Backstair Preparing(秘密裏の下準備)

コンココ
とある寮の部屋、妙なリズムのノック音が響き渡る。
ガチャっ
その音に呼応して、中の女性は無言で部屋の解錠をした。
ガチャっ バタンッ ガチャンっ
その部屋の主はノックした女性を招き入れ、すぐにまた鍵を下ろす。
マキノ「さて…これで最後ね」
椿「はい。この中で厳選して、それを加えたものをチェックを通してから提出しましょう」
マキノ「今年も阿鼻叫喚の地獄絵図に…なりそうね、フフフフフ」
椿「フフフ、毎年任されていますから楽しみです」
二人の微笑み、それは悪魔のそれと言ってもよい物であった。
マキノ「あれだけ警戒もされている中で、毎年これだけの物が手に入るのだもの…才能には恐れ入るわ」
椿「色々と記録係として就いて行かせてもらっている特権ですからね」
マキノ「さて、この10月の分をまず確認してからね」
椿「今月は大運動会と公演がありましたから…かなり豊富ですよ」
マキノ「運動会は前は私も撮られた立場だけれども、ハプニングも多いし…舞台裏も結構あるのよね」
椿「他事務所の肖像権の関係もあるから、どちらかというと舞台裏の方がここには多いかもしれません」
マキノ「それは仕方な…フフッ、このむつみちゃん…」
椿「ああっ、これは…面白いところで、この後なんですが…」
マキノ「この後?」
椿「続きの写真を見てください。今思い出してもその…フフフフフ」
マキノ「フフフ、そういうことね。ほたるもやっぱり災難ね」
椿「でもこれはNG大賞向きなのでこちらには向かないですね」
マキノ「ええ、どちらかといえばこの舞台裏の方が…使えるわ」
椿「そうしましょう。それでその前の公演もこれはまた色々ありまして…」
マキノ「今回の公演はかなり演じるのも難しい人が多かったわね」
椿「時が止まったように同じことを繰り返すのは、見ていても機械的で恐怖を感じる構図でした」
マキノ「楽しそうだったりしてもどこか儚げというか、生が感じられないのが…その役の人は大変そうだったわ」
椿「頼子ちゃんも繰り返しのセリフからは精気をどう殺すかの演技が大変と言ってましたね」
マキノ「これもやっぱり舞台裏が中心…ね」
椿「特に瞳子さんや麗奈ちゃんが中心に多く良い物を提供してくれました」
マキノ「宝の山ね…関係性の新たな発展もあったみたいな写真も見受けられるし」
椿「そこはまた…今度別にレポート送りますから」
マキノ「ええ…」
………
一年分のネタ写真のチェックも終わり…
マキノ「今年もまた枠を取ってもらっているわけだけど、もう一つ相談があるの」
椿「何でしょう」
マキノ「登場衣装を今年から変えようかと思っているの」
椿「なるほど…でも舞台の衣装以外だとあの衣装以外は…」
マキノ「ほら…それこそ、アレはどうなの?」
椿「温泉の時のですか」
マキノ「ええ。私たちの共通衣装ならそれでも良いんじゃないかしら」
椿「久しぶりに着てみるのも良いですね」
マキノ「少し正月っぽいのはあるけれど、かと言ってロワイヤル衣装を着るほどの場面でもないのよね…」
椿「もう1種類くらい一緒の衣装が欲しいです」
マキノ「私に合わせるとまた際どい衣装もあるわよ」
椿「そこはもう諦めてます」
マキノ「椿さんも段々と染まってきたわね」
椿「そんなマキノちゃんの参謀ですから」
マキノ「…ええ…」
椿「あ、そうです。やっぱり今のうちにさっきの件のお話もしますね」
マキノ「時間はいいの?」
椿「レッスンも記録係の方も今日は…」
マキノ「今日は基本的に活動全面中止、自宅か寮に待機だったわね…」
外を見ると荒天で暴風雨が窓を叩きつけていた。
マキノ「本当に困ったものね…少しでも止んだら買い出しにでも行こうと思っていたのに…」
椿「お昼ご飯ですか?」
マキノ「昼と夕飯ね。今日はレッスンと仕事が入ってたから頼んでなかったのよ」
椿「私の部屋に来ます?マキノちゃんの分くらいなら一緒に作れますよ」
マキノ「それならご相伴に与ろうかしら」
椿「いいですよ。12時半くらいになったら私の部屋の方に来てくださいね」
マキノ「了解したわ」
………
そしてお昼が少し過ぎた頃の椿の居室…
コンコン
椿「はい」
マキノ「失礼します」
椿「どうぞマキノちゃん、今そっちに持っていきますからそこのコタツに入っていてください」
マキノ「もうコタツ出したのね」
椿「最近は朝晩が寒いですし、寒くなってからだと遅いですから」
マキノ「そうね…とは言っても暖房は別に用意されているけれど」
椿「身体の芯から温めるとなると、それだけだとなかなか難しいですし」
マキノ「確かにエアコンはそこが厳しいのよね…机の下に貼れるヤツ買おうかしら…」
椿「今持っていきますから、そこ空けておいてください」
マキノ「いい薫りね」
椿「肌寒いですから麻婆春雨に少し唐辛子を効かせました。スープは卵スープでいいですよね?」
マキノ「なんでもいいわ。食べさせてもらえるのだから贅沢は言わないから」
椿「あとは冷蔵庫から…野菜ジュースとあとはコップと…」
マキノ「手伝った方がいい?」
椿「いいですよ、残りはお盆に載せて行きます」
マキノ「そう…」
椿はご飯やスープ、コップや野菜ジュースを載せたお盆を持ってやってきた。
椿「寒かった…温まります…」
マキノ「ありがとう椿さん」
椿「いえ、どういたしましてマキノちゃん。それじゃあ食べましょう」
マキノ「いただきます」
椿「いただきます、どうぞ召し上がれ」
昼食を食べ始めた二人。
マキノ「でもこの雨、いつ止むのかしら…」
椿「確か天気予報で見る限りは日が回ったころのはずですよ」
マキノ「そうなると今日もこのままだいぶ冷えるわね…夕食どうしようかしら」
椿「もしなら夕食もいいですよ。その分くらいならまだありますから」
マキノ「一応携帯固形食の類はあるのだけれど、どうしても栄養が偏ってしまうわ」
椿「でしたら気が向いたら来てください」
マキノ「天気が好転しなければ、恐らく来ることになりそうね」
椿「お待ちしてますよ、フフッ」
マキノ「あ、それで今のうちさっきの件聞いておこうかしら」
椿「さっきの件ですか、どれからお話ししましょう?」
マキノ「そんなに多いの?一つ一つ聞かせてもらうわね……」
二人の濃ゆい機密な話は、結局夕食時まで長く続いてしまったとかそうでないとか…
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あとがき
飛神宮子です。
久々のファインダーのお二人です。最初のノック音はモールス信号で「d(−・・)」です。
特番で秘蔵写真を紹介するコーナーの担当としていますが、椿さんって年間でどれくらい撮るんでしょうねぇ…?
それにしても最近は台風等の災害が多いですね…色々と心配でなりません。
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2017・10・31TUE
飛神宮子
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