気付いた時には隣にいた泰葉さんの胸の中で、千鶴さんに背中を優しく撫でられながら涙を流していました… |
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ほたる | 「茄子さん、お疲れさまでした」 |
茄子 | 「ほたるちゃん、来てくれてありがとうございました」 |
ほたる | 「来てくれてなんて…事務所は開店休業状態でしたし、裕美さんやそれこそ茄子さんからもお誘いがありましたから」 |
茄子 | 「皆さんでライブを見に来てましたからね〜」 |
ほたる | 「昨日一足先に行っちゃったので…」 |
ぎゅっ |
思わず隣に座っていた茄子さんの横から抱き着いてしまいました。 |
ほたる | 「寂しかったのもあるんです…」 |
茄子 | 「本当はほたるちゃんを一人残して行きたくはなかったんですけどね…さすがに参加者じゃない人はと言われちゃいました」 |
ほたる | 「一人の部屋で寝るのは寂しくて…怖くて…」 |
茄子 | 「私もです。今日は二人ですけど、この部屋で一人は切なくて…本当に待ち遠しかったんですよ」 |
ほたる | 「茄子さん…」 |
ここは事務所の名古屋ライブのために事務所で数フロアを貸切ったホテルの一室なんです。 |
茄子 | 「今日のために二人用の部屋にしてもらってたので、一人だと広すぎてガランとしてて…」 |
ほたる | 「えっ…でもベッドが一つしか…」 |
茄子 | 「二人部屋と言っても家族用のダブルベッドですから〜」 |
ほたる | 「…ええーっ!じゃあ今夜は…」 |
茄子 | 「もちろん一緒に寝ましょう、ほたるちゃん」 |
ほたる | 「…はい…」 |
茄子 | 「何部屋かこういうベッド一つの部屋とかもあるみたいなんです」 |
ほたる | 「そうなんですか?」 |
茄子 | 「薫ちゃんとあいさんみたいな保護者的関係な人達の部屋とか、柚ちゃんとあずきちゃんみたいな特に仲が良い人達とか用にです」 |
ほたる | 「私たちはその…後者ですよね」 |
茄子 | 「そうですね〜、それでなくともライブ出演者から優先的に部屋を選ばせてもらえましたから〜」 |
ほたる | 「ありがとうございます…こうして気兼ねなく過ごせるのは嬉しいです…」 |
茄子 | 「フフフ、どういたしまして」 |
ほたる | 「やっぱり…安心します…この薫りも体温も…」 |
茄子 | 「おかえりなさい、ほたるちゃん」 |
ほたる | 「ただいまです…茄子さん」 |
私はそのまま茄子さんの体温を感じたくて抱きしめ続けていました。 |
……… |
ほたる | 「茄子さん」 |
茄子 | 「はい、何でしょう?」 |
ほたる | 「茄子さんは今日の話は知っていたんですか?」 |
茄子 | 「今日の話…ですか?」 |
ほたる | 「その…今日の発表された話です」 |
茄子 | 「あのことですか…完全に知らなかったというと嘘になっちゃいますね」 |
ほたる | 「そう…だったんですか」 |
茄子 | 「ただ新しく出るとだけはリハの段階で確認していました。それで心の準備はしていたんですよ」 |
ほたる | 「あっ、完全に知らなかったわけじゃないって…」 |
茄子 | 「はい、誰になるかだけは当日まで発表されてません」 |
ほたる | 「それでその…茄子さんはどう感じましたか?」 |
茄子 | 「…聞きたいですか?ほたるちゃん」 |
ほたる | 「…はい…」 |
茄子 | 「そうですね、今はもうワクワクですけど、その時は…放心状態だったと思います」 |
ほたる | 「………」 |
茄子 | 「驚きと感動と喜びと、他にも色んな感情がない交ぜになっちゃったんです」 |
ほたる | 「そうだったんですか…」 |
茄子 | 「ほたるちゃんはどうでした?」 |
ほたる | 「あの時のことは憶えてないんです。気が付いたら泰葉さんの胸の中で泣いていたみたいで…」 |
茄子 | 「………」 |
ほたる | 「頭の中が色んなことでパニックになっちゃったのかもしれないです」 |
茄子 | 「今はどうです?」 |
ほたる | 「正直言うとまだ色々な想いが渦巻いてます。良い想いも悪い想いも色々と…」 |
茄子 | 「私もCDデビューの時は不安でしたよ。でもあれだけ色々と乗り越えてこれたほたるちゃんならきっと大丈夫です」 |
ほたる | 「そんな…私、本当にそうなんでしょうか」 |
茄子 | 「…私が小さい頃のアニメのエンディングなので知らないかな…こんな曲があったんです」 |
そう言うと、茄子さんは私のためにアカペラで歌ってくれました。どこか切なくて、でも歌詞は力強くて… |
♪〜 |
でもどこか懐かしいような気もしました… |
ほたる | 「ぐすっ…んっ…」 |
歌い終わった瞬間、私は抑えきれない涙を隠すように茄子さんの胸の中で泣き崩れていました。 |
茄子 | 「ほたるちゃんっ?!」 |
ほたる | 「ゴメンなさい、泣いちゃいました…あ、あの茄子さんが悪いわけじゃなくて…感動して…」 |
茄子 | 「そうでしたか…泣かせちゃったのかなって思って…」 |
ほたる | 「その歌詞にメロディがどことなく心に来てしまって…」 |
茄子 | 「この曲は子供ながらに心に沁みた曲で、テレビアニメも一番よく視るくらいの歳でしたからね」 |
ほたる | 「そうだったんですね…」 |
茄子 | 「長くやっているアニメなので、きっと一度は視たことがあるかもしれません」 |
ほたる | 「えっ…でも聴いたことは…」 |
茄子 | 「フフフ、タイトルの末尾が何回も変わっていますから」 |
それが何なのか分からないですけど、それでもいいです。きっと素敵なアニメ作品だと思いますから。 |
……… |
ほたる | 「茄子さん、本当に今も現実だって信じられていない自分もいます」 |
茄子 | 「ほたるちゃん…」 |
ほたる | 「でもこの温もりが、これを現実だってことを思い起こさせてくれて…」 |
茄子 | 「………」 |
ほたる | 「醒めたら全て夢だったなんて想いは…この薫り、この感触、全てがそんな気持ちを消してくれました」 |
ぎゅっ |
二人一緒のベッドの中、茄子さんは私を抱きしめてくれました。 |
ほたる | 「茄子さんのこと、プロデューサーさんのこと、他のみんなのこと、それから…」 |
茄子 | 「それから…?」 |
ほたる | 「自分のことを信じてきて…本当に良かったです」 |
茄子 | 「良かった…」 |
ほたる | 「………?」 |
茄子 | 「自分のことも信じられるなら…ほたるちゃんは絶対に大丈夫です」 |
ほたる | 「茄子さん…はい」 |
茄子 | 「辛かった過去も受け止めて、その上でなお自分のことを信じて歩んでいける、その歩みこそ大切なんです」 |
ほたる | 「ありがとうございます…この想いを受け止めてくれる人がいて私は幸せです…」 |
ぎゅうっ |
私からもしっかりと抱き着いちゃいました。 |
茄子 | 「フフフ、くすぐったいですよ」 |
ほたる | 「エヘヘ、だって今日は寒いって言ってましたし」 |
茄子 | 「もう、寒がりさんなんですからっ…」 |
ほたる | 「先に抱きしめてくれたのは茄子さんの方です」 |
茄子 | 「あれ?そうでした〜…でもこんな日ですから…ね」 |
ほたる | 「はい…」 |
茄子 | 「ほたるちゃん、大好きですよ」 |
ほたる | 「茄子さん…私も大好きです」 |
チュッ |
温めあう夜があってもいいですよね、こんな嬉しい日なんですから… |