Here is Vestige(ここに残る名)

その日、私は不思議な夢を見た−−−
???『もう、お別れだね』
それは隣にいた人が少しずつ崩れていく夢−−−
「えっ…ちょっと…」
手を伸ばしてもどうしても届かなくて…
???『今までこうして居させてもらえて、嬉しかったんだ』
まるで最初から砂で出来ていたかのように、人の形だったものが風に溶けていく…
「あなたは誰…?誰なのっ…?!」
私から顔を背けるようにその人は消えて…
???『今までありがとうね、凛ちゃんはずっと頑張って…』
その私の頭の上に乗っていたのは、その人の残した…
 
ガバッ
そこで私は目を覚ました。こんな夢を見てたら寝てなんていられないし…
「はあ…はあ…何だったんだろ」
動悸はまだ収まってない感じがする。
「どうしよう…何か悪い夢じゃなければいいけど…」
どうすればいいんだろう…こういう時少し不器用な自分が恨めしい。
「えっと…今は何時?」
ベッドの近くに置いてある目覚まし時計、時間はまだ真夜中を示していた。
「寝よ。明日は休みだけど事務所には行きたいし」
これが今日のことを予感していることなんて、その時の私は想像もしてなかった…
 
翌朝…
ここは凛の家でもある花屋の店先。
「お母さん、事務所行ってくる」
凛母「あら?今日は休みじゃなかったの?」
「どうしてもってわけじゃないけど、確認したいこともあるから」
凛母「帰りは何時くらいになりそう?」
「分からない…帰れる頃に電話するね」
凛母「昼ご飯は食べてらっしゃいね」
「分かった、そうする」
凛は夜のことを少し気にかけながら事務所へと歩みを進めた…
………
ガチャっ
「おはようございます」
ドアを開けて事務所へと入る凛。
「おはよー!」 「おはようございます、渋谷さん」 「凛ちゃんおはよっ」
いろいろな所から声がかかる。大所帯だから何だかんだ誰かいるわけで…
P(武内P)「渋谷さんおはようございます」
そこに凛のプロデューサーもいた。
「おはようございます、プロデューサー」
「今日の渋谷さんは特に予定は無かったかと思いますが」
「何となく来ただけだから、自主レッスンもしたかったし」
「そうですか…今日は島村さんも本田さんも一緒にオフの予定でしたので」
「それなのにどうしてみんな揃っているんだろう」
よくよく見回せばオフの人も大体は遊びに来たりしているようだ。
「皆さん雰囲気が好きだとか言っていましたが…」
「そっか…」
「それで自主レッスンとのことですが…部屋の空きを確認するので少しだけ時間を貰えればと」
「ううん、それは自分で確認するから。プロデューサーは自分の仕事してて」
「は、はあ…」
「あ、そうだ。一つだけいいかな」
「どうしました?」
「このプロダクションで頭に何かよく被ってる人ってプロデューサーだと誰のイメージ?」
「と、言いますと…」
「夜にそんな夢を見たから…今日も朝から気になってて」
「頭に…」
カタカタカタカタ
プロデューサーはパソコンへと思いついた名前を入力した。
「着ぐるみではないなら、この二人くらいかと」
プロデューサーは画面を凛にも見えるように向けた。
「…たぶん分かった、ありがとうプロデューサー」
「役に立てていれば良いのですが」
………
凛が向かった先に居たのは…
「芽衣子さん」
芽衣子「あれっ?私のところに来るなんて珍しいねっ」
ちょうど芽衣子が他のアイドルとの話を終えたところに凛はやってきたようだ。
「ちょっと…聞いて欲しい話があったから」
凛は物は試しと夜の夢のことを話してみた。
芽衣子「そっか…そんな時期だったんだね」
「えっ、芽衣子さん心当たりとかある?」
芽衣子「私の趣味を甘く見ちゃダメだよ」
「芽衣子さんって旅行が趣味だよね」
芽衣子「少し前にちょっと下調べしたことがあるから、たぶんそれじゃないかな?」
「でもそれが私に関係するんだ」
芽衣子「関係あるなんてものじゃないけど…うーん、今時間ある?」
「今日は確認と自主レッスンをやりに来たくらいだから、時間は…はい」
芽衣子「それなら…」
スマホを取り出して何やら連絡を取り始めた芽衣子。
芽衣子「これで…OK出たから行こっか」
「えっ…どこに?」
芽衣子「ちょっと着くまで秘密にしようかな。ほらほら、凛ちゃんも凛ちゃんのプロデューサーさんに許可もらって」
「芽衣子さん、こういう時はちょっと強引だよね…う、うん」
芽衣子に押されるがまま、凛はプロデューサーの許へと行ってくることになった。
 
ガタンゴトン…
芽衣子に連れられるままに電車へと乗った凛。
「芽衣子さん、どこに向かって…」
芽衣子「凛ちゃんの苗字は?」
「もしかしてこれから行くのって渋谷?」
芽衣子「渋谷だけど駅は普段使ってる?」
「事務所に来るのに電車なら使うけど…」
芽衣子「渋谷駅といえば、ここ何年かで色々あったでしょ」
「最近だと副都心線と東横線のこと…かな?」
芽衣子「そう!もう答えが出てるんだけど…答えは目的地に着いてからねっ」
「???」
凛の頭の上にははてなマークが浮かんでいた。
 
芽衣子「あー、やっぱりもうここまで解体進んでたんだ」
ここはとある解体工事現場の近く。
「ここって解体工事してるだけだよね?」
芽衣子「東横線がまだ地上に居た頃の線路のね」
二人はそこを見上げていた。
「そっか、もういらないから壊してるんだ」
芽衣子「それで凛ちゃん、東横線ってこっち行くと次の駅ってどこだっけ?」
「えっ?えっと渋谷の次だから…確か代官山だったかな」
芽衣子「実は戦争が終わる頃まで、そこにもう一つ駅があったらしいんだ」
「…そこ?」
芽衣子「私も調べてみただけだから、詳しいことは分からないんだけど…空襲で駅舎が全焼してその後に駅としては無くなったって」
「…ここの駅名って、その地名の…」
こくっ
芽衣子は一つ頷いた。周囲を見回すと、色々とその地名が散見された。
芽衣子「凛ちゃんの夢の話を聞いてもしかしてって思って」
「芽衣子さん…」
芽衣子「ふふっ、でも私は駅とは違うからねっ。まだまだアイドル続けたいし」
「そうだよね、芽衣子さんならきっとそう言うって思った」
芽衣子「きっとやり残してることはまだいっぱいあるでしょ?」
「…今日はありがと…芽衣子さん」
芽衣子「へ?」
「おかげで胸のつかえが取れたから」
芽衣子「それなら私もお礼言わなくちゃ、ここに来る切欠をくれて…ありがと、凛ちゃん」
事務所に戻ってきた二人の表情、そこには新しい何かが漲っていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
お久しぶりです、飛神宮子です。
SSを書く気力を失っていましたが、ちょっと思うところがあって書きました。
またこれからちょこちょこ書いていこうかなと思う次第です。
それからデレマス側のPですが、一部のアイドル(特にCPメンバー)はアニメ準拠になってくることもありますので。
この話の元はWikipediaで東急東横線を調べてもらえば分かるかと思います。
本当はもっと早く書くべきものでしたが、ある映像を見てなので…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2015・06・20SAT
飛神宮子
短編小説に戻る