事務員 | 「それじゃあここに受け取りのサインをお願いね」 |
そういえばこの子も手書きの届けは見ないわね。 |
詩織 | 「その…印鑑でもいいでしょうか」 |
事務員 | 「いいわよ、それにしても今日は判子を使う子が多いわ」 |
詩織 | 「そうですか…?」 |
事務員 | 「昼前くらいに来たけど、何人か来た中で柳瀬さんと道明寺さんも判子だったの。だから今日3人目よ」 |
詩織 | 「…そうでしたか。私もついつい楽な方を選んでしまってますね…」 |
事務員 | 「楽な方?」 |
詩織 | 「それは…」 |
後ろの掲示板にある荷物到着者の掲示を見た瀬名さん。 |
詩織 | 「まだきっと私みたいに印鑑の人が二人来ますから…きっと」 |
事務員 | 「え?」 |
詩織 | 「それでは失礼します…」 |
事務員 | 「ちょ、ちょっと待って瀬名さん」 |
行っちゃった…。でもこの後本当に二人印鑑の人が来るなんてね…真相はこの後知ることになるんだけれど。 |
……… |
事務の仕事をしながら瀬名さんに言われた言葉の意味を考えていると… |
穂乃香 | 「すみません、荷物の受け取りに来ました」 |
事務員 | 「綾瀬さんね。部屋番号は確かS−211よね」 |
穂乃香 | 「はい。でもどうして…」 |
事務員 | 「今週ラジオの収録で届出してるでしょう?午前中に確認してたから」 |
穂乃香 | 「あ、はい。でも今週はテレビのリポーターとして帰る予定なんです」 |
事務員 | 「ああ!そういえばラジオでの届出は桃井さんの方だったわ」 |
穂乃香 | 「忍ちゃんもですけど、2X時間テレビの地元局の方に頼まれまして…」 |
事務員 | 「頑張って行ってらっしゃい。結構今週はそういう理由で帰省の子も多いのよ」 |
穂乃香 | 「おそらく寮の半分くらいは不在かもしれないです。私の階も半分くらいは行くみたいですから」 |
事務員 | 「今週の寮は寂しくなるわねえ…月曜まで静かになりそう」 |
穂乃香 | 「お土産買ってきましょうか?」 |
事務員 | 「いいのいいの、そんな気を使わなくたって。あ、そうそう荷物よね…Sの2階は…この箱とこの紙袋よ」 |
穂乃香 | 「ありがとうございます。当日入りなので寮から直接持っていかないといけないものがあって…」 |
事務員 | 「お仕事大変ね、テレビで映るの楽しみにしてるわ」 |
穂乃香 | 「中継局の時にちゃんと映れればいいですけど、そればかりはカメラさん次第ですから」 |
事務員 | 「そうね…あ、これにサインお願い…って綾瀬さんも印鑑なのね」 |
この子も手書きの届けは見ない子の一人。階長の一人だから他の人よりはまだ少なくないけれど。 |
穂乃香 | 「私…も?」 |
事務員 | 「これで今日印鑑で確認は4人目なの。柳瀬さん、道明寺さん、瀬名さんに綾瀬さんよ」 |
穂乃香 | 「そのメンバーでよく分かりました。みんなきっと気持ちは同じですし」 |
事務員 | 「気持ちが同じ?」 |
穂乃香 | 「はい。今日あの荷物のところに書いてある人に聞けばきっと分かりますよ」 |
綾瀬さんはそう言いながら荷物の一覧表を指したの。 |
事務員 | 「さっき瀬名さんが言ってたの。『あと印鑑の人が二人いる』って」 |
穂乃香 | 「その方や瀬名さん、美由紀ちゃんや歌鈴ちゃんともそのことでたまにお話しますから」 |
事務員 | 「昔は鷹富士さんも印鑑だった気がするわ。縁起良さそうな印影だったわね」 |
穂乃香 | 「フルネームだともっと縁起良さそうです」 |
事務員 | 「確かにそうよねえ…」 |
……… |
しばらくした後、また一人アイドルが荷物を引取りに来たわ。 |
美紗希 | 「すみませ〜ん、代引きをお願いしてた荷物受け取りに来ましたぁ♪」 |
事務員 | 「衛藤さんね。まずは…」 |
事務の金庫を開けて中の封筒…っと。 |
事務員 | 「代引き料金のお釣りよ」 |
美紗希 | 「ありがとうございますぅ☆」 |
事務員 | 「衛藤さんはカードとか持たないの?そっちの方が支払いとかは楽でしょう?」 |
美紗希 | 「この職業とか、いつ終わっちゃうかも分からないですからぁ♪」 |
事務員 | 「まあそうよねえ…実際続けられるかは本人の意志次第という話だもの」 |
美紗希 | 「安定した状態になれるまでは、こうやって現金でやり取りした方が安心ですぅ」 |
事務員 | 「そういうところがしっかりしているのも女子力なのかしらね」 |
美紗希 | 「そうですかぁ?」 |
事務員 | 「たぶんそういうものなのよ。それで衛藤さんは…」 |
美紗希 | 「T−207ですぅ☆」 |
事務員 | 「T…Tの2階の…これね。また本かしら?」 |
美紗希 | 「ちょっと面白そうな資格があったから、それに挑戦してみようかなぁってぇ」 |
事務員 | 「へえ、どんな資格なの?」 |
美紗希 | 「それは秘密ですよぉ」 |
事務員 | 「教えてくれてもいいじゃない…まあいいわ。それで受け取りのサインをお金と荷物の別々にここにお願いね」 |
美紗希 | 「それならサインの代わりに印鑑でいきますぅ♪」 |
事務員 | 「ということは衛藤さんのことだったのね」 |
美紗希 | 「あたしに何かあったんですかぁ?」 |
事務員 | 「今日は道明寺さんとか柳瀬さんとか、印鑑をサインの代わりにする人が多かったのよ」 |
美紗希 | 「あぁ、その気持ちは分かるかもぉ♪」 |
事務員 | 「それで瀬名さんがあと二人印鑑の人がいるって」 |
美紗希 | 「それってもう一人は穂乃香ちゃんですよねぇ☆」 |
事務員 | 「ええ、よく分かったわね」 |
美紗希 | 「この受け取り用の紙が悪いんですよぉ♪」 |
事務員 | 「えっ…?」 |
美紗希 | 「ここに受け取りのサインをフルネームか印鑑って書いてありますよねぇ」 |
事務員 | 「確かにそうね」 |
美紗希 | 「あたしとか穂乃香ちゃんとかみんなぁ、漢字でフルネームを書くと画数が多いんですぅ♪」 |
事務員 | 「ああっ、みんなそれでだったの!」 |
私は試しに印鑑をサイン代わりにした5人と鷹富士さんの名前を漢字で書いてみたわ。 |
美紗希 | 「あたしがアイドル部門だと一番多いんですよぉ☆」 |
事務員 | 「これは書くだけで億劫になるわね」 |
美紗希 | 「美由紀ちゃん、歌鈴ちゃん、詩織ちゃん…あと確かぁ寮以外だと茄子ちゃん、琴歌ちゃんも50画以上なんだぁ♪」 |
事務員 | 「フルネームだと大変になるのねえ…」 |
美紗希 | 「穂乃香ちゃんは憶えててあたしより1画少ない59画、あたしが60画なのぉ」 |
事務員 | 「参りました…」 |
美紗希 | 「館長だった頃は大変だったよぉ。手で書く機会も多かったしぃ」 |
そうだった…この子も昔は寮の役員の一人だったのよね。 |
美紗希 | 「だからぁ、今度からこの紙とか確認くらいなのは苗字だけでよくしてほしいなぁって♪」 |
事務員 | 「アイドル寮で同じ苗字の人がいるわけでもないし、事務の方で検討しておくわね」 |
美紗希 | 「やったぁ☆」 |
アイドルのああいう嬉しそうな表情を見ると、ちゃんとやらなきゃって思った事務の私でした… |