5月の第二日曜日。それは5人のアイドルがチェックポイントに届いた日。 |
巴 | 「…ウチ…届いたんじゃな…。これからさらに魅せてやるけぇなぁっ!!」 |
あるアイドルは歓喜に叫び… |
肇 | 「おじいちゃん…私、やり切りました…フフフ…」 |
ボフンッ |
また別のアイドルは充実感に倒れ込む… |
……… |
??? | 「………んっ………」 |
とある寮の部屋にいた彼女もまたその一人。このアイドルは堰を切ったように涙が溢れ出していた。 |
春菜 | 「比奈ちゃん、比奈ちゃん…」 |
比奈 | 「ゴメンなさいっス…でも…こんなの見せられたら…止まらないスよ…」 |
ここは春菜の部屋のベッドの上。二人は寄り添ってベッドに腰掛けていた。 |
春菜 | 「…これはきっと比奈ちゃんに上のステージを目指して欲しいという皆さんの気持ちの表れです」 |
比奈 | 「そうっスね…とても有難いスけど…こんなアタシで良かったのかなって…」 |
その比奈の顔はその部屋の主である春菜の胸元にあった。 |
……… |
時は数時間前に遡る。 |
ガチャっ |
比奈 | 「お邪魔するっスよー」 |
春菜 | 「ただいまー」 |
千枝 | 「比奈さんこんばんは。春菜さんおかえりなさい」 |
比奈 | 「千枝ちゃんこんばんはっス」 |
春菜 | 「千枝ちゃん、もし9時くらいに隣の部屋が騒がしくなったらゴメンね」 |
千枝 | 「9時って…」 |
春菜 | 「千枝ちゃん、今日が発表ですよ」 |
千枝 | 「あぁっ!はい、分かりました」 |
比奈 | 「年に一度の一大行事っスからね」 |
千枝 | 「今年は去年と違って遅い時間なんですよね」 |
春菜 | 「去年は大きな部屋にみんな集まりましたよね」 |
比奈 | 「ああ、何だか懐かしいっス。悲喜交々のあの感じ」 |
千枝 | 「そういえば比奈さんはどうして今日ここに来たんですか?」 |
比奈 | 「あの…その、一人で結果を受け止める自信っていうのが無かったんスよ、千枝ちゃん」 |
千枝 | 「そうだったんですか…」 |
比奈 | 「一番自分が心強いと思ったのが春菜ちゃんスから」 |
千枝 | 「比奈さんなら大丈夫だと思います。千枝も応援してますから」 |
比奈 | 「千枝ちゃんありがとっス」 |
春菜 | 「あ、千枝ちゃんはもう夕食に行きました?」 |
千枝 | 「さっき宿題が終わったばっかりでこれからです」 |
春菜 | 「じゃあこれから準備できたら一緒に行きましょう。比奈ちゃんは待っててもらっていいですか?」 |
比奈 | 「春菜ちゃんの部屋でゆっくりさせてもらうっス」 |
……… |
時は戻り… |
比奈 | 「何だか凄いことになっちゃったっス」 |
春菜 | 「全ては比奈ちゃんを煌く舞台に上げたいと思ったファンの皆さんの力です」 |
比奈 | 「こんな私でもいいって言ってくれる人もいるんスよね…」 |
春菜 | 「でも比奈ちゃん、もしかしたら勘違いしてません?」 |
比奈 | 「………?」 |
春菜 | 「今回の結果はファンの皆さんの力があってこそですけど」 |
比奈 | 「そうっスよ」 |
春菜 | 「でもそうなるには比奈ちゃんの確かな努力があったからですよ」 |
比奈 | 「…自分らしくやってきただけなんスけどね…」 |
春菜 | 「でもそんな比奈ちゃんをファンの人は見ていてくれたんですから」 |
比奈 | 「…ありがとう春菜ちゃん」 |
春菜 | 「…はい?」 |
比奈 | 「やっぱりアタシ一人だけだったら、この現実を受け止め切れなかった気がするんスよ」 |
春菜 | 「………」 |
比奈 | 「レッスンに来てせっかくだからって部屋に誘ってくれて…正直今日は気が気じゃなかったっス」 |
春菜 | 「…何となくそんな気がしてたんです。比奈ちゃん今日のレッスンが浮ついてたじゃないですか」 |
比奈 | 「やっぱりそうだったんスね」 |
春菜 | 「大事な人が…その…そんな状況で、心配しないわけにはいかないです」 |
比奈 | 「こうやって安心させてくれる人がそばにいてくれて…アタシ、幸せ者っス」 |
春菜 | 「もう、そういうこと急に…恥ずかしいじゃないですか…」 |
比奈 | 「春菜ちゃん、こういう話には点で弱いスよね」 |
春菜 | 「それは普段しないですし…」 |
比奈 | 「そういうところが…」 |
チュッ |
その唇は春菜の唇へと一直線だった。 |
比奈 | 「可愛いんスけど」 |
春菜 | 「比奈ちゃんっ!?」 |
比奈 | 「その…これからもよろしくお願いします、春菜ちゃん」 |
春菜 | 「え?あ、はい。こちらこそ比奈ちゃん」 |
ぎゅっ |
二人の腕は相手の背中へと輪を作りあっていた… |
……… |
その後ようやく落ち着き、ベッドの中に潜り込んだ二人 |
比奈 | 「ところでちゃんと約束は守ってくれるんスよね?」 |
春菜 | 「約束?してましたっけ…」 |
比奈 | 「アタシちゃんと5位以内に入ったっスよ」 |
春菜 | 「えっと…ああっ!分かりました」 |
比奈 | 「いつがいいスかねえ…一番厳しい時期はさすがに地獄っスから」 |
春菜 | 「はあ…そうでした。5位以内に入ったら私を一日自由に使えるって約束でしたね」 |
比奈 | 「いずれお伝えするっスよ」 |
春菜 | 「でもこれからきっと大変になりますよね」 |
比奈 | 「まずは明日プロデューサーから書類一式を貰ってきてそれからっスけど」 |
春菜 | 「こういう一緒に居られる時間も少なくなっちゃうのが…」 |
比奈 | 「アタシもっスよ…」 |
春菜 | 「だから今日は…」 |
ぎゅぅっ |
春菜は比奈の温もりを、薫りを、鼓動をその身に焼き付けるか如く、力いっぱい比奈を抱きしめた。 |
春菜 | 「しばらく必要ないくらいまで、いっぱい比奈ちゃん分を補給させてください」 |
比奈 | 「そんなの…」 |
ぎゅむっ |
比奈も春菜を抱きしめ返した。 |
比奈 | 「アタシも欲しいっスよ。同じ時間離れてしまうんスから」 |
春菜 | 「比奈ちゃんのこと…好きでよかったです」 |
比奈 | 「アタシも春菜ちゃんがいてくれて…良かったっス」 |
春菜 | 「比奈ちゃん…」 |
比奈 | 「春菜ちゃん…」 |
チュッ… |
一人だと不安な道も、二人でならきっと…比奈も春菜も唇にそんな想いを載せて… |