ある日のこと… |
あい | 「どこまで送ればいいのかい?礼子さん」 |
礼子 | 「千代田線の乃木坂駅にお願いできるかしら」 |
あい | 「ちょっと待ってくれ…乃木坂駅…ここから20分くらいか」 |
あいはスマートフォンのカーナビ用アプリをセットした。 |
あい | 「最近は便利なものだね。この車にはカーナビを付けたくないからさ」 |
礼子 | 「いい車乗ってるわよね、このクラシックな車はなかなか手に入るものじゃないでしょう?」 |
あい | 「昔のものさ。この世界に入る前に戴いたものだよ」 |
礼子 | 「そうなのね…」 |
あい | 「それで今日は誰と飲むのかい?」 |
礼子 | 「今日はレナと清良よ。雰囲気の良いバーがあるらしいの」 |
あい | 「なるほど、二人にもよろしく頼むよ」 |
礼子 | 「ええ…それにしてもこの車に随分と似つかわしくない物があるわね」 |
あい | 「早苗さんに言われてね。一応それの規定に合う子が乗ることもあるからさ」 |
礼子 | 「ということは薫ちゃんを乗せる事も多いのね?」 |
あい | 「それだけじゃないさ。プロデューサー君に頼まれてアヤとこずえくんとか千秋と雪美くんとかもね」 |
礼子 | 「結構使われてるのね」 |
あい | 「この前、千秋と雪美くんを乗せた時はだね…」 |
……… |
千秋 | 「あいさんすみません、○○放送までお願いするわ」 |
あい | 「ああ。プロデューサー君の方からも連絡受けているから承るよ」 |
雪美 | 「……よろしくおねがい……あい……」 |
あい | 「こちらこそ雪美くん。雪美くんならギリギリ大丈夫かな」 |
千秋 | 「佐城さんなら?」 |
あい | 「もし届かないとかシートベルトが顔に当たるようなら、そこのジュニアシートを使ってもらえるかな」 |
千秋 | 「佐城さん、大丈夫そう?」 |
雪美 | 「ちょっと……上げた方がいい……?」 |
千秋 | 「それならこれ使った方が良さそうね。あいさん、借りるわね」 |
あい | 「どうぞ」 |
千秋 | 「佐城さん、これに座ってからシートベルトを掛けて」 |
雪美 | 「……これなら大丈夫……」 |
ガチャっ ガチャンっ |
あい | 「送り先は○○放送…でいいんだね?」 |
千秋 | 「ええ、間違いないわ」 |
あい | 「では、お嬢様達をそちらまでお送りしましょう」 |
千秋 | 「もう…あいさんったら…」 |
雪美 | 「……千秋……」 |
千秋 | 「どうしたの?佐城さん」 |
雪美 | 「少し……眠たい……」 |
千秋 | 「あらそうなの?それならちょっと寝ていく?」 |
雪美 | 「……いいの……?もっと千秋と……おしゃべりしたい……」 |
千秋 | 「佐城さんが好きにしてもらえばいいわ」 |
雪美 | 「でも……やっぱり……」 |
こてんっ |
その言葉を最後に、雪美は千秋の肩に頭を預けて眠り始めた。 |
あい | 「雪美くん、寝たのかい?」 |
千秋 | 「そうね。振動が心地よかったのかしら」 |
あい | 「良い寝顔だ。それにしても気持ち良さそうだね」 |
千秋 | 「そうでしょうね。ペロが逃げ回っているのを追い掛けていて、少し疲れていたみたいだもの」 |
あい | 「いや、気持ち良さそうと言ったのは千秋の方さ。心地よい重みと薫りなのだろう?」 |
千秋 | 「…それは否定しないわ、もう…」 |
雪美の寝顔の横、少し頬を染めた千秋なのであった… |
……… |
礼子 | 「千秋も雪美ちゃんをすっかり可愛がってるのね」 |
あい | 「礼子さん以外は私も含めて全員にそういう人がいるからさ」 |
礼子 | 「4人ともどうしてか年下に好かれるなんて、そこだけは本当にわからないわ」 |
あい | 「思った以上にみんなその関係を楽しんでいるからね。さて次は誰の話を聞きたい?」 |
礼子 | 「そうね…千夏はどうなのかしら」 |
あい | 「千夏と唯くんか…」 |
……… |
千夏 | 「私のマンションまでお願いしたいのだけど…いいかしら?あい」 |
あい | 「構わないけれど、まだ電車はあるだろう?千夏」 |
千夏 | 「あるにはあるのだけれど、もう一つお願いしたいの」 |
あい | 「もう一つ?」 |
千夏 | 「品川駅で唯ちゃんを拾ってから行きたいのよ」 |
あい | 「了解。今日は一緒に泊まりなんだね?」 |
千夏 | 「唯ちゃん今日ちょうどお仕事から戻ってくるの。そのまま寮の予定だったらしいけれど」 |
あい | 「明日も仕事かい?忙しいものだ」 |
千夏 | 「明日は私と一緒だから、プロデューサーにお願いしたの」 |
あい | 「やはり君たち二人は仲が深いね」 |
千夏 | 「一番最初に組まれたデュオという自負があるもの。好きだということは否定しないわ」 |
あい | 「事務所で見ていても、君たちの仲は微笑ましいものさ」 |
千夏 | 「あいと薫ちゃんはどうかしら?」 |
あい | 「そうだな…私と薫は君達とは違ってかなり歳も離れているからね」 |
千夏 | 「親子のような仲の良さだと思うわ。寮でも保護者として同じ部屋でしょう?」 |
あい | 「それは私に限ったことではないさ。千秋と雪美くんもアヤとこずえくんもそうだからな」 |
千夏 | 「あら、そうだったのね」 |
|
バタンッ |
駅で出迎えに行った千夏と唯が車に乗り込んだ。 |
あい | 「唯くんもベルトは締めてもらえたかな?」 |
唯 | 「あいさん、お迎えありがとっ!締めたよ」 |
千夏 | 「それじゃあ私のマンションまでお願いね」 |
あい | 「ああ、急いだ方がいいかい?」 |
唯 | 「ゆっくりでもいーよね、ちなったん」 |
千夏 | 「そうね、明日までゆっくり休めればそれでいいの」 |
あい | 「それにしても大荷物だったね唯くん」 |
唯 | 「346プロのみんなにお土産買ってたら一杯になっちゃってねー」 |
あい | 「それなら一度346プロに寄っていこうか」 |
千夏 | 「どうしようかしらね」 |
あい | 「寮の私の部屋に置いておいても構わないよ。薫も今は帰省中で不在だからね」 |
唯 | 「それもいいかなって思ったけど、やっぱりちなったんのとこでいいかな」 |
千夏 | 「手伝ってはあげられるけれど、ちゃんと自分で運びなさいね」 |
唯 | 「ふぁーい。でもいーなー薫ちゃんと一緒の部屋なんだよねー?」 |
あい | 「そうだよ」 |
唯 | 「あいさんだけじゃなくて、アヤちゃんもこずえちゃんと、千秋さんも雪美ちゃんと一緒だって聞いたしー」 |
千夏 | 「もう、そんな小さな子に嫉妬してるの?唯ちゃん」 |
唯 | 「むー…」 |
千夏 | 「それは自分の出身地を恨みなさい。それに…」 |
唯 | 「それに?」 |
千夏 | 「もしだったらいつでも部屋は空けて待ってるわよ」 |
唯 | 「ちなったんっ…!」 |
唯は横の千夏へと笑顔でハグをしたという… |
……… |
礼子 | 「千夏って唯ちゃんと一緒に北海道に行ったんでしょう?」 |
あい | 「新幹線の一番列車で行ったと聞いたね」 |
礼子 | 「千夏もまさかそういう関係の娘ができるとは思わなかったわ…」 |
あい | 「あれは最初にデュオを組ませたプロデューサー君の手柄だろうね」 |
礼子 | 「それであとは…アヤかしら」 |
あい | 「アヤとこずえくんはだね…」 |
……… |
アヤ | 「こずえ、大丈夫かー?」 |
こずえ | 「アヤー、これどうするのー?」 |
アヤ | 「これはこうして…って高さ足りないな」 |
あい | 「それならそこに置いてあるジュニアシートで補ってもらえるかな」 |
アヤ | 「お、これか。あいさん準備いいな」 |
あい | 「アヤなら分かるだろう?どうしてこの車にあるかくらいはね」 |
アヤ | 「そうだろうな、乗せてるんだろ?」 |
あい | 「一緒に出かけることも多いからさ。それで行き先は…」 |
アヤ | 「ズーラシアでいいんだよな?こずえ」 |
こずえ | 「いいよー。アヤとどうぶつえん行きたかったからー」 |
あい | 「よこはま動物園ズーラシア…っとここだな」 |
アヤ | 「はい、こずえ。これに座ってくれないか」 |
こずえ | 「これにすわればいいのー?」 |
アヤ | 「うん。それでこれを掛けて…よし、あいさんこっちは大丈夫だ」 |
こずえ | 「れっつごー…」 |
あい | 「ではお嬢様方をお連れしましょう」 |
車が走り出す… |
アヤ | 「そういえば薫はどうしたんだ?今日は寮で見なかったけど」 |
あい | 「薫は今日は友紀くん達に預けてきた」 |
アヤ | 「へえ、友紀さんとは珍しいな…ってそうでもないか」 |
あい | 「カナリアサマーで遊ぶことにしてたという話でね」 |
アヤ | 「オフの時も大体はあいさんと一緒だから、今日もそうだと思ってたけどな」 |
あい | 「アヤがこの予定を早めに行ってくれていたら、今日は一緒だったかもしれないな」 |
アヤ | 「あー、こっちもこずえが急に一昨日行きたいって言い始めてなー」 |
こずえ | 「図工のしゅくだいがあるのー」 |
アヤ | 「動物の絵って言われてもなあ、こっちも急には思いつかなくてさ」 |
あい | 「寮で動物を飼っている人はあまり多くないからね。小春くんくらいだろうか」 |
アヤ | 「禁止ではないけど、いざ飼うとなると大変だもんなあ」 |
あい | 「それなら寮の玄関に水槽でも置いてみるとするかな。みんなで一緒に飼えば負担も減るだろう」 |
アヤ | 「魚だったら専門家いるもんなあ。それに熱帯魚なら瞳子さんも対応できそうだし」 |
こずえ | 「お魚ーかうのー?」 |
あい | 「まずは会合に掛けてからだけど、検討してみる価値はありそうだね」 |
こずえ | 「きれいなお魚ー、見るのすきだよぉ」 |
アヤ | 「収穫祭とかで植物に関しては体験する機会はあるんだけどな」 |
こずえ | 「今年もいっぱいとれるー?」 |
アヤ | 「大事に世話はしてるから大丈夫だろうな。これからはイベントが目白押しの時期だぞ」 |
こずえ | 「アヤといっしょならー、どんなことでも楽しいよー」 |
アヤ | 「お、おう。言ってくれるじゃないかよ、こずえーっ!」 |
わしゃわしゃわしゃわしゃ |
アヤは恥ずかしさもあってかこずえの髪を撫でた。 |
こずえ | 「アヤヤヤヤヤヤヤヤヤぁぁぁぁ」 |
アヤ | 「おっと、やりすぎた」 |
そんな二人の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた… |
……… |
礼子 | 「瞳子が最近話していたのはそういうことね…」 |
あい | 「これはプロダクションの方とも相談になるからもう少し掛かるかもしれないけれどね」 |
礼子 | 「でも大変でしょう、そういう役職までやって」 |
あい | 「好きでやっているのだから苦ではないさ」 |
礼子 | 「そういえば薫ちゃんは今日はどうしたの?」 |
あい | 「まだ帰省中さ。週明けには帰ってくるよ」 |
礼子 | 「それなら最後に聞かせてもらおうかしら、あい自身の話をね」 |
あい | 「私と薫の話かい?面白い話はできないかもしれないけれど…」 |
……… |
あい | 「荷物はこれで全部だな」 |
カチャンッ |
薫 | 「あいお姉ちゃん、シートベルトしたよー」 |
あい | 「よし、ちゃんと出来てるな。では行こうか」 |
カチャッ |
薫 | 「しゅっぱーつっ!」 |
あいは車を走らせ始めた。 |
薫 | 「プール、楽しみにしてたんだー」 |
あい | 「ようやくオフが合わせられたからね。私も楽しみだよ」 |
薫 | 「あいお姉ちゃんは今年もう泳いだの?」 |
あい | 「グラビアの撮影でプールを使った時に少しだけかな」 |
薫 | 「かおるはね、学校のプールで泳いでたー」 |
あい | 「どれくらい泳げるようになったのかな?」 |
薫 | 「まだたくさんは泳げないよ」 |
あい | 「それなら今日は泳ぎの練習もしようか」 |
薫 | 「うんっ、お願いしまー!」 |
あい | 「でもそうか、小学校は学校にプールがあるからな。懐かしいな」 |
薫 | 「あいお姉ちゃんが小学校のころってどうだったのー?」 |
あい | 「私が小学校の頃かい?サックスはまだやっていなかったかな」 |
薫 | 「それでそれで?」 |
あい | 「今とあまりイメージは変わらない感じかもしれないね」 |
薫 | 「小学校の時からかっこいい感じだったんだー。かおると全然違うねー」 |
あい | 「そこは人それぞれだよ。負けず嫌いな部分もその頃からと言えるだろうね」 |
薫 | 「それじゃあサックスはいつから始めたの?」 |
あい | 「サックスはだね………」 |
そしてプール帰りの車の中、寮に戻る車の中には疲れからか気持ち良さそうに眠る薫の姿があった… |
……… |
礼子 | 「私も年下の…未成年の子と仲良くしようかしら」 |
あい | 「いい刺激にはなると思うよ。実際私も彼女達も相乗効果をもたらしてもらえているようだ」 |
礼子 | 「そうね…アヤ以外だとあまり関わりが無いのはプロデューサーが持ってきてくれないのもあるのよ」 |
あい | 「イメージというのもあるのだろうね。そろそろ着くようだよ」 |
礼子 | 「あら、二人も見えたわ。駅の入口前で待っているわね」 |
あい | 「そこらへんは車が止められないから、そこを曲がったところで降ろすよ」 |
礼子 | 「ありがとうあい」 |
駅の近くの路地へと車が停まり礼子を降ろしたあい。 |
あい | 「じゃあ、二人にもよろしく」 |
礼子 | 「ええ…」 |
あいの車は路地を抜けて一路、事務所駐車場への道を走り始める… |