She gets a Cold when the Seasons Change(季変わりの貰い物)

ある平日の朝…
菜帆「ん、んんーっ…!」
とある寮の二人部屋、その部屋の住人の一人がベッドから身体を持ち上げた。
菜帆「学校に行く準備をしないとですね〜…その前に、美由紀ちゃんを起こしにいきましょうか〜」
菜帆はそのまま美由紀の寝室へと向かった。
コンコン
菜帆「美由紀ちゃん、朝ですよ〜」
美由紀『………』
しかし中からいつもの元気な声が聞こえてこない。
菜帆「美由紀ちゃん?入りますよ〜」
ガチャっ
部屋へと入っていく菜帆。
菜帆「美由紀ちゃ…」
ベッドの美由紀の表情を見た時、菜帆は違和感を感じた。いつもと違い少し苦しそうに頬も上気している。
美由紀「…えっ…んっ…な、菜帆ちゃん…?」
菜帆「美由紀ちゃんっ…そのまま寝ててください…」
美由紀「どうしたの…あれっ…何だかあっつい…」
菜帆「ちょっと寮監さんに連絡しますから〜」
菜帆は美由紀の部屋にある内線電話で連絡を取り始めた。
………
菜帆「それじゃあ行ってきますね〜」
美由紀「…行ってらっしゃい菜帆ちゃん…」
菜帆「学校には事務員さんから連絡してもらいましたよ〜。その事務員さんはお昼頃に来てくれるそうです〜」
美由紀「ありがと…ケホッ…」
菜帆「何時か分かりませんけど美由紀ちゃんのプロデューサーさんも来るって言ってましたよ〜」
美由紀「病院はその時かなぁ…」
菜帆「そうですね〜、ご飯はその時聞いてください」
美由紀「うん…でもゴメンね」
菜帆「同じ部屋なんですから謝ることなんてないです〜」
美由紀「でもぉ…」
菜帆「それに…私にとっては大切な…美由紀ちゃんなんですから〜」
美由紀「菜帆ちゃん…」
菜帆「そろそろ行かなくちゃ…美由紀ちゃん、早めに帰ってきますね」
美由紀「うんっ…」
………
その日のお昼頃…
友人A「えーびちゃんっ」
菜帆「………」
友人B「えびちゃん?」
菜帆「あっ、ふぁいっ!」
仲の良い友人の呼びかけにようやく気が付いた菜帆。
友人B「もうどうしたの?今日朝からずっとそんな調子じゃない」
菜帆「そうでしたか〜?ゴメンなさい」
友人A「いつもよりもっとポーっとしててさー、どうしたのっ?」
菜帆「その、何でもないですよ〜」
友人B「そんなこと…ないでしょ」
菜帆「ほらお弁当食べましょうよ〜」
友人A「怪しいなあ…朝からってことは来る前…んー、きっと寮で何かあったのかなっ」
菜帆「えっ、どうして…」
友人B「やっぱりね。もしかして…」
菜帆「もしかして…なんでしょう?」
友人B「確か今、菜帆ちゃんは二人部屋って聞いたけど…どうかしたの?」
菜帆「…二人には話してもいいですかね〜」
友人A「聞かせて聞かせてっ」
菜帆「一緒の部屋に住んでいる美由紀ちゃんが体調崩しちゃってですね〜」
友人B「あー、心配ってわけなのね。美由紀ちゃんってあのからぱれ…だっけで一緒の子かしら」
菜帆「はい〜。だから今日は部活もパスさせてもらいますね〜」
友人B「部長には私が伝えとくわよ」
友人A「はー、でもそっか。それで具合はどうなの?」
菜帆「朝の薬で少しは落ち着きましたけど、こればかりは電話だけじゃ帰ってみないとですし〜…」
友人B「フフフ、そこまで気にするって仲が良いのね」
菜帆「もちろんです〜。その、一緒の部屋にしてもらったくらいですから〜」
友人A「へっ?」
菜帆「…ああっ、今の話は聞かなかったことにしてください〜」
友人B「今の言葉は聞き捨てならないわね。『してもらった』って?」
菜帆「その…公演とかで親しくなったのもあって、それで一緒の部屋に替えてもらったんです〜」
友人A「そうなんだっ、でもそれだけじゃなさそうだね」
友人B「きっとただ親しいだけじゃないみたいね」
菜帆「二人ともぉ…ご飯食べましょう〜。ちゃんと話しますから〜」
その後、白状した二人からの返しの言葉に顔を赤くするしかなかった菜帆であった…
………
夕方…
ガチャっ
菜帆「美由紀ちゃん、ただいま〜」
その菜帆の言葉に返事はない。
菜帆「あら、プロデューサーさんとかと病院に行ってるのかしら〜」
菜帆は買ってきた物を冷蔵庫に入れてから…
コンコン ガチャっ
菜帆「美由紀ちゃん、入りますよ〜」
美由紀の寝室へ覗きに入った。そこには…
美由紀「…クー…スー…クー…」
規則正しい寝息を立てている美由紀が居た。
菜帆「寝ちゃってます〜…フフフっ、可愛い寝顔ですね〜…」
誰も見ていないのは分かっていたものの、キョロキョロと周りを見渡す菜帆。そして…
チュッ
その菜帆の唇は美由紀の唇へと降りていた。すると…
美由紀「んっ…んー…?」
菜帆「あら、起こしちゃいましたか?美由紀ちゃん」
美由紀「んーっ!…あぁ、菜帆ちゃんだぁ…」
菜帆「よく寝ていたみたいですね〜、ただいま美由紀ちゃん」
美由紀「おかえりなさーい…コホッ…」
菜帆「ほらまだ寝てないとダメですよ〜。それで体調はどうですか〜?」
美由紀「プロデューサーさんに病院に連れてってもらって、だいぶ良くなったみたい…」
菜帆「夕飯は食堂で食べられそう?」
美由紀「事務のお姉さんと話してね、無理に食べに行かない方がいいって。お昼はプロデューサーにお願いしたよ」
菜帆「それならここで一緒に食べましょう〜。美由紀ちゃんのために買ってきましたから〜」
美由紀「菜帆ちゃん、ありがとー…でもみゆきのためなんかに…」
菜帆「もう〜…」
ツンッ
菜帆は美由紀のおでこを突いた。
美由紀「んんっ!」
菜帆「自分なんかって言わないでください。私は美由紀ちゃんにだからここまでしたいって思ってるんですよ〜」
美由紀「菜帆ちゃん…」
菜帆「だって美由紀ちゃんは…大事な…大切にしたい…私の愛しい存在なんですから…」
美由紀「…うん、菜帆ちゃんのこと悲しませちゃってゴメンね…」
菜帆「美由紀ちゃん…」
美由紀「実はね…寝ている間、ずっと菜帆ちゃんのこと考えてたんだ。心配させちゃってるって思って…」
菜帆「私もですよ〜。学校で友達に上の空って言われちゃったくらいですから〜」
美由紀「…エヘヘ、おんなじだねっ」
菜帆「…フフフ、そうですね〜」
そこに…
グーーー
美由紀「…あっ…安心したらお腹がっ…」
菜帆「もういい時間ですから、夕ご飯にしましょう〜。これから着替えたらご飯を温めて来ますね〜」
美由紀「うんっ」
菜帆「ご飯を食べたら…もう熱もだいぶ下がってますしお風呂に一緒に入りましょう〜」
美由紀「えっ、大丈夫かな?」
菜帆「ちゃんと身体と髪を拭けば大丈夫だって話ですよ〜」
美由紀「じゃあそうしよっ」
翌朝、食堂には菜帆と全快した美由紀の仲の良い姿が戻ってきたという…
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あとがき
飛神宮子です。
今月は百合百合枠多めに。こちらはエビカニコンビのお二人。
季節の変わり目って風邪ひきやすくなりますよね。私も例に漏れずしばらく残りました。
菜帆ちゃんの場合、ああいう風に不意に言っちゃいそうですよね。周りもそういうのを気にするお年頃ですし。
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2017・06・30FRI
飛神宮子
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