Because there is a "Suki" there(そこに「スキ」があるから)

カタカタカタカタカタ…
暗い部屋、仄明るいモニタを前に一人の女性がキーボードを叩き続ける…
ココンコンココン
妙なリズムのノック音。その音に無言で部屋の解錠をしにいくその人物…
ガチャンッ カチャッ
???「入って…」
「失礼します…」
バタンッ ガチャっ
来客はその部屋には似つかわしくない女性。
???「ご苦労様。今月の報告をお願いするわ」
「はい……って、ついノッてしまいましたけど、またこんな暗い中でパソコンするなんて…」
パチッ
その女性は部屋の電気を点けた。
「また目を悪くしてしまいますよ」
???「…こういうのは雰囲気もあるでしょう」
「もう…それに巻き込もうとしないでください」
???「それで資料的な価値のものはどうかしら?」
椿「そうですね…偶然撮れた中にマキノちゃんが欲しそうな物がいくつかありますね」
マキノ「それなら椿さん、日付の順に報告してもらえる?」
どうやらその二人はマキノと椿のようだ。
椿「了解です…フフフフフ…」
マキノ「そんなにいい写真なのかしら?」
椿「これは知られたら大変そうですから。まずは6月X日ですね、このメモリーカードをどうぞ」
マキノ「これね…」
椿「この先、日が1桁台はそのカードです」
受け取ったカードをパソコンのスロットに差し込むマキノ。
マキノ「2016060X…これでいいのね?」
椿「はい。そちらに数枚、面白いものが撮れました」
マキノ「…これは、ダークイルミネイトね。これはどこで?」
椿「ライブハウスです。頼まれて撮影係として同行しまして」
マキノ「これはライブ中の写真のようだけど?」
椿「その先の…楽屋での模様も二人には許可を頂いて撮影していまして…」
マキノ「楽屋…ここからかしら」
椿「そこからですね。確か19枚目以降に…」
マキノ「19枚目………これはこの子達にしては珍しい光景…何があったの?」
椿「その2枚前を見ていただければ分かります」
マキノ「2枚前というと…これは何を?」
椿「17枚目は蘭子ちゃんが飲んでいた紅茶、19枚目の方は飛鳥ちゃんの飲んでいたコーヒーだったかと」
マキノ「椿さんもこれを止めずに写真を撮るとはね…」
その写真とは二人が取っ組み合いの喧嘩をしているところであった。
椿「二人とも撮影係の私がいることを忘れていたみたいです。写真を撮った後にさすがに止めはしましたよ」
マキノ「この写真は渡したの?」
椿「本人達にはどうか分かりませんが、担当プロデューサーの方には複製してお渡ししてます」
マキノ「了解。それで次のフォルダはK日でいいわね?」
椿「そのK日はオフでしたので、事務所の風景とかを撮っていたのですけど…」
マキノ「何かあったの?」
椿「25枚目か26枚目だったかを拡大してもらえますか?」
マキノ「人が写っているのね?」
椿「それですそれです。それがたぶんですが、前にお願いされてたあの3人ではないですか?」
マキノ「前に…2月の案件?」
椿「どうでしたでしょうか。繋がりが見えないと言われたのを撮れたらというのがありましたよね?」
マキノ「それだと3月の方ね。もう少し鮮明なのがあれば…というのは贅沢ね」
椿「その後の1枚に3人での写真がありますけど」
マキノ「え?」
椿「許可を頂いてお話も聞けましたので」
マキノ「それができるのなら私が直接聞きたかったのに…」
椿「詳しくは本人達に聞けば答えてもらえるかと思いますが大体はそのフォルダのテキストファイルに書きました」
マキノ「…行動力は恐れ入るわ」
椿「マキノちゃんもここで作業するより、実地で調査することも大切ですよ」
マキノ「私はこういう形の調査が好きなのよ」
椿「では次はS日のをお願いします」
マキノ「2016060S…これはまた撮影係?」
椿「事務所の広報の方から記録と撮影をお願いされまして」
マキノ「それで撮影の首尾は?」
椿「メインの茜ちゃん達以外にもかなり多くの事務所の方が出られてまして、それで色々と…」
マキノ「というよりこれ、私も出ていたのよ」
椿「確かマキノちゃんの写真も十数枚はあるかと…」
マキノ「何枚かは気付いていたけど、そんなに撮られてたの?」
椿「広報の方には関係者だから自由に撮ってもらっていいと言われましたから」
マキノ「そういうところは特権ね。ところでこれはどれくらいあるのかしら?」
椿「あっ…その日はこちらにもう一枚カードがありまして…」
マキノ「椿さん、どれくらい撮ったの」
椿「いえ、画質は高めにと言われまして連写を含めて大会で1400枚ほど、それから楽屋裏で800枚ほどですけれど」
マキノ「…恐れ入ったわ。それでどうしようかしら」
椿「これはもう聞かれたらお答えする形を取ろうかと思いますので」
マキノ「分かったわ。それならまずは…」
………
マキノ「これで今日までの今月分は一通りね」
椿「はい。さすがに多すぎましたか」
マキノ「資料的な価値からしても少し充分過ぎたくらいかしら」
椿「今度からもう少し整理してきます」
マキノ「そうでなければHDDに入れてまとめて持ってきてもらうことも考えないと…あ、コピーしたからカードは返すわね」
椿「はいこれで全部ですね」
マキノ「そういえば今年もまたやるのかしら?」
椿「あの番組ですか…やるとしても私たちのコーナーはどうでしょう」
マキノ「その心配ならいいのよ。あの部分結構好評だったらしいわ」
椿「そうでしたか。ただあれからは私もマークされていますから」
マキノ「それでもこの量だもの。天性のシャッターチャンス運持ちよ」
椿「あ、そういえば…」
マキノ「どうしたの?」
椿「あと一枚、カード渡すの忘れてました」
マキノ「これだけはさっきのより容量小さいわね」
椿「昔使っていたカードの方ですし、こっちは前から溜め込んでいた方でして」
マキノ「…………椿さん、いつ撮ったの…………?」
そのカードを接続機器に入れて画像を見た瞬間に絶句したマキノ。
椿「色々記録係として呼ばれていますので、資料を見ないとそこは分からないですね〜」
そこに映し出されていたのは、マキノの百面相とも言うべき様々な表情であった。
マキノ「椿さんとデュオを組んでから特に気を使っていたつもりなのに、どうしてこう撮られているのかしら…」
椿「そこに隙が…あるからかもしれないですね、フフフフフ」
この人だけは怒らすまい、そう感じたマキノであったという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
飛神宮子です。
久々のファインダー2作目。もし椿さんが週刊誌とかのカメラマンをこっそり兼職していたらという想像をしてたらこうなりました。
タイトルは「隙」と「好き」の両方です。隙を狙って好きなものを撮る、それこそ椿さんですよね。
あのノック音はファインダーの「ー」のモールス符号です。毎月変わる二人だけの特殊なノックってことで。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2016・06・29WED
飛神宮子
短編小説に戻る