A Last Piece from far away(最後のピースが彼方から)

梨沙「ちょっと晴!」
「ん?何だ…まだ寝てたのによ」
梨沙「せっかく二人で一緒なんだから…その…」
「あ、ああ…そうだな」
事務所の敷地中の満開の桜の下のベンチ、二人はそこにいた。
「だけどよ、こんな時間も良いもんだな」
梨沙「こんなことしてなければアタシも良いと思ったわ」
「やるって言ったのは梨沙の方だろ?」
梨沙「そうだけど…」
「それに膝枕なら普段もし合ってるんだしな」
梨沙「普段はこんな知り合いが見るようなところでなんてやってないじゃない」
「ほらそことかそことか、オレ達の他にもやってるじゃねーか」
梨沙「本当にこの事務所ってどうなってるのかしら」
見回せば桜の木の下や他のベンチでも何組かのカップルが仲睦まじい姿を見せている。
「ま、でもそろそろ交代するか。約束だしな」
梨沙「もういいの?別にアタシはまだ良かったのに」
「もうオレは充分だから、ほらよ!」
パンパンッ
晴は梨沙の腿から起き上がってズボンのホコリを払った。
梨沙「じゃ、じゃあ…」
ぽふっ
梨沙の頭が晴の腿へと載せられた。
梨沙「んっ晴っ…何だか落ち着く…」
「梨沙もこういうのしてもらうのも気持ち良いもんだろ?」
梨沙「ん…でもたぶん晴のだから…。他の人と晴とじゃ違うから」
「ああ…ありがとな。そう言われると照れるけどな」
梨沙「しばらくこうしてても…いい?」
「梨沙が好きなだけしてていいぜ」
………
二人がそういう仲になったのは…とある8月まで遡ることになる。
「おはよーっす、プロデューサー」
「お、来たな晴。おはよう」
ここはそのある日のアイドルルーム。
「んで、こんな朝早く何なんだ。オレせっかく今日はサッカー観に行くつもりだったのに」
「それはもう一人来てからだ。そんなに時間は取らないつもりだから」
「それならこれ終わったら観に行ってもいい?」
「時間が合うなら今日はオフにしてあるんだから自由に使ってもらっていいぞ」
「おっシャっ!でも何でこんな時間にしたんだ?」
「しょうがないだろ?ただでさえ俺の担当は小さい子が多いし、マーチングバンドでうるさい中で話をされたいか?」
「あー…それで最近は薫とか千枝も来てるんだよなー」
「いずれ晴にも、今から来るもう一人にもさせたいんだがな。衣装の手筈がついたらな」
「うへぇ、オレもやらされるのかよー」
「ま、俺が担当になったアイドルはいずれそうなる運命の予定だからな」
「ああ、分かったよ…」
そこに…
ガチャっ
梨沙「おはようプロデューサー。急に早めに帰京してくれとか、せっかくパパともう少し長く過ごせると思ってたのに」
「それは梨沙の親に俺からも謝っただろう。納得はしてもらったんだからさ」
梨沙「アタシが納得してないのよ」
「お、おはよっす梨沙」
梨沙「あ、晴だったのね?」
「そういうことだ。とりあえずは晴の隣でいいから座ってくれよ」
「え?梨沙はもう何のことか知ってるのか」
「説得するために仕方なく先に教えたからな。晴はもうこっちに戻ってたから親御さんにはこの件をさっき連絡してあるから」
「あー、まあいいや。それでもしかして梨沙とユニットでも組むのか?」
「そういうことになる。まずはこの企画書を見て」
プロデューサーは晴と梨沙へと書類を二部ずつ手渡した。
「まず最初のが今回結成するユニットのもの、もう1つが海外でのテレビ番組の収録のものになる」
「あー、何か急にパスポートを取らされたのはこれなんだな」
梨沙「夏休みに帰る前にアタシ達だけ必要な物に追加されてねぇ」
「それでまずは今度のドリームLIVEフェスティバルで二人にユニットとして出てもらいたいんだ」
梨沙「ユニットねえ…晴となら気心も知れていないわけでもないし」
「梨沙かあ…オレも別に梨沙となら構わないな」
「それでユニット名は今書いてあるのでいいか?一応二人の趣味から取ったんだけど」
梨沙「ビートが…アタシ?」
「シューターはオレだよな?」
「そういうことだ。この後着てもらうけど衣装がカッコいい感じのだからユニット名もそうしたくてさ」
「オレは良いと思うけど、梨沙はどうなんだ?」
梨沙「アタシもこれでいいわ。プロデューサーなりに考えてくれたんでしょ?」
「俺なりにな。二人が良いっていうならこれで通しておくよ。これのレッスンは後で予定聞くから明日以降から組んどくぞ」
晴・梨沙『はーい』
「この件はこれでお終い。それで次はこのオーストラリアの動物番組収録についてだ……」
………
そして時は流れてそのオーストラリア…
「っくぁーっ!今日も疲れたーっ!」
梨沙「ほら、ベッドはまずシャワー浴びてからって言ったでしょ!」
「あー、ご飯も終わってるしさっさと入って休むかー。梨沙も一緒に入るかー?」
梨沙「…いいの?」
「ん?オレから言ったんだから別に構わないけど」
梨沙「また昨日みたいなことになるかもしれないからよ」
「だってオレ、外国のヤツの使い方知らなかったんだよ!」
梨沙「今日はちゃんとした使い方教えてあげるから、ほら行きましょ」
 
「んーっ…とりあえずは今日で折り返しだな」
梨沙「ほら、髪乾かすからこっち来て」
ユニットバスから出て寝巻きに着替えた二人。
「ああ、まずは梨沙からな」
梨沙「お願いするわね」
カチャッ ブワーーーーーーー わしゃわしゃわしゃ
ベッドに座って髪にドライヤーをあて始めた。
「けどよ、今のところは何とかなってるな」
梨沙「晴が来てからも特に大きなトラブルもなくて良かったわね」
「でも残り2日かー…もっと満喫したかったぜ」
梨沙「いいじゃない。アタシなんて日本を発ってもう1週間近いのよ…」
「何だ、寂しかったのか?」
梨沙「………」
その言葉に梨沙は無言になった。そして…
「ん…?」
ギュっ
「お、おいっ!梨沙!」
ボフンッ
梨沙は晴に抱き付いてそのままベッドへと倒し込んだ。
梨沙「そうよっ…!1週間も日本から遠く離れた場所に来て寂しくないわけないじゃない…!」
「………」
梨沙「晴と裕子が来るまでアイドルは3人だけだったのよ…。いつも一緒にいた…仲間と離れて…」
「でもオレが来た時、普通にしてたじゃんか」
梨沙「ううん…プロデューサーも見てたからそう見せてただけ。内心はホッとしてたの」
「そうか…」
梨沙「すぐ前に晴と一緒にユニットしてたから…それもあったのかもしれないわ」
「何だよ梨沙…」
カチャッ ぎゅうっ
晴は持っていたドライヤーを切って梨沙の頭を抱え込んだ。
「そういうことだったらもっと前に言ってくれよ」
梨沙「言えるわけないじゃない!こんなこと…」
「こんなオレで良かったら少しくらいなら梨沙の寂しさを紛らわせてやるよ」
梨沙「こんなオレだなんて言わないで。プロデューサーにもこんなアタシ見せなかったんだから」
「ああ…うん」
梨沙「アタシがこういうのを見せられるのは家族と…きっと晴だけ…」
「梨沙…お、おいちょっとっ…!」
モゾモゾモゾ チュッ…
晴が抱え込んでいた頭は、気が付いた時には既に晴の目の前へと移っていた。
「んっ…そういうのいきなりやらないでくれよ…心の準備なんて全然してなかったのに」
梨沙「ふうっ…だって……ダメ…だったの?」
「いや別に…そういうことじゃなくて…だーっ!もう結局オレ、梨沙のペースに流されてる気がする」
梨沙「アハハっ、晴ってこういう押しには案外弱いわね。でも好きなのは確かなんだから」
「ああ、その想いは確かに受け止めた」
………
時は戻って桜の下のベンチ。
「お、ここに居たのか」
「プロデューサー、どうしたんだ?」
そんなベンチにプロデューサーがやってきた。
「いや梨沙に連絡してたんだけど通じなくて」
「膝の上に載せてちょっとでこうなってたからなー」
「急ぎの用じゃないからいいけどさ。でも晴の膝で幸せそうな顔して落ち着いてるもんだな」
「まあオレもさっきまでしてもらってたからな」
「ああそういうことか。それなら起きてからでいいから用件を伝えておいてもらえるか?」
「オレからで良いのならいいぜ…」
春の麗らかな桜色の空の下、その後も晴は梨沙が起きるまで寝ている頭に優しく手をあてながらゆったりと過ごしていた…
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あとがき
飛神宮子です。
今月の百合百合枠は「ビートシューター」。今まで書いた中では一番年齢が下の組み合わせです。
この二人の結成と共に出演していたイベントってちょうど連続していたんですよね。
こんな遠くなのにもうすぐ来てくれる。しかも少し前まで一緒に汗を流して切磋琢磨していた人。
心の沈んだ隙間にはまってくれたピース、梨沙にとってはそれが晴…だったんでしょうね。
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2016・04・12TUE
飛神宮子
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