Hometown Flavor(ふるさとの風味)

ズズズズズ
沙織「んっ、こんなんでいいべさ」
ここは寮の沙織の部屋。その台所に沙織が立っていた。
沙織「風香さん、鍋敷き敷いといてくれねぇかー」
風香「この花の模様のでいいんですか?」
沙織「んー、いま鍋持っていぐから気い付けてさー」
そう言いながら土鍋をコタツへと持ってきた。
風香「わっ…開ける前から薫りで美味しそうって分かります…」
沙織「風香さんに食べさせるのは久し振りだったべか?」
パカッ
沙織が蓋を開けるとそこにはよく煮えたきりたんぽ鍋が入っていた。
風香「うわぁ…良い薫り…わっ…!」
沙織「風香さんメガネが曇ってるべ、こっちのティッシュで拭いて貰えるか」
風香「あ、はい…んっ…はあ、これで見えました」
沙織「風香さん、たんぽどれくらい食べるべか?」
風香「沙織さんが食べるのと同じくらいでいいですよ」
沙織「それならまず食べるだけ取ってあとは好きに取ればええべさ」
風香「そうですね、んー…んっ、よだれが出ちゃいそう…」
沙織「わだすの分もまずはこれで…それじゃあ食べるさ。いただきます」
風香「はい、いただきます」
二人は一斉に箸をつけた。
沙織「んー、やっぱりまだまだだべ」
風香「そうなんでしょうか?沙織さんの作ったきりたんぽ鍋、とても美味しいですよ…」
沙織「故郷の味さ、まだ出せてねえ。かあちゃんの作ったのはもっと良い味が出てた」
風香「それはもしかして水じゃないですか?」
沙織「確かに水が違うのは大きいんじゃけど、そればっかりじゃないんだわ」
風香「後は…切り方とか作る量とかでしょうか。そういえばこの緑の葉っぱは…」
沙織「それはセリだべ。きりたんぽ鍋にはこれがねぇとダメだ」
風香「セリって七草粥のですよね、それ以外であまり見ないから新鮮です」
沙織「確かに使い慣れてねぇとあんまり使う食材じゃねぇな」
風香「でもこんなに美味しいのに他の人が来れなかったのは残念でしたね」
沙織「本当はもっといっぺぇな人と囲みたかったべな。でも風香さんと二人でも良かったわ」
風香「えっ…」
沙織「わだすの故郷の味、まず食べさせるなら相方が一番だ」
風香「沙織さん…」
少し頬を赤く染める風香。
沙織「わ、わだす何か変なこと言ったべか?」
風香「い、いえ…そんなこと無いです。相方ってちょっと気になって…」
沙織「ああ、そういう…わだす、そういうつもりで言ったんじゃねえけんど…」
風香「そうですよね、何だか本当にすみませんっ」
沙織「でもな、風香さんのことはわだすの特別だとは思ってるべさ。わだすの大切なパートナーとしてな」
風香「そう言われると嬉しいです」
沙織「もう沙織さんと組んでどれくらいになるんだべな?」
風香「確か一昨年の正月くらいにプロデューサーさんにお願いされましたね」
沙織「そうだともう2年も経つんだべか。そのちーとばか前に風香さんが新しい衣装貰ったんだが」
風香「私も最初ビックリしました。どこかで見たことがあった気がして…」
沙織「言われてみたらわだすも前に貰ったのが似た衣装だったべな」
風香「沙織さんは前の秋くらいでしたよね。羨ましかったなあって憶えてます」
沙織「プロデューサーは最初からわだす達をユニットにするつもりだったんだわな」
風香「そうですね…んっ、このネギ美味しいです」
沙織「入る野菜はゴボウとネギとセリくらいなんだべ」
風香「そういえばそうですね、それときりたんぽと鶏と糸コンと…あとは舞茸くらいで思ったよりシンプルですね」
沙織「スープとたんぽ、あとセリいっつも売ってるところが去年やっと見つかって、頻繁に作れるようになったんだわ」
風香「一昨年に初めて作ってもらえた時は送ってもらった物でしたっけ」
沙織「あの時はたんぽが貴重だったから、なかなか作ろうにも作れなくて」
風香「でも本当に他の人がこ…」
そこに…
ピンポーン
インターホンが鳴る音が部屋に響いた。
沙織「はーい、こんな時間になんだべな」
ガチャ ガチャっ
沙織がスコープで確認して鍵とドアを開けた。
沙織「プロデューサー、今日は来れねって聞いてましたけど…」
「思った以上に現場が早く済んだから来たんだけど…っていい匂いだな」
沙織「夜でしばれるから、まんず入ってくださいプロデューサー」
「いいのかい?って元々お呼ばれはしてたからなぁ」
バタンッ ガチャリ
沙織は部屋へとプロデューサーを入れて再び鍵を下ろした。
「そういえば風香と一緒に食べるんだったな」
風香「プロデューサーさんでしたか、どうぞこちらへ」
沙織「今プロデューサーの分のお椀も用意するから座っててください。あ、ちょっと鍋貰うから待ってもらえます?」
沙織は鍋を持って台所へと捌けていった。入れ替わりにプロデューサーはコタツの開いてる場所へ入った。
風香「今日は遅くなると聞いたんですが、早かったんですね」
「ああ。ブルナポの仕事が予想以上に早く終わってさ。千枝がいたから配慮してくれたんだ」
風香「千枝ちゃんはまだ小学生ですものね。グラスフルのお仕事は今度は3月の下旬ですよね」
「今のところはその予定だけど、全員が合わせられるかが微妙でなあ」
風香「そうなんですか?1人か2人くらいなら欠けてもまだどうにかはなりますけれど…」
「いやさ、日程的に亜子もだけど春菜が危ないって話でさ。リーダーがいないのはまずいだろ?」
風香「あっ…そうですね」
「だからちょっとだけまだ日程調整中。もしかしたら4月にずれ込むかもしれないな」
風香「分かりました。セクシーボンテージとかも大変そうですけれど、私たちのピュアリーツインも忘れないでください…」
「それは分かってるよ。沙織ももう少し露出増やしてあげないとと思ってるしさ」
風香「すみません…何だか少し言いすぎてしまって」
「いや確かにそれも事実だから、色々回せそうな仕事もタイミングが上手くいかなかったりあってな」
風香「そうだったんですか…」
沙織「はい、新しいたんぽ入れて煮てきたからプロデューサーも食べてもらえます?」
そこに沙織が鍋を持って戻ってきた。
沙織「新しいのはまだ味染みてねーかもだから、前から入れていたのを先に食べてください」
「うん。でももう鍋の時期もそろそろ終わりかな」
風香「3月の寒の戻りの時期くらいまでですよね」
沙織「この鍋ももう1回くらいで終わりです。地元だとセリは3月くらいまでですから」
風香「そうだったんですね、そういえば春になると見なくなる気がします」
沙織「秋田さまだ美味しいものたくさんあるから、また色々作ってみます」
「それは楽しみだな…あ、そういえば沙織が料理出来るならって持ってきた3月の中頃のやつ」
沙織「あの料理の勝負さね、あれがどうかしたんですか?」
「一緒にアシスタントとして風香も出るか?」
風香「ええっ…私がですか?」
「沙織も一緒にいた方が心強いんじゃないかと思うけど」
沙織「まだ誰か決めてねがったんですか?」
「誰かに頼む予定だったんだけど、予定調整もあったからさ。グラスフルの方のレッスンとかもあるけどどうだ?」
風香「グラスフルはいつもの感じですよね…?それなら大丈夫かと思います」
「よし、それならそれで組んどくよ。食材以外詳しく聞いてないけど、そこはもう当事者同士で話してもらえるかな」
沙織・風香『はーい』
「それじゃあもう少し食べたら事務所に戻るかな。報告したらやっと帰れるなあ」
風香「おつかれさまです…」
沙織「もうみんな食べてってもらえれば助かります。風香さんももういいがね?」
風香「あ、はい沙織さん。もうたっぷり戴きました」
「そうか、それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」
プロデューサーの食べる姿を見る二人の顔は何だか母親のような笑顔になっていたらしい…
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あとがき
飛神宮子です。
沙織と風香のピュアリーツインで、一度はやりたかったきりたんぽ鍋ネタです。
実は私自身は新潟ですが、母が秋田出身なので冬はたまに食卓に上がるんですよ。
それで秋田は5人いるのですが、一番料理出来そうと考えると…沙織かなと思いました。
沙織の言葉に関しては迷ったのですが、Pには敬語、風香には普通に方言としました。
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2016・02・22MON
飛神宮子
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