My Precious Hometown(大切な故郷)

ある日の事務所でのこと…
「37…早苗さんが37…早苗さんが37」
何やらうわ言のように呟いている一人のプロデューサーがいた。
早苗「だーれが37ですってぇ!」
プロデューサーはその背後の気配には気付かなかったようで、気付いた時には遅かった。
ひょいっ ぐいーっ
「ああっ!いだいいだい!いだいいだい!ギブギブギブーーー!」
早苗に左腕を逆方向に持っていかれていた。
早苗「もう…それで37って何のことなのかしら?痛がっていた割には笑顔のようだけど?」
「あの、知ってて言ってますよね」
早苗「何かあったかしら?」
「そういえばこの前、統括プロデューサーから来月の話があった後って早苗さんに会いましたっけ?」
早苗「そこからは実家に帰省させてもらったから会ってないわ」
「あっ…じゃあ詳しい話は伝えていなかったですね」
早苗「何よ、もったいぶらないで早くお姉さんに教えなさい」
「この前統括プロデューサーに言われましたよね?CDデビューのこと」
早苗「そうね」
「この書類をどうぞ。今回の件について書いてありますので」
早苗「そういえばプロデューサーに聞いておけと言われてたわね」
「その椅子に座ってください。彼はこの時間帰ってこないんで」
椅子に座って書類を見入る早苗。
「分かりましたよね?その番号なんですよ」
早苗「なるほどねぇ、ありすちゃんが036でその次なのね」
「自分の担当ユニットのアイドルがソロCDデビューとなれば笑顔になりますよ」
早苗「そういうものかしら?」
「そういうものなんですよ。それで今日はどうしたんです?今日の予定はもう少し後ですよ」
早苗「あ、そうそう。これ帰省のお土産よ」
何やら見たような形の物を紙袋から出す早苗。
「あのですね…実は言いにくい話なんですけど…」
早苗「どうしたのよ」
「その中身、おそらく何か分かったんですが」
早苗「これ地元でしか売っていないのよ?プロデューサーが知っているはずないと思うんだけど」
「ちなみにこのサイズの缶だと…サラダホープか浪花屋の柿の種ですよね」
早苗「あら、そこまで言うってことは…」
「そうですよ。俺も早苗さんと同じ新潟出身ですから」
早苗「どうして言ってくれなかったのよ」
「そりゃ、聞かれなきゃ答えないですよ。早苗さんも今までの俺の行動で気が付かなかったんですか?」
早苗「今までの…そういえば、冬もちゃんと歩けてたわね。急に雪かきしなきゃいけない時も、車からスコップ出してたし」
「いつもの癖で備えていたんですよね。タイヤも冬前に一度帰省した時にスタッドレスにしてましたし」
早苗「うちのユニットはというか、プロデューサーの子ってどうも北国の子多い感じがするわ」
「雫も裕子も東北や北陸ですし、言われてみれば半分くらいは山陰、北信越、東北ですね」
早苗「それでいてプロデューサーも雪の話に付いてこれていたのよねえ」
「海岸部ですけど、一応は雪国の県出身ですから」
早苗「それじゃあこんなものお土産に持ってきてもしょうがなかったわね」
「いえ、美味しいですし好きですから久しぶりに食べるのも悪くないかなって」
早苗「まあこれは食べちゃって」
「はい。事務所のみんなでお茶請けやおやつに頂きます」
………
早苗「でもそれなら今度からはプロデューサーと一緒に帰省っていうのもアリね」
「俺とですか?そんなことしたら何言われるか分かったもんじゃないでしょう」
早苗「そうねえ、男の人と一緒に帰ったらそれはねえ…」
「早苗さんはまだアイドル続ける気ですよね?」
早苗「そうよ。アタシはまだこのアイドルを楽しみたいもの」
「早苗さんならそう言うかと思ってました」
早苗「何せあんな安定した職を蹴っちゃってこんな不安定な世界に飛び込んだもの」
「飛び込ませたのは自分なので何も言えませんが…」
早苗「ま、それはそれよ。でも本当にそろそろ見つけたいわよ」
「ここにいる早苗さん世代の男だと俺の同僚の誰かくらいですね」
早苗「そうよねえ…他部署の子とかもいるにはいるけど難しいかしら」
「早苗さんは…本性が分からない人ならどうにかなるk…」
早苗「あら?それはどういう意・味・か・し・ら?」
ぎゅむうっ
「いだだだだだだだ!」
プロデューサーは足を早苗に力の限り踏まれた。
「でも本当にスキャンダルになるようなことだけはやめてくださいよ」
早苗「はーい…ってこんなこと話している場合じゃないのよね」
「そうですね。これからは特にボーカルとダンスレッスンは以前より多くなるかと思います」
早苗「セクシーギルティの出演と並行してって…大変ね」
「そこは気合で乗り切ってください。まあ…たまには俺も付き合いますから」
早苗「いつも同じ相手じゃつまらないから、たまに付き合ってもらうわ」
「それであとで色々手続きの書類とかもあるので、その時はよろしくお願いします」
早苗「ソロデビューとなると大変ねえ…裕子ちゃんの時もあったけど」
「でも自分で手塩に掛けたアイドルがこうして形になるのって嬉しく思いますよ」
早苗「プロデューサーのその気持ち、何となく分かってきたわ」
「でもまだこれからですから。これでやっとスタートラインに立たせられたって気持ちです」
早苗「そうね、一緒に頑張りましょ」
「はい。出来る限りのサポートはしますよ」
………
早苗「まあデビュー後は地元に帰ったら大変かもしれないのよね」
「裕子も言ってましたけど、街のCDショップはどこもポスター貼られていたりとかで恥ずかしいって話で」
早苗「そうねえ、アタシもそうなっちゃうのかしら」
「ちなみに聞きますけど、地元ではどれくらい目立ってました?」
早苗「そんなでもないわよ。背が小さいけど負けん気は強かったから、目立ってないと言ったら嘘になるけど」
「それにしても何か…あの、一つ聞きますけどもしかして俺と同じような場所に実家がありませんか?」
早苗「え?」
「何か、片桐とか早苗って名前でちょっと話を聞いたことがある気がして…」
早苗「プロデューサーってどこ出身?」
「俺ですか?俺は△△の○○ですけど」
早苗「…そうとう近所ね。あたしは××だもの…ってことは、もしかしてプロデューサーってあの!」
「え?」
早苗「そういえば聞いたの。近所に何年か前に東京に出て芸能事務所に入ったって男の子がいるって…」
「あー、それってもしかして話に尾ひれが付いた感じで…実家に帰ったときに聞いた気がします」
早苗「なーんだ。そういうことならやっぱりアタシたち一緒に帰省した方が楽じゃない」
「さすがにそれなら出来る限り合わせますよ。オフくらいはある程度調整できると思います」
早苗「それでプロデューサーが今度帰省するのはいつなのかしら?」
「お盆帰りましたし…次はお正月か、その前に気が向いたらですね。タイヤ交換とかもありますし」
早苗「次に帰るときは恋人連れてきたって言っちゃおうかしら」
「えー」
早苗「あのねえ、一緒に帰ってきてみなさい。詮索されるに決まってるじゃない」
「う…確かにそうでしょうけど」
早苗「それはまあそれとしても、色々と説明はお願いするわよ。何も関係ないなんて言えないわ」
「まあ…はい、その辺は追々にしましょうよ。まずはこれからのことですよ…」
その夜、やはり居酒屋に早苗を含めて成人しているPの担当アイドル数人の姿があったとかなかったとか…
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あとがき
飛神宮子です。
新潟出身の片桐早苗さんがCDソロデビュー決定ということで、やっぱり書かないとと思いまして。
アニメでボイスが付いた時はそれだけで喜ばしい話と思いましたが、こうなるとまた一入ですね。
あ、このSSはサイトの14周年記念SSも兼ねます(2本出しますが)。
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2015・09・03THU
飛神宮子
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