ある冬の日の一軒宿に何やら相応しくないような音が響き渡る… |
パシャパシャッ パシャカシャッ |
カメラマン | 『大沼さん頭を枕の方に乗せるくらいにちょっと下がってー』 |
くるみ | 「ん〜…こうでしゅか〜?」 |
カメラマン | 『それでもう少しだけ及川さんの方に寄り添ってみて』 |
雫 | 「私が引き寄せる感じですかー?」 |
カメラマン | 『そうね、ちょうど大沼さんの顔の辺りに胸が来るように…そうそう』 |
パシャパシャッ パシャカシャッ |
カメラマン | 『顔は普通でいいから、素の表情が欲しい…うん、それよ』 |
二人は近い日に雑誌に載るグラビアを撮ってもらっていた。 |
雫 | 「くるみちゃん、大丈夫ー?」 |
くるみ | 「はい、大丈夫でしゅ〜」 |
パシャパシャッ パシャカシャッ |
カメラマン | 『よし、これでここでの撮影は終わりね。おつかれさま、及川さん大沼さん』 |
雫 | 「もぉー終わりですかー?おつかれさまですー」 |
くるみ | 「あ、あの、おつかれしゃまでしたぁ〜」 |
カメラマン | 『次の撮影は次の土日ね。及川さん、手筈の方を整えてもらってありがとね』 |
雫 | 「私の家の宣伝にもなりますからー、こちらこそよろしくお願いしますー」 |
カメラマン | 『あらちゃっかりしてるわね、フフフ。それで今日はこれからこっちでゆっくりするのかしら?』 |
くるみ | 「そうでしゅよね、雫しゃん」 |
雫 | 「はいー。明日プロデューサーさんが迎えに来るまでゆっくりお休みをいただいちゃいますー」 |
カメラマン | 『それじゃあ改めて今日はおつかれさま。また元気な姿で会えるのを楽しみにしてるわ』 |
撮影班の撤収作業がようやく終わったようで、カメラマンは一緒にその一軒宿の一室から出ていった。 |
くるみ | 「さ、寒いでしゅね…くちゅんっ!」 |
雫 | 「やっぱりくるみちゃんも寒かったんですねー、早く浴衣を着ましょー」 |
雫は布団から立ち上がり、襖を開けて浴衣を2着取り出した。 |
くるみ | 「雫しゃんも寒かったんでしゅか?」 |
雫 | 「寒いのは慣れてますけどー、こういう部屋でこの時期に水着はあまり無いですから寒いですよー。はい、くるみちゃん」 |
くるみ | 「ありがとうぉ〜…んしょ…」 |
くるみも立ち上がって浴衣を着始めた。 |
くるみ | 「んしょ…んー雫しゃん、これどっちが上だったでしゅか〜?」 |
雫 | 「左が上で…帯を…はい、できましたー…私も…これでお揃いですー」 |
くるみ | 「ほんとだぁ…でもなんだかちょっとだけ苦しいかもぉ」 |
雫 | 「それならまずはお風呂に行って一度解放しちゃいましょー、それに水着も下着に替えないとですしー」 |
くるみ | 「あう…また脱いで着て大変でしゅけど、きっとそっちの方が楽チンでしゅねぇ」 |
……… |
雫 | 「ふぅ〜、気持ち良いですねー」 |
くるみ | 「あったかいでしゅ〜…」 |
二人はこの一軒宿にある内風呂へと浸かっていた。 |
雫 | 「さっきもお仕事で入ってましたけどねー」 |
くるみ | 「でもさっきは水着だったでしゅからぁ」 |
雫 | 「くるみちゃんとも…」 |
つんっ |
くるみ | 「ひゃんっ!」 |
雫 | 「本当の裸の付き合いですねー」 |
くるみ | 「雫しゃん、くるみのつついたらダメでしゅよぉ」 |
雫 | 「でもくるみちゃんみたいな子が一緒のユニットで良かったですー」 |
くるみ | 「くるみが良かったんでしゅかぁ?」 |
雫 | 「セクシーギルティもそうですけどー、私もやっぱりくるみちゃんと同じようなこと気にしちゃうんですー」 |
くるみ | 「このおむね…でしゅか?雫しゃんといっしょのことって思いつかないでしゅよ〜」 |
雫 | 「はいー…でもこのままだといつかくるみちゃんに追い越されそうですねー」 |
くるみ | 「くるみが雫しゃんみたいにでしゅか〜?」 |
雫 | 「くるみちゃんは今大きさどれくらいなの?」 |
くるみ | 「んー、くるみ測ったの覚えてないから知らないんでしゅ…」 |
雫 | 「そういえばプロデューサーさんは知ってるんですよね?」 |
くるみ | 「ぷろでゅーしゃーには測った人がそのまま教えたんだってぇ」 |
雫 | 「ちゃんとした値じゃないと、スタイリストさんや衣装を作る人が服とかを用意できないですからねー」 |
くるみ | 「それからぷろでゅーしゃーは公開すると何か変なことになるかもしれないって」 |
雫 | 「(くるみちゃん、まだ中学生ですもんね…こんなに弱気な子だとなおさら…でしょうかー)」 |
くるみ | 「だから秘密にしてるって言ってたんでしゅよぉ」 |
雫 | 「でもまだ中学生ですからきっと大きくなるかもですねー」 |
くるみ | 「うぅ…でもくるみ、このおむねのせいでぇ…」 |
雫 | 「もぉーくるみちゃん、そんな気持ちじゃいつまで経ってもダメですよ」 |
くるみ | 「雫しゃん…」 |
雫 | 「私もくるみちゃんの気持ちは全部じゃないけど分かります。でもそれだけで塞ぎこんでては何も変わらないんです」 |
くるみ | 「雫しゃんもそうだったんでしゅかぁ?」 |
雫 | 「思春期の子はそうなるって分かってから、そこまで周りの目は気にしなくなっちゃいましたー」 |
くるみ | 「でもぉ…くるみあんまりそういうこと考えられなくてぇ…」 |
雫 | 「考えなくていいんですよ、くるみちゃん。でもまずこれだけはやってみて欲しいんです」 |
そこでくるみの隣に座っていた雫がずいっと顔を近付けた。 |
くるみ | 「し、雫しゃん…!?」 |
雫 | 「くるみちゃんはもぉーっと自分のことを好きになってみましょう」 |
くるみ | 「くるみがくるみのこと…でしゅか?」 |
雫 | 「今のくるみちゃんはきっとまだ、自分のことがちゃんと好きになれてないんですよー」 |
くるみ | 「よく分からないでしゅけど、この身体のこととかいやになっちゃってるかもでしゅ」 |
雫 | 「くるみちゃんのその身体は、誰にもマネできない一つの個性なんだってそう思っちゃえば良いんです」 |
くるみ | 「くるみにしか無いものって思えばいいんでしゅかぁ〜?」 |
こくんっ |
雫は一つ頷いた。 |
雫 | 「まだ難しいかもしれないですけど、これが魅力だって思える日がきっと来ますからー」 |
くるみ | 「そんな風にくるみがなれたらうれしいなぁ…」 |
雫 | 「でももしくるみちゃんがまた自分を嫌いになりそうになったら、いつでも私のところに来てくださいー」 |
くるみ | 「……うん」 |
雫 | 「いつだって私は…」 |
ちゅっ |
雫はくるみの頬にそっとキスをした。 |
雫 | 「大好きなくるみちゃんの味方になって守ってあげますからー」 |
くるみ | 「雫しゃぁんっ…!くるみ…がんばってみるよぉ〜」 |
ぎゅうっ |
くるみは相対して雫に抱き付いて… |
くるみ | 「くるみも、雫しゃんのこと…大好きでしゅ…!」 |
ちゅうっ |
そしてくるみも先ほどのお返しのように雫の頬へとキスをした。 |
雫 | 「もぉー私も…負けないくらいもっともぉーっとくるみちゃんのこと好きですからねー…」 |
その言葉を言い終わるか刹那、今度は雫の唇がくるみの唇へと移動していた… |
……… |
翌日、迎えに来たプロデューサーの車の中… |
雫 | 「プロデューサーさん、一つお願いがあるんですけどいいですかー?」 |
P | 「雫からお願いだなんて珍しいな」 |
雫 | 「あの…私のことじゃなくて、くるみちゃんのことなんですけどー」 |
P | 「うん、くるみのことか」 |
雫 | 「高校生になったらくるみちゃんのスリーサイズ、公式に公開してあげてくださいー」 |
P | 「へ?それは…どういうことだ?あの値は公開すると色々あるかもしれないからやめてたんだが…」 |
雫 | 「いいんですよね、くるみちゃん」 |
くるみ | 「はい…雫しゃん」 |
P | 「くるみが良いならそれでいいんだが…急にどうしたんだ?」 |
雫 | 「私からくるみちゃんに教えてあげたんですー。胸の大きさも個性なんですよって」 |
P | 「…そういうことか。ありがとな、俺がそういうことを言ったらセクハラにもなりかねないしさ」 |
雫 | 「くるみちゃんも私の可愛い…そして愛しい後輩ですからー」 |
くるみ | 「こんな近くにくるみのことを大切にしてくれるしぇんぱいがいてくれたんでしゅぅ…」 |
雫 | 「今度一緒にお買い物行きましょうねー」 |
くるみ | 「…うんっ」 |
ぎゅっ |
そんな後ろの座席で隣同士で座っていた雫とくるみの手は固く握られていた… |