八神マキノ(26):タレント(女優業も多少)兼ライター/江上椿(27):タレント(女優業も多少)兼カメラマン |
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346プロダクションのとある一室… |
椿 | 「マキノさん、お茶です」 |
マキノ | 「ありがとう、椿さん」 |
マキノと椿の姿は、アイドルルームではなくその部屋にあった。 |
椿 | 「原稿の調子はどうです?」 |
マキノ | 「文字起こしはもう済んでいるから、あとはどこを取るかかしら。写真の方はどう?」 |
椿 | 「そうですねー、全身とインタビュー風景で、もう3枚ずつチョイスはしてありますよ」 |
二人はアイドルからタレントになり、その傍らで事務所で発行しているアイドル部門専門誌のライターとカメラマンとして活動を始めている。 |
マキノ | 「あら、早いわね」 |
椿 | 「はい、今日はこれからグラビアページの撮影がありますから」 |
マキノ | 「今月は誰だったかしら?」 |
椿 | 「今月はPETIT SEVENTEENの3人ですよ」 |
マキノ | 「あの子達も大きくなったわね…」 |
椿 | 「後輩の子も増えてきて、やる気が一層出てきたみたいですから」 |
マキノ | 「それなら遅くならないうちにお願いね。凝りだすと時間を忘れるんだから」 |
椿 | 「フフフ、分かりました」 |
マキノ | 「そういえば子供は元気?」 |
椿 | 「はい、おかげさまで。プロダクション附設の保育園、本当に助かってます」 |
椿は上京していたかつての同級生と3年前に結婚し、出産。1児の母でもある。 |
マキノ | 「もう3歳だったわよね。だいぶ喋るようになってる?」 |
椿 | 「毎日大変です。でも可愛い顔を見ていると、やっぱりいいものですよ」 |
マキノ | 「私は…まだこういうのを続けていたいわね」 |
椿 | 「そう言っていると、徐々に遅れてしまいますからね」 |
マキノ | 「あら、心配かしら?」 |
椿 | 「いえ、ただの独り言ですよ」 |
ライター | 『八神チーフ、送った原稿の確認お願いできますか?』 |
マキノ | 「あ、分かったわ。10分ほど時間を頂戴」 |
椿 | 「さて、私もそろそろ準備をしないとかしら」 |
マキノ | 「そうね、行ってらっしゃい」 |
椿 | 「はい、行ってきますね」 |
……… |
『ぷちっとナイン』改め『PETIT SEVENTEEN』の撮影用に借りた教室セット… |
椿 | 「今日はよろしくお願いします、龍崎さん、横山さん、市原さん」 |
薫 | 「あー、椿ちゃんだー。こんにちはーっ!」 |
千佳 | 「今日はよろしくねっ」 |
仁奈 | 「久しぶりだー」 |
椿 | 「フフフ、お久しぶりです。3人とも元気そうで良かったです」 |
薫 | 「今日はかおる達の撮影よろしくねー」 |
椿 | 「はい、ではもう着替えているようなので始めましょうか。スタッフの皆さんもよろしくお願いします」 |
千佳 | 「椿ちゃん、どんな風にしてればいいー?」 |
椿 | 「そうですね、その用意してある右前の席の方に自由に固まって座ってください」 |
三人 | 『はーい』 |
……… |
ガチャっ |
椿 | 「ただいま戻りました」 |
椿が他の撮影も終えて、子供も夫に預けてオフィスに戻るとそこには… |
椿 | 「あら…」 |
マキノ | 「くぅ…すぅ…」 |
机に突っ伏して寝てしまっていたマキノの姿があった。 |
椿 | 「根詰めてやっていたみたいですね…」 |
パソコンのスクリーンセーバーを解除した画面には、再来月発行予定の予定稿が粗方仕上がっていた。 |
椿 | 「でも明日は一緒にラジオの収録がありますし、起こさないと…」 |
ゆさゆさゆさ |
マキノ | 「んっ…」 |
椿 | 「マキノさん、こんなところで寝ると身体に良くないですよ」 |
マキノ | 「えっ…?あっ…私、寝てたの…?」 |
椿 | 「そうみたいですね」 |
マキノ | 「あの子達、上司が寝ている所を起こさずに帰っちゃったの」 |
椿 | 「フフフ、普段から怖い上司ですものね。触らぬ神に祟りなしです」 |
マキノ | 「もう…椿さんまでそういうこと言うのね」 |
椿 | 「でもどうしたんです?デスクで寝てしまうなんて」 |
マキノ | 「色々考えてたの。再来月の号もそれぞれのプロデューサー担当のライターから、推してほしいユニットでページ数をね…」 |
椿 | 「難しいですね、どうしたんです?」 |
マキノ | 「ライターの稿を推敲して、やっととりあえず形にしたところよ」 |
椿 | 「おつかれさまです」 |
マキノ | 「はー、もうこんな時間だったのね」 |
時計は既に7時半を示していた。 |
マキノ | 「あら?そういえば○○ちゃんは?」 |
椿 | 「撮影の仕事の後に、夫に預けて来たんです」 |
マキノ | 「今日はもう自由?」 |
椿 | 「はい、付き合いましょうか?」 |
マキノ | 「…いいのね」 |
椿 | 「はい…久しぶりに飲みましょう」 |
マキノ | 「それなら帰る準備するわね」 |
椿 | 「はい、お待ちしてます」 |
……… |
そして事務所の近くにある隠れ家的バー… |
チンッ… |
椿 | 「今日は程々にしてくださいね」 |
マキノ | 「分かってるわよ、明日はお仕事もあるんだから」 |
椿 | 「こうやって飲むのも久しぶりですよね」 |
マキノ | 「ええ。椿さんが結婚するまでは、よく一緒に飲んでたけれど」 |
椿 | 「マキノさんはご予定は無いんですか?」 |
マキノ | 「私?私はまだよ…」 |
椿 | 「本当に…ですか?」 |
マキノ | 「何なのかしら、その言い方は…」 |
椿 | 「それは本当…なんでしょうか」 |
マキノ | 「悪いことは言わないわ…何か知ってるの?」 |
椿 | 「カメラって正直ですよね…フフフフフ」 |
マキノ | 「えっと…まさか…」 |
椿 | 「いつからなんです?マキノさん」 |
マキノ | 「その…いいじゃない、私のことを記事にしても何の得にもならないわ」 |
椿 | 「そうですよね。まさかカマを掛けたら、ここまでハマってくれるなんて思わなかったですから」 |
マキノ | 「…ちょ、ちょっと椿さん」 |
椿 | 「でもいいじゃないですか、どんな方なのかはいつか教えてくださいね」 |
マキノ | 「いずれはね…本当に昔からだけれど椿さんにだけは敵わないわよ」 |
椿 | 「お互い様じゃないですか…ね」 |
マキノ | 「フフフ、そうかもしれないわ…」 |
椿 | 「マキノさん…今日はマキノさんの話、色々聞かせてくださいね」 |
マキノ | 「ええ、椿さんの話も…ね」 |
空には満月、二人の話はしばらく欠けることも無い… |