I want to Protect you(守りたい人がいて)

※このサイトのSSでは幸子など原作では通いの子の一部も寮住まいとなっています。
 
 
 
『いとしーさー♡』
最初に歌った時はまだ、この歌の意味がよく分からなかったです。
でも、今は…今ならボクにも分かります。
そんな想いを胸に、ボクはユニットの仲間と沖縄に行きます……
………
気が付いた時にはボクは一人でした。
あ、違いますよ。孤独という意味じゃなくてですね、そのまあ…
輝子さんには乃々さん、小梅さんには涼さん、美玲さんにはまゆさん、紗枝さんには周子さん…
いつの間にかボクの周りの人はみんな恋する相手を持つ、そんなことになっていました。
例えばこの前サクヤヒメでお仕事をした帰りも…
紗枝「もしもし周子はん、今帰りのバスやから。……お土産どすか?そんないけずなことを言う人にはあらしませんわ……冗談どす、フフフ……」
まゆ「あ、美玲ちゃん。はい、今帰りなんでお米だけお願いできますかぁ?……お土産もありますから、楽しみにしててくださいねぇ……」
かな子「まだ時間大丈夫なんだよね?智絵里ちゃん」
智絵里「はい。一緒にショッピング楽しみです、それからかな子ちゃんのお家もっ」
こんな感じで…それからいつものメンバー6人と一緒のお仕事の終わりも…
小梅「涼さん…涼さんもこれから…ここの別スタジオでお仕事…?エヘヘ…これからそっちに行くね…」
輝子「乃々ちゃん…今日は…お家にお邪魔するけど…いいんだよな…?」
乃々「はい…今日は輝子さんが来るから…キノコカレーだそうです…」
まゆ「美玲ちゃん、帰ったら何時に食べますかぁ?」
美玲「そうだなぁ…お風呂入ってからの方がいいかな?汗も残ってるしさ、マユ」
こんな調子だったわけなんです。人のことをとやかく言うつもりはありませんけど…
でもですよ、ちょっぴり羨ましいなあって思うこともあります。あとどうしてボクだけ…悔しいなって思うことも。
 
これは沖縄に行く少し前、ちょうどいつもの6人での仕事を終えて寮に帰った日のことでした…
まゆ「幸子ちゃん、今日もお疲れ様でしたぁ」
小梅「幸子ちゃん…この後すぐお風呂行く…?」
幸子「そうですね、軽くシャワーしましたけど酷かったですからね」
美玲「それなら15分くらい後に大浴場集合でいいな」
乃々「もりくぼはどこに行けば…いいんですかぁ…」
輝子「乃々ちゃんは…私の部屋だから一緒に行こう…フヒ…」
今日は乃々さんも寮に泊まっていくことになっていました。
まゆ「今日は中継の時に急に雨が強くなりましたからねぇ…」
幸子「そうなんですよ。おかげで水も滴るいい女の子になっちゃいましたよ…くちゅんっ」
美玲「サチコとノノだけは先にお風呂入った方が良いんじゃないか?」
輝子「それなら乃々ちゃんの分は…私が持っていくから…先に大浴場に行ってくれ…」
乃々「分かりました…輝子さん…くしゅんっ」
小梅「幸子ちゃんは…急いだほうが…いいかも…」
幸子「そうですね、そうさせてもらいます」
ボクは足早に寮の自室へと戻ることにしました。
………
乃々さんが待つ大浴場の前へと戻ってきました。
幸子「乃々さん、お待たせしました」
乃々「幸子さん…寮生じゃないもりくぼだけで待つなんてぇ…」
幸子「ボクはさすがにお風呂の道具を用意してこないとですから」
乃々「そうですけど…」
幸子「身体がもっと冷えると良くないですから入りましょう」
乃々「はい…」
 
さすがにタオルくらいはと、乃々さんの分のも一応持ってきました。
幸子「タオルは一旦これ使ってください。後で輝子さんが持ってくるとは思いますけど」
乃々「あ、ありがとうございます…寮で使う時のタオル、輝子さんの部屋でした…」
幸子「やっぱりそうなんですか」
乃々「でもよかったです…隠せずに入るのはさすがに恥ずくぼです…」
幸子「いいんですよ、じゃあ脱ぎましたし入りましょう」
乃々「はい…」
ガラガラガラ ガラガラガラ ピシャンッ
幸子「先に掛け湯したら、ゆっくり温まりましょう」
乃々「そうですね…」
パシャンッ バシャンッ パシャッ バシャッ チャプンッ チャポッ
乃々「ふぅ…んんっ…身体が芯から温まりくぼです…」
幸子「急に大雨でしたからね…傘も微妙に役に立たないくらいでしたし」
美穂「幸子ちゃんかな?」
響子「幸子ちゃんと…乃々ちゃん、今日は寮でお泊りかな?」
幸子「あっ、美穂さんに響子さんこんばんは。はい、今日は乃々さんも寮に泊まるんです」
乃々「はい…輝子ちゃんの部屋でお世話になります…」
響子「そうなんだ…それで他のみんなはどうしたの?」
幸子「ボク達だけ中継で雨に濡れちゃったので、先に急いで入りに来たんです。すぐに4人も来ます」
美穂「雨…ああ、あの時間帯だね。私たちが打ち合わせして帰ってきた後に、急に凄い降ってきた雨だよね?」
幸子「急な土砂降りで大変でしたよ、もう」
ザブンッ ザパンッ ザバンッ
「いやー参ったよ、3階の雫の部屋まで行ってきて欲しいって言われてさ」
「足腰の良い鍛錬にはなったけどっ」
沙紀「寮もてんやわんやになってたっスね、響子ちゃん」
響子「寮母さんと帰ってくる人のための準備、付き合わせちゃってゴメンなさい沙紀さん」
幸子「櫂さん、渚さん、沙紀さんこんばんは。雫さんの部屋は貰い物のタオルが多いですからね」
響子「でもおかげで助かっちゃいました。あの時間帯に戻ってくる人も多くて、あの量は運べなかったですから」
沙紀「ま、響子ちゃんたちの力になれて何よりっス。それであのタオルはどうしたっスか?」
響子「あれは今洗濯中で、乾かしたら雫さんにお返ししますよ」
沙紀「また何かあったら言ってっス。寮のことでもアタシで良ければ手伝うっスからね」
響子「沙紀さん…」
沙紀「響子ちゃん…」
「はいはい、二人ともそこまで。幸子ちゃんや美穂ちゃん達も見てるんだから」
「私達も我慢してるんだからねっ」
幸子「…美穂さん?」
よく見たらボーっとどこか羨ましそうに二人のことを眺めている美穂さんがそこにいました。
美穂「ふわあっ!幸子ちゃんっ」
幸子「大丈夫ですか?何だかポーっとして紅くなってて、のぼせちゃいましたか?」
美穂「ううん、大丈夫っ。ちょっとボーっとしてただけだから」
幸子「それなら良かったですけど」
美穂「あれ?幸子ちゃんと一緒にいた乃々ちゃんは?」
幸子「乃々さんならそっちですよ」
乃々さんはさっき合流した輝子さんたちの方に行っていました。
美穂「幸子ちゃんはいいの?」
幸子「んー、今はいいんです。お仕事から帰る時にも話はしていましたし、夕食の時もありますからね」
美穂「そっかぁ……(どうしてだろう……幸子ちゃんから何か感じて……)」
幸子「あの…美穂さん達ずっと入ってましたよね、そろそろ上がりません?身体もう真っ赤ですよ」
美穂「そうだね…響子ちゃんはど…ってあれ?あれ?」
幸子「響子さんなら沙紀さんと早めに洗濯を片付けるって上がっちゃいましたよ。ご飯前に終わらせたいって」
美穂「ふえっ!?もう私何してるんだろう…ダメだなぁ…あはは…」
幸子「とにかく一旦上がりましょう。美穂さんはもう身体は洗ってますよね?」
美穂「うん。幸子ちゃんはまだだよね」
サプッ ジャプッ
幸子「はい、さすがにまずは身体を温めないとでしたし。あ、乃々さん。タオルは輝子さんに預けておいてくださいー」
乃々「あ…はい…お借りしてます…」
美穂「雨の中おつかれさまだったね。そんな時もめげないでお仕事するって幸子ちゃんらしいな」
幸子「任された責任がありますから。じゃあまた夕食の時にでも」
ここで美穂さんと別れようとした時にもう一言言われました。
美穂「ねえ幸子ちゃん、夕食の後って時間あるかな?」
幸子「その時間帯なら大丈夫ですよ。宿題をするくらいですから」
美穂「あのね、なんだかもうちょっと幸子ちゃんとお話…したいなって」
幸子「いいですよ。紗枝さんが周子さんと一緒に泊まりで収録行ってるんで、ボクの部屋でどうですか?」
美穂「そうだね。こっちは蘭子ちゃんがいるからそうさせてもらうね」
幸子「それじゃあまた後でです」
髪や身体を洗っている間、なぜかボクは美穂さんのことを考えてしまっていました。どうしてなのかな…
………
♪〜
幸子「はい、いますよー」
ガチャッ バタンッ
夕食後に歯磨きをしてから宿題をしていると美穂さんがやってきました。
美穂「こんばんは。あ、宿題してたんだね」
幸子「はい、ただ待っているのも手持無沙汰でしたし。そこに座っててください。片付けてお茶持ってきますね」
美穂「あ、ゴメンね。手間取らせちゃって」
幸子「良いんですよ。…この紗枝さんの買ってきてくれるお茶が美味しいんです」
美穂「そうなんだぁ。あ、確かに良い薫りがこっちまで来たよ」
幸子「今持っていきますね…はい、どうぞ美穂さん」
美穂「ありがとう幸子ちゃん…んっ…美味しい…」
幸子「ふぅ…落ち着きますねぇ…」
美穂「はぁ……身体に染みるなぁ…」
幸子「あの…そういえばお話って…何だったんですか?」
美穂「ああっ!そうだったねっゴメンっ」
幸子「今日の美穂さん、何かヘンじゃないですか。急にボクと話がしたいなんて言いましたし…」
美穂「あ…うん、あのね…ちょっと聞きたいことがあったんだ」
幸子「何でしょう?ボクに答えられることならいいですけど」
美穂「さっきお風呂の時、幸子ちゃん何だか寂しそうに見えたんだけど…違うかなって」
幸子「えっ?ボ、ボクがですか!?」
美穂「うん…響子ちゃんとかまゆちゃんとか見てた時の表情、いつもの幸子ちゃんじゃなかったなって」
幸子「そんなこと…ううん、無いって言ったら嘘になると思います…」
美穂「それって…そういうことだよね?」
幸子「ボクの周りって、最近みんなこういうことになってる気がして…」
美穂「幸子ちゃんはどうなの?」
幸子「まさかそんなことを言うボクにいると思いますか?」
美穂「そっか…そうだよね」
幸子「だから羨ましいというか悔しいというか…そういう気持ちもあったかもしれないです」
美穂「目の前で見る事が多かったらそういう気持ちになるの…分かるよ」
幸子「美穂さんもですか?」
美穂「…うん。私も同じ担当プロデューサーさんのアイドルなんてほとんどだもん」
幸子「あの…もしかしてさっきお風呂でボーっとしてたのって…」
美穂「やっぱり分かっちゃった?響子ちゃんは普段ユニットで一緒の時間が多いから…特にね」
幸子「美穂さんくらい良い人なら、もう誰かいるのかなって思ってましたけど…」
美穂「何ていうか…みんながこんなことになるなんて思ってなかったし、それで出遅れちゃった…のかな」
幸子「ボクと同じじゃないですか。ボクだってその…」
あれっ、どうして…言葉が…
美穂「幸子ちゃん、こっちに来れる?」
幸子「…はい…」
ボクは美穂さんに言われるがまま、美穂さんの横へと座り直しました。
美穂「泣きたい時って…それで気持ちが整理できるなら泣いた方が…ね。」
本当だ………ボク、泣いてたんだ…
幸子「…んっ…」
美穂「ここ…使ってもいいからね」
幸子「美穂さん…」
ギュっ ギュウっ
美穂さんに抱き着いて、抱きしめられて気が付きました。ボクに足りていなかったモノ、それは『温もり』だったって。
幸子「ボク…みんなに置いていかれた気がして…、でも…こんなこと打ち明ける場所も人もなくて…」
美穂「私だって同じだから…。私だけ幸せになれていないのかもって…」
幸子「あの…聞いてくれますか?」
美穂「何かな?幸子ちゃん」
幸子「何でか分からなかったんです。さっきお風呂で身体流している時、ボクどうしてか美穂さんの事を考えてしまっていたんです」
美穂「えっ……」
幸子「でも、今になってその意味が分かりました」
美穂「………もしかして、そういうこと…かな?」
幸子「たぶん、同じような憧れを抱いていたのを感じていたんだって」
美穂「幸子ちゃんっ…!!」
美穂さんがボクの事を抱きしめる強さが一層強くなったのが分かりました。
美穂「幸子ちゃんと今日、お話出来て良かった…。同じ悩みを分かち合える人がいてくれて…」
幸子「ボクもです。こんなボクに温もりをくれる人がいてくれたなんて…」
美穂「私で良かったらいつでもいいからね」
幸子「いつでも…ずっとでも、ですか?」
美穂「それって…」
幸子「きっと…そうだと思います」
この気持ち、同じ歯痒さを知っているから分かること…
ボクはこの事を告げるんだったらと、美穂さんの胸の中から顔を出して…
幸子「美穂さん…ボクの想い、受け止めてくれませんか?」
その言葉に美穂さんは…
チュッ…
唇の感触、それがボクへの答えでした…
守りたい人、守られたい人、春から夏に移ろいゆく時間、この温もりがただ優しく心に満ちていきました…
 
美穂「幸子ちゃん、今度沖縄に行くんだよね」
幸子「はい。前に歌ったいとしーさーのプロモを撮りに行ってきます」
美穂「いいなあ…向こうの写真、いっぱい送ってね」
幸子「もちろんです。着いたらすぐにでも送りますからね」
美穂「期待しているね」
チュッ
いとしいって……こんな気持ちから始まるんですね。ボクのほっぺがそう教えてくれました…
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あとがき
飛神宮子です。
今回のLilySSは、お互いに気が付いたら一人になっていた二人。
寂しさ、悔しさ、そして出遅れ…そこから来る孤独は決して自分だけではありませんでした。
分かってくれる、温もりをくれる…いてほしい人がそこにいた、二人にとってそれだけで充分だったのです。
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2021・07・18SUN
飛神宮子
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