A place to Special Stay(特別な居場所)

ガチャっ
美由紀「菜帆ちゃん菜帆ちゃん、みゆきのプロデューサーがまだしばらくこっちでやっていいってっ」
菜帆達のPのアイドルルームへやってきた美由紀は、菜帆へとまくし立てるように話し始めた。
菜帆「そうですか〜、今度の長崎のお仕事までですか〜?」
美由紀「うんっ!また一緒に菜帆ちゃんとお仕事できるね」
菜帆「一緒に頑張りましょう〜。向こうで一緒にお泊りできますもんね〜」
美由紀「ねーっ」
「ん?菜帆と美由紀ちゃんってそこまで仲が良かった…っけ?」
菜帆「私たちずっと前から仲良しさんですよね〜」
美由紀「そうだよっ、みゆきと菜帆ちゃんはずーっと仲良いもんっ」
「そうなのか…」
………
それは前の公演の時に遡る…
美由紀「終わっちゃったね…菜帆ちゃん」
菜帆「そうですね〜…美由紀ちゃん」
その日は千秋楽。美由紀が事実上の主役になっていた公演が幕を閉じた日だった。
美由紀「ずっとやってるのが終わっちゃうって、寂しいんだね」
菜帆「でも、私たちの活動はまだこれで終わりじゃないんですよ〜」
美由紀「うん…」
美由紀の眼にはどこか寂しさが映っていた。
菜帆「ねえ美由紀ちゃん、しばらくはお仕事お休みですよね〜?」
美由紀「うん、そうだけど…どうしたの?」
菜帆「良かったら今週末、一緒に過ごしましょう」
美由紀「えっ…?」
菜帆「私達は違うプロデューサーさんですから、一緒に話せる機会が今度いつになるか分からないですし〜」
美由紀「う、うん…でもみゆきだけが違うプロデューサーじゃないよ」
菜帆「いいんです、美由紀ちゃんは私の特別ですから〜」
美由紀「そ、そうかな…?」
菜帆「ね、私と美由紀ちゃんの仲ですし〜…せっかく同じ休みの期間ですから、美由紀ちゃんともっと色んなお話してみたいなって思ったんです〜」
美由紀「それなら…そうだねっ、一緒でもいいよっ」
菜帆「来週に入るまでは私も美由紀ちゃんもオフですから、金曜日のレッスン時間の後に一緒に…どっちの部屋にしましょう?」
美由紀「うーん…みゆきはどっちでもいいんだけど…」
菜帆「それなら金曜日の夜は美由紀ちゃんの部屋で、土曜日の夜は私の部屋にしましょう〜」
美由紀「そっか、そういうのもいいかも」
菜帆「それで決まりですね〜。ではまずはこの衣装を着替えて片付けて打ち上げに行きましょう」
美由紀「うんっ…」
美由紀の表情がさっきと比べると少しだけ明るさを取り戻していた。
 
そして金曜日…
ガチャっ
美由紀「菜帆ちゃんどうぞっ」
美由紀は菜帆を自室へと招きいれた。
菜帆「おじゃましますね〜。んー、やっぱり美由紀ちゃんの部屋は可愛い部屋ですね〜」
美由紀「そっかなぁ?そういえば菜帆ちゃんが前来たのっていつだっけ?」
菜帆「前に来たのは…先々週でしょうか〜?公演が始まる前でしたから〜」
美由紀「その頃は部屋でセリフ合わせとかもしてたよね」
菜帆「翠ちゃんの部屋とか他の出演者の部屋とかでもやってましたね〜」
美由紀「あーそうだっ、菜帆ちゃんにあれ見せたことあったかな?」
菜帆「何でしょう?」
美由紀「ちょっと持ってくるから、テーブルのとこに座って待っててねっ」
………
美由紀「それでねっ、この…んーーっ…」
菜帆「あら、もう美由紀ちゃんおねむですか?」
美由紀「う、うん…そうかも…いつももうちょっと前くらいには寝てるもん…」
菜帆「それならそろそろ寝ましょうね」
美由紀「えーっ、でもせっかく菜帆ちゃんが一緒なのにっ…」
菜帆「私は明日も一緒ですから…ね」
美由紀「…そっか、それもそうだよねっ」
菜帆「じゃあこれは片付けて…っと、ベッドは…私が入ると狭いかもですけど〜…」
美由紀「ううん、菜帆ちゃんくらいだったら大丈夫だよっ。一緒にくっ付いて入ろっ……」
そうしてその夜は更けていった。
 
翌日土曜日の夜…
菜帆「はい、美由紀ちゃんどうぞ〜」
ガチャっ
二人の姿は菜帆の部屋の前にあった。
美由紀「おじゃましますっ」
菜帆「今日は疲れましたね〜、もうお風呂も入りましたからゆっくりしましょうね」
美由紀「うんっ。菜帆ちゃんと色んなところに行ったからみゆきも疲れちゃったっ」
菜帆「あ、荷物はそこのテーブルに置いてくださいね」
美由紀「はーい」
………
そして夜も更け、既に二人一緒のベッドの中…
菜帆「んーっ、でも明日からはまたレッスンですね〜」
美由紀「そっかぁ…菜帆ちゃんとはまたもうしばらく顔を合わせられないのかなぁ」
菜帆「そうなりますね〜、でもいつだって部屋に来てもいいですよ〜」
美由紀「ううんっ、だってそれは違う気がするもんっ」
そう言っている美由紀の表情は徐々に暗くなっていくのが誰の目にも明らかだった。
菜帆「美由紀ちゃん…」
美由紀「みゆき、また菜帆ちゃんと一緒のお仕事が決まるま…」
美由紀にはそれ以上の言葉が出なかった。いや、出せなかったというのが正しいのかもしれない。
ぎゅうっ
美由紀「な、菜帆ちゃんっ!?」
美由紀の顔はその時にはもう菜帆の胸の中にあった。
菜帆「我慢なんてしなくてもいいんです〜。私だって寂しいんです」
美由紀「菜帆ちゃん…も…?」
菜帆「寂しい時は寂しいって言っても良いんです〜。だって今回は特に長い時間を一緒に過ごしたんですから」
美由紀「う、うん………みゆき、菜帆ちゃんが居ないのが何だか切ないのかも…」
菜帆「私達は別々のプロデューサーさんが担当なんですから、こういう寮での時間くらい一緒に居るくらい…ね」
美由紀「そっか…そうだよね…菜帆ちゃん…菜帆ちゃんっ…」
美由紀は今まで張っていた糸が切れたかのように、菜帆の胸の中で涙を流していた。
菜帆「美由紀ちゃんは…私にとって特別な存在なんですから〜」
美由紀「みゆきだって…」
もぞもぞもぞ
美由紀は菜帆の腕に包まれていた顔を菜帆の顔の前まで引き上げた。
美由紀「みゆきの…」
チュッ
その小さな唇は菜帆の唇に確かな感触を与えた。
美由紀「特別だもんっ…!」
菜帆「美由紀ちゃんっ…!」
チュッ
菜帆もその唇を美由紀の唇へと預けた。
菜帆「大好き…ですよ」
美由紀「みゆきも…だからねっ」
………
そして時は戻ってアイドルルーム…
美由紀「ねえねえ菜帆ちゃん、ちょうど良いから向こうでお泊りの時に一緒にアレ作ろっ」
菜帆「そうですね〜。一緒に作り終わったらこっちに宅配で送りましょう〜」
美由紀「うんっ。上手くできたらいいなぁっ」
「ん?向こうで何かやってくるってことか?」
菜帆「はい〜、時間が貰えるのでその時にですよね美由紀ちゃん」
美由紀「でも一番良いのは菜帆ちゃんに挙げるからっ」
菜帆「それなら私も一番良く出来たのは美由紀ちゃんにですね〜」
「何だか分からないけどお仕事や学校もあるから帰りの時間は守ってな。特に12日は学校に無理言って休むんだしさ」
美由紀・菜帆『…はーい』
2人の深い繋がりの強さ、それをプロデューサーが知るのはまだ先のことだった…
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あとがき
飛神宮子です。
今月の百合百合枠は、からぱれの中のエビカニコンビです。
前作のからぱれのSSをあの時期に出した本当の理由は、これの先行にしなくてはいけなかったためです。
寂しいのは一人だけじゃない、二人一緒なら悲しいことも半分に。1990年代前半のN○K教育の某番組内アニメを思い出します。
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2016・02・11THU/NAT
飛神宮子
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