ある日のとあるテレビ局… |
千夏 | 「唯ちゃんのパフォーマンス、さすがね…」 |
唯が歌番組の収録をしているところに一人の女性が現れた。 |
P | 「お、来たのか。ラジオブースで待っててもらっても良かったんだけど」 |
千夏 | 「同じ局で同じ時間帯にお仕事とか、狙ってやったんでしょう?」 |
P | 「まあそれは否定しない。千夏のラジオの収録と同じくらいでこっちも終わる予定で組んでたからな」 |
どうやらその女性は千夏。同じビルのラジオ局でラジオの収録を終えてやってきたようだ。 |
千夏 | 「もう…2時間前にアイドルを打ち合わせに一人置いていくなんて…って、それでこれで終わりなのね?」 |
P | 「こっちに付かないとだったしさ。トーク部分の収録は終わってるから、これで挨拶したら一緒に帰れるぞ」 |
♪〜 |
P | 「あ、終わったな」 |
司会 | 『大槻唯さんでRadio Happyでした、大槻さんありがとうございましたー』 |
パチパチパチパチパチパチパチパチ |
スタッフ | 『はい、オッケー!次、○○さんの歌収録準備ー!』 |
唯 | 「ありがとうございましたー!みんなーまたねー!」 |
ブンブンと観客に向けて手を振る唯。そしてスタッフが準備に慌しく動き始めた。 |
千夏 | 「あら…?」 |
その手は徐々にプロデューサーと千夏の方へ向いていった。 |
唯 | 「おーい!プロデューサーちゃーん!ちなったーん!」 |
千夏 | 「もう気付いていたみたいね」 |
P | 「まあそれはそうだろうな…って、あっ…」 |
二人へと近付いてくる唯。そして一部の観客の目線もそっちへ向いていく。 |
唯 | 「ちなったん来てたんだー!」 |
千夏 | 「唯ちゃんもう、叫ぶから私にも気付かれちゃったじゃない」 |
P | 「気付かれてしまったものは仕方ないさ」 |
唯 | 「ゆいの見に来るなんて珍しいね。今日はどうしたのー?」 |
千夏 | 「今日はラジオの収録よ。あ、そうそう…次から3週は私の枠で唯ちゃんの曲を流すわね」 |
唯 | 「あの深夜のレッバラのだよね?ちなったんがゆいのプッシュしてくれるんだ、嬉しいーっ」 |
千夏 | 「それでプロデューサーさん、これで着替えたら唯ちゃんも帰れるのよね?」 |
P | 「その予定だけどどうした?」 |
千夏 | 「唯ちゃん、借りていくわよ」 |
P | 「そういうことか、分かった。事務所の方には直帰と言っておくから、まずは着替えに行こう」 |
唯 | 「そうだねー。ちなったんも一緒に行こっ」 |
千夏 | 「いいのかしら…でも唯ちゃんが言うくらいだから」 |
P | 「ああ、俺じゃ着替え中は入れないから俺からもお願いするよ」 |
千夏 | 「分かったわ、一緒に行ってくるわね」 |
|
ところ変わってここは千夏の住んでいるマンション。 |
唯 | 「ねーねー、何読んでんの?」 |
千夏 | 「次回紹介する作品よ。これから2週間掛けて読み込んで要点をまとめないといけないわ」 |
唯 | 「いつもやってるヤツしてるんだ。今週は346プロのこぼれ話だよね」 |
千夏 | 「ええ。今週は…聞いてからのお楽しみと言いたいところだけれども、唯ちゃんには先に話しておくわね」 |
唯 | 「え、なになにー。ちなったんがそこまで言うのは、ゆいについてのことだよね?」 |
千夏 | 「ええ。8割は唯ちゃんの話に終始したの。さっき言ったけど、このラジオでは初オンエアだもの」 |
唯 | 「何だかそう言われると恥ずかしいかもねー」 |
千夏 | 「今のこの恰好よりも?」 |
唯 | 「うーん、同じくらいかなー」 |
今はベッドの上で千夏の生足の腿の辺りに唯が頭を載せている状況である。しかも… |
千夏 | 「いくらお風呂上がりだとは言っても早く寝巻きを着なさい」 |
唯 | 「はーい。バスタオルはいつもの籠?」 |
千夏 | 「もう洗濯機の中に入れておいて。明日の朝すぐに回すから」 |
唯 | 「下着とパジャマパジャマ〜♪」 |
千夏 | 「それはいつもの所だから、先に出しておきなさいって言ったでしょ?」 |
唯 | 「だってすぐに汗流したかったんだもん」 |
千夏 | 「それも唯ちゃんらしいけれど…」 |
……… |
唯 | 「ねえねえちなったん」 |
千夏 | 「どうしたの?」 |
唯は寝巻きに着替えて、座りながら本を読んでいる千夏の横に並んでゴロンとしている。 |
唯 | 「今月末には桜が満開だってー。ほら、○○○公園とか××川河川敷のライトアップが今週末からだって書いてあるよ」 |
唯は持っていた雑誌を千夏に見せた。 |
千夏 | 「確かにもうそんな時期…懐かしいわね…」 |
唯 | 「うんっ…ゆいとちなったんがデュオになったのって…」 |
千夏 | 「3月の中旬くらいだったかしら。ちょうどプロデューサーさんに二人で呼ばれて」 |
唯 | 「ゆいとちなったんって一緒のプロデューサーちゃんだったけど、ユニットが別だったから交流無かったもんねー」 |
千夏 | 「薫ちゃんとあいが同じイベントでいたくらいだったかしら」 |
唯 | 「あの二人も仲いいよねー」 |
千夏 | 「ええ。あいのこぼれ話の時は大体が薫ちゃんの話題になるくらいだもの。千秋も雪美ちゃんの、アヤもこずえちゃんのね」 |
唯 | 「礼子さんが一番普通のこぼれ話だったりするもんねー」 |
千夏 | 「好きなことを話すとなるとみんなそうなるのよ…私だってそれを否定はできないから」 |
唯 | 「でもあれももう何年も前なんだねー」 |
千夏 | 「そうね…それでどうしたの?」 |
唯 | 「ちなったんって、今週末は空いてる?」 |
千夏 | 「その次の週が満開なんでしょう?それに残念だけど空いてないの。唯ちゃんこそ空いてるの?」 |
唯 | 「ゆいが聞いてるんだから空いてるってばー。プロデューサーちゃんがオフだって言ってたしー」 |
千夏 | 「そこは私が唯ちゃんのスケジュールを空けてもらったの。詳しくは今度話すから」 |
唯 | 「えっ?どうして?」 |
千夏 | 「私と一緒に来てもらいたい場所があるの…用意してもらいたい物もあるから準備してね」 |
唯 | 「う、うんっ」 |
千夏 | 「それでその次の週の金曜日はどうかしら。土日はお仕事入るでしょう」 |
唯 | 「んーと、4月1日だよね。その日は確かお昼だけお仕事だったはずだから夜は何も無いよー」 |
千夏 | 「私も金曜は何もお仕事が入ってないからその日の夜でどう?」 |
唯 | 「夜桜見物だねっ、うんうんしよしよー!」 |
千夏 | 「まだ寒いでしょうから…暖かくして行きましょう」 |
唯 | 「うんっ!ちなったんありがとっ」 |
そう言いながら唯は起き上がって… |
チュッ… |
読んでいた本に栞を挟んでベッド脇のテーブルに置いている千夏の頬へそっと口付けた。 |
千夏 | 「もう…そんなことをされたら…」 |
チュ… |
千夏もお返しとばかりに唯の頬へと唇を浴びせる。 |
唯 | 「ちなったん…」 |
千夏 | 「フフ…んっ…もう遅いしそろそろ休もうかしら」 |
そう言いながらベッドへと身を委ねる千夏。 |
唯 | 「えー、もっとちなったんと喋りたかったなー」 |
千夏 | 「春休みなんだからいっぱい話す時間はあるでしょう」 |
唯 | 「そうだけど、うー…」 |
千夏 | 「そういうこと言っているなら別の布団に寝てもらおうかしら」 |
唯 | 「やーだー!分かったってばー、ゆいももう寝るからっ」 |
唯もようやく降参して千夏の隣へとまた寝転がった。 |
千夏 | 「素直で良い子は好きよ」 |
唯 | 「ちなったん…おやすみー」 |
ぎゅっ |
そして唯は千夏の身体を抱き枕のように抱きしめた。 |
千夏 | 「もう…おやすみ、唯ちゃん」 |
カタンッ ピッ |
千夏はそれもいつものこととメガネだけをテーブルに置いて、部屋の照明を落として一緒に布団と毛布に包まった… |
|
そして千夏の約束した日… |
千夏 | 「唯ちゃん大丈夫?眠いわよね」 |
唯 | 「ううん、聞いてから楽しみにしてたもんっ。だから大丈夫ー」 |
千夏 | 「本当に眠くなったら言いなさいね。隣で寝てても怒らないから」 |
唯 | 「う、うんっ。やっぱり優しいねー」 |
千夏 | 「行ってみたかったんでしょう?私の家はそこより遠くの場所だけど、こういう旅も悪くないものよ」 |
唯 | 「だけど一番列車なんて凄いよー!ニュースで見たけど競争とか凄かったんでしょー?」 |
ここは大宮駅の東北新幹線のホーム。 |
千夏 | 「大変だったわ。座席の数が50くらいしかないから発売当日に並んでお願いして買ったのよ」 |
唯 | 「ど、どうしてー?ちなったんがそんなことするなんて」 |
千夏 | 「唯ちゃんにも私の故郷を感じてもらいたかったから…じゃダメかしら?」 |
唯 | 「ちなったん…大好きっ!」 |
ぎゅうっ |
唯は人目もはばからず千夏に抱き付いた。 |
千夏 | 「ここは東京と違って埼玉のマスコミの人くらいしかいないけれど…取材を受けないとも限らないわよ」 |
唯 | 「あっ、そっか…バレちゃったらまずいよね」 |
その言葉を最後にして唯は千夏から身体を離した。 |
唯 | 「そういえばちなったん、夜ってその…」 |
千夏 | 「一緒の部屋じゃない方が良かった?」 |
唯 | 「そんなことないってー。ちなったんが一緒じゃないと…ゆい寂しいもん」 |
千夏 | 「唯ちゃん…でも私だってそうよ」 |
唯 | 「アハハっ、一緒だねっ」 |
千夏 | 「フフフ、そうね」 |
唯 | 「ちなったん、あらためて3日間よろしくね。二人だけのオフを満喫しようっ!」 |
千夏 | 「こちらこそ、二人水入らず時間を過ごしましょう。そろそろ私たちを運んでくれる列車が…来たわ」 |
二人の関係をより濃いものとすることになった北海道。そこへ向かう新幹線の一番列車が大宮駅のホームへと滑り込んでくる… |
|
その数日後である唯が約束した4月初日の金曜日の夜… |
唯 | 「綺麗だねーっ!」 |
千夏 | 「あのイベントの時は桜の下でライブもしたのよね」 |
二人は夜の桜並木の下を歩いていた。 |
唯 | 「ちなったんとは初めてだったから、上手くいかないことも多かったね」 |
千夏 | 「イベントの最後くらいには割と良くはなったけれど、本当にトレーナーさんにはお世話になったわ」 |
唯 | 「一緒の衣装を着て、初めてステージに立った時ってちなったんはどうだった?」 |
千夏 | 「最初にレッドバラードで立った時くらい不安で緊張してたわ。唯ちゃんもでしょう?」 |
唯 | 「うん…チョー緊張してた気がする。でもそれをちょっとでも解してくれたのはちなったんだったよ」 |
千夏 | 「唯ちゃんも私の心の支えになってくれてたのよ。一人じゃないって思えたわ」 |
唯 | 「何だかそう言われると照れちゃうなー」 |
千夏 | 「最初のステージは上手くいったとは言えなかったけども、終わった時に本当に唯ちゃんとで良かったって」 |
唯 | 「ゆいもちなったん以上にミスだらけだったよね。ちなったんはそれでも…優しかったな」 |
千夏 | 「全力の唯ちゃんが見えたから、それを否定するなんてしたくはなかったのよ…」 |
唯 | 「…ちなったん…ゆいもそうだったから…ありがと…」 |
千夏 | 「もう…唯ちゃん、泣かないの」 |
唯 | 「え?ゆい、泣いちゃってたんだ…でも、ちなったんも…」 |
気が付いた時には二人の眼からは涙が筋を描いていた。 |
千夏 | 「…唯ちゃん、ちょっとこっちに来て」 |
唯 | 「えっ?!」 |
千夏は顔を隠すように誰もいない桜ではない樹の木陰へと唯を引き込んで… |
唯 | 「ど、どうしたの?ちなっ…んむっ!」 |
唯が気が付いた時にはもうその唇は千夏に奪われていた。 |
唯 | 「…はぁっ…はぁっ…ちなったん強引だよぉっ…」 |
千夏 | 「我慢…出来なかったの…」 |
唯 | 「ううん、驚いちゃっただけだからっ。ちなったんなら嫌じゃないもん…だから…んっ…」 |
まるでそれが当たり前かのように、一度離れた唯の唇はまた千夏を引き寄せていた。 |
千夏 | 「んっ…唯ちゃん…これからもずっと一緒にね」 |
唯 | 「…ちなったんも…ずっとずっとゆいのそばに居てね。約束だよっ!」 |
ぎゅうっ |
見上げれば桜色の夜空。二輪の花はさらなる力をもって今年も花を咲かせていく… |