タタタタタンッ タタタタタンッ タンタンタンタンタタタンタンッ |
ここはとあるアイドルルーム。 |
薫 | 「うーん、何かちがうかな?」 |
タタタタタンッ タタタタタンッ タンタンタンタタタタンタンッ |
薫 | 「んー?よく分かんないけどやっぱりちがいそう」 |
あい | 「ふむ…薫、その太鼓は?」 |
薫 | 「あいお姉ちゃん!かおるね、マーチングバンドの練習なんだ」 |
あい | 「そうか、それでどうしたんだ?」 |
薫 | 「何だかリズムがちがうみたいなんだ。ちょっと何かズレてるのかな?」 |
あい | 「そうだな…楽譜とかはあるのかい?」 |
薫 | 「がくふ?えっと、これのこと?」 |
薫はテーブルに置いてあったカバンの中から冊子を取り出した。 |
あい | 「なるほど…」 |
手渡された譜面に見入るあい。 |
あい | 「ちょっとスティックを貸してもらえるかな?」 |
薫 | 「はい、あいお姉ちゃん」 |
あい | 「いくよ、薫」 |
タタタタタンッ タタタタタンッ タンタンタタンタタンタンタンッ |
あいは薫の首から提げていた太鼓を叩いた。 |
あい | 「こうだね。さっきのはどちらもちょっとずつ違っていたようだ」 |
薫 | 「あーっ!そうだよっ。ちょっとやってみるーっ」 |
……… |
あい | 「でも薫はリズム感はある程度確かなようだね」 |
薫 | 「リズム感?」 |
あい | 「どんな風に叩けばいいか分かるということだよ」 |
薫 | 「んー、よく分かんないけどたたくのは好きだからねっ」 |
あい | 「それなら…マーチングバンドに入るときにどんな楽器があるかとかは聞いたかい?」 |
薫 | 「かおるは聞いてないよ。楽器が並んでてえらんでって言われただけっ」 |
あい | 「そうか…ちょっとそのプロデューサー君のところに行ってくるとするか。うちのプロデューサー君にアポを取ってもらおう」 |
薫 | 「うん、いってらっしゃいあいお姉ちゃん」 |
|
しばらくして戻ってきたあいの手にはなにやら箱があった。 |
あい | 「ふう…探すのに苦労したが、まさかこの楽器もあるとはね…」 |
薫 | 「あいお姉ちゃんお帰りなさい。ねえねえ、その箱は何が入ってるの?」 |
あい | 「ああ、これかい?これも楽器なんだ。マーチングバンドの方のプロデューサー君に出してもらったんだ」 |
薫 | 「へー、これも楽器なんだ」 |
あい | 「これはちょっと特殊な楽器でね、こうして…」 |
あいはその箱を立てて… |
あい | 「こうやって叩いてリズムを奏でるんだ」 |
そこに座って叩き始めた。 |
薫 | 「すごーい、このたいこみたいに音が出るんだー」 |
あい | 「私もジャズの演奏の時に本当に少し見たくらいだから本格的な叩き方は分からないがね」 |
薫 | 「ねえねえ、かおるもやってみてもいい?」 |
あい | 「もちろんさ。まずはここに座ってもらえるかな?」 |
薫 | 「うん、座ったよ」 |
あい | 「後は叩いてみればいいさ、本当はこれは大人用なのだがな」 |
薫はあいのように見よう見まねで叩き始めた。 |
薫 | 「んー、上手くいかない…」 |
あい | 「やはり薫には少し大きいのかもしれないな。よし…」 |
薫 | 「でも本当に太鼓みたいな音が出るんだね」 |
あい | 「これは南アメリカの方の楽器でね、やはり民族楽器は独特なものがあるよ」 |
薫 | 「そーなんだー」 |
あい | 「ちょっと時間が掛かるかもしれないが、薫サイズのものを調達してこよう」 |
薫 | 「ええーっ、でもかおるだけのためにいいの?」 |
あい | 「これくらいは構わないさ。ちょっと考えていることがあってね」 |
薫 | 「んー、何だか分からないけどありがとっ!」 |
ぎゅっ |
薫は立ち上がってあいへと抱き付いた。 |
あい | 「うわっ!まあこれくらいはいいか…」 |
……… |
数週間後… |
司会 | 『休憩の前の最後になりますが、今回審査員にゲストとしてお呼びした東郷さんによるサックスパフォーマンスを披露していただきます』 |
あいは音楽フェスティバルのゲスト審査員をしていたようだ。 |
あい | 「ただいまご指名に与った東郷あいです。今日はここまで素晴らしい演奏をご披露いただいて嬉しく思っています」 |
ステージ上のピンスポットで照らされたあいの後ろに人影が通っていった。 |
あい | 「ここで折角なので私の演奏も聞いていただければというところだが、ここでもう1人お手伝いを呼んでいます」 |
パチンッ |
あいが指を弾くともう一つのピンスポットが照らされて… |
薫 | 「皆さんこんにちーっ!」 |
会場が俄かにざわついた。 |
薫 | 「龍崎薫だよっ!今日はよろしくお願いしまー!」 |
あい | 「私のデュオの相方でもある龍崎薫だ。彼女はマーチングバンドというユニットを知っている人は分かるだろう」 |
薫 | 「かおるは小太鼓の担当だよっ」 |
あい | 「そう、その小太鼓のリズム感を見込んでパーカッションをお願いしている。では聞いていただこう」 |
薫 | 「あいお姉ちゃん、いい?」 |
あい | 「ああ、薫のタイミングで始めてもらえるかな?」 |
薫 | 「うん、いくよーっ!ワーン!ツー!ワンツー!」 |
薫のコールとともに鳴らされるカホン。 |
♪〜 |
そしてあいの奏でるサックスとの旋律が紡がれていく… |
|
〜♪ |
パチパチパチパチパチパチ |
演奏が終わり、薫とあいは万雷の拍手を受けた。 |
薫 | 「ありがとーございまーっ!」 |
あい | 「どうもありがとう」 |
司会 | 『ゲストの東郷あいさんと龍崎薫さんによるパフォーマンスでした。もう一度大きな拍手を』 |
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ |
司会 | 『それではこれより40分の休憩の後、第二部を開始します………』 |
あいと薫はその拍手に送られて、それぞれ楽器を持って楽屋へと下がっていった。 |
あい | 「大丈夫かい?疲れただろう薫」 |
薫 | 「ちょっとつかれちゃったかも、でも楽しかったっ」 |
あい | 「そうか、それは良かった。休憩のあと2時間ほどあるが薫はどうするんだ?」 |
薫 | 「んー、あいお姉ちゃんのこと待ってる!」 |
あい | 「いや、それは心配だな…椅子でも用意してもらって一緒に演奏を聞こう」 |
薫 | 「かおるがいても大丈夫かな?」 |
あい | 「おそらく問題は無いだろう、後でスタッフにお願いしておくよ」 |
薫 | 「ありがとー!あいお姉ちゃんっ」 |
あい | 「よし、それじゃあ楽器を片付けたら一緒に何か飲もうか」 |
薫 | 「んー、ジュースがいいなっ」 |
薫の笑顔にあいも少し癒されていったという… |