その時、わたしは見てしまったんです。 |
あやめ | 「ここなら誰の目にも留まらないはずですぞ、珠美殿…」 |
珠美 | 「……幸いにして皆も見ていませんね、あやめ殿…」 |
あやめ | 「さあ早く…余りの長居は詮索されるやもしれないですから」 |
珠美 | 「そうですね…」 |
そして二人の顔が近付き触れ合うのを、わたしは草葉の陰からただ見ているだけでした… |
……… |
歌鈴 | 「それでは春がしゅ…うう…」 |
芳乃 | 「歌鈴殿、落ち着くのですー…」 |
歌鈴 | 「んんっ…春霞のミニライブおつかれさまでしたっ…乾杯っ!」 |
四人 | 『かんぱーい!』 |
ここは事務所の敷地の中にある桜の木の下。 |
珠美 | 「しかし晴れて良かったですなー」 |
芳乃 | 「皆の日頃の行いが、良かったのでしょー」 |
紗枝 | 「そうどすなあ…気温も肌寒くなく、心地よう感じます」 |
あやめ | 「他の方々も楽しんでおりますな」 |
歌鈴 | 「お休みでこんな誰の目も気にしなくて良い場所ですからねっ」 |
周りを見渡せば他のアイドルも束の間の桜色の光景を愉しんでいた。 |
紗枝 | 「はい、ではこのお重をどうぞ食べておくれやすー」 |
歌鈴 | 「これは全部紗枝ちゃんの手作りですか?」 |
紗枝 | 「はいー、響子はんや葵はんにも手伝ってもらいましたえ」 |
芳乃 | 「薄いように見えてー素晴らしい味付けでしてー」 |
珠美 | 「この時期は山菜が美味しいですな、あやめ殿」 |
あやめ | 「新しい緑の芽吹く頃、あやめも幼少の頃は山に分け入っては山の恵みを頂くこともありました」 |
歌鈴 | 「そうなんですか?わたしは自分で入ることは無かったでつ」 |
芳乃 | 「しかしー、彼の方が来られないのは勿体無くー」 |
紗枝 | 「こんな日に別のお仕事とは…ほんまに残念どす」 |
芳乃 | 「わたくし達だけならばー…」 |
そこで不意に頬が少し染まる芳乃。それに呼応するように… |
紗枝 | 「芳乃はんも…?」 |
紗枝の頬にも紅が注してきた。 |
芳乃 | 「紗枝殿もでありますかー?」 |
歌鈴 | 「へっ?芳乃ちゃん?紗枝ちゃん?」 |
そんな二人の光景を見て頭に?マークが浮かぶ歌鈴。 |
芳乃 | 「まー、今日はお仕事でここには居ないのですがー」 |
紗枝 | 「うちも、今日は遊びに行く言われたんでなあ」 |
芳乃 | 「紗枝殿もでありますか」 |
紗枝 | 「りっぷすの方で遊ぶ言うて」 |
芳乃 | 「わたくしの方もハートウォーマーでお仕事とー」 |
歌鈴 | 「あっ…そういう話だったんでつ…ですね…」 |
紗枝 | 「歌鈴はんからはそんな話、聞きまへんなあ」 |
歌鈴 | 「へ?わ、わたしっ!?」 |
芳乃 | 「わたくしの耳にもー、入ってはきませんでしてー」 |
歌鈴 | 「ううっ…わたしにはいないですよぉ」 |
紗枝 | 「ほんなら、好いとう人はおるん?」 |
歌鈴 | 「それは…」 |
俄かに頬を染め始めた歌鈴。 |
歌鈴 | 「わたしにはまだ片想いでしゅから…」 |
芳乃 | 「あらあらー…」 |
紗枝 | 「そういう話なら早めに蹴りつけんと、あっという間に取られてまうでー」 |
歌鈴 | 「もういいじゃないですかぁ…」 |
紗枝 | 「フフフ、少しやり過ぎてしまいましたなあ、芳乃はん」 |
芳乃 | 「わたくしはそこまでやっておりませぬー」 |
紗枝 | 「そうやって芳乃はんは、悪いことをぜーんぶうちに押し付けるんどす」 |
歌鈴 | 「まあまあ…って、そういえば珠美ちゃんとあやめちゃんはどちらへ?」 |
芳乃 | 「お二人でしたら先ほどー、事務所の建物の方へ向かわれましたがー」 |
紗枝 | 「随分急いではったなあ…」 |
歌鈴 | 「それならわたしもちょっと行ってきます。きっと同じ目的ですから」 |
芳乃 | 「はいー、歌鈴殿行ってらっしゃいませー」 |
……… |
その道中ですが、わたしは珠美ちゃん達を見ることはありませんでした。 |
歌鈴 | 「他の道は遠回りだし、この道だよね…」 |
きょろきょろと周りを見渡して…桜もたくさん咲いていて綺麗な光景が目に映ります。 |
歌鈴 | 「あれ?あそこにいるのはもしかして…」 |
道を少し外れたところに見える桜の木の陰、お二人らしき人が見えました。 |
歌鈴 | 「何してるのかな…?」 |
ちょっと二人の世界に入っているみたいでしたので、そっと近付きながら眺めることにしました。 |
|
あやめ | 「しかしまあ見事に咲き誇ってますな、珠美殿」 |
珠美 | 「これほどの桜が近くで楽しめる、ここでアイドルになれて幸せです」 |
あやめ | 「桜の花は本当に、気持ちまで華やかに染め上げるものです」 |
珠美 | 「ところであやめ殿、珠美をどうしてこちらへ?」 |
その時、わたしは見てしまったんです。 |
あやめ | 「ここなら誰の目にも留まらないはずですぞ、珠美殿…」 |
珠美 | 「……幸いにして皆も見ていませんね、あやめ殿…」 |
あやめ | 「さあ早く…余りの長居は詮索されるやもしれないですから」 |
珠美 | 「そうですね…」 |
そして二人の顔が近付き唇が触れ合うのを、わたしは草葉の陰からただ見ているだけでした… |
あやめ | 「む?曲者っ!」 |
その時です、わたしに向かって何か飛んできました。 |
歌鈴 | 「…ひゃんっ!」 |
パシッ |
歌鈴 | 「これは…柔らかいけど手裏剣っ?!」 |
咄嗟でしたけど、わたしも先日のアイドルチャレンジで鍛えられていたのが奏功しましたっ。 |
あやめ | 「そんなっ!あやめの手裏剣がそうも容易く…」 |
歌鈴 | 「あ、あのっ!すみまてっ…!」 |
珠美 | 「あれ?歌鈴殿ではないですか。どうしたんですか?」 |
歌鈴 | 「お二人を向こうで見掛けなくて、それで見付けたのでつい…」 |
珠美 | 「まさか見られていたなんて…不肖珠美、不覚です…」 |
あやめ | 「あやめも、そればかりか手裏剣まで受け止められるとは…」 |
歌鈴 | 「これはその、アイドルチャレンジの時を思い出して…」 |
あやめ | 「おお、そうでしたな」 |
歌鈴 | 「その…珠美ちゃんとあやめちゃんも…なんですね?」 |
珠美 | 「はい…珠美とは護り護られる仲です」 |
あやめ | 「あやめの愛しきパートナーでありますから」 |
歌鈴 | 「何だか今日は…そういう話をよく聞く日になっちゃいました…ヘヘヘ…」 |
あやめ | 「と、言いますと?」 |
歌鈴 | 「ああっ!何でもないです、その…何でもっ!」 |
珠美 | 「そうですか…分かりました。ではそろそろ珠美たちも戻りましょうか」 |
あやめ | 「遅くなっては心配されますし、歌鈴殿も一緒に参りましょう」 |
歌鈴 | 「はいっ…うわわぁっ!」 |
バターンっ |
またコケちゃいましたっ…こんなわたしにも、二人みたいな人ができたらいいなって…ちょっぴり…です。 |