Thought of the Pale rose goes up North(桜色の想い、北上し)

愛梨「桜、見に行きませんか?歌鈴ちゃん」
その時はあんなことになるなんて思ってもみませんでした…
 
東京の桜も少し散り始めの4月の頭、愛梨さんがわたしを含めた担当Pのアイドルルームに来ていました。
歌鈴「あ、愛梨さんこんにちは」
愛梨「歌鈴ちゃんこんにちは〜」
歌鈴「今日はどうしたんでつ…ですか?」
愛梨「さっきAI'sの打ち合わせがあったんです。それで歌鈴ちゃんが来るかなって思って」
歌鈴「待たせちゃってすみません。さっきまでメリテラのメンバーとレッスンだったんです」
愛梨「いいんです。でもそれならナイスタイミングでした〜、歌鈴ちゃんこれ食べますか?」
歌鈴「これは…あれ?リンゴの薫りですね」
愛梨「アップルパイを焼いて来たんです〜。歌鈴ちゃん、はいあ〜ん」
歌鈴「へ?は、ひゃいっ!?あ、あーん…あむっ」
愛梨「どうですか?」
歌鈴「んっ…甘さの中にちょっと酸味があって美味しいですっ」
愛梨「良かった〜、美味しく食べてもらえるのがやっぱり一番ですから〜」
歌鈴「サクサクですけどしっとりしてて…何切れでも食べられちゃいそうです」
愛梨「私のところのみんなにも好評だったんです。藍子ちゃんやプロデューサーさんも美味しいって言ってくれました」
歌鈴「こんなに美味しくて食べ易いですからっ」
愛梨「寮にまだ材料がありますから、帰ったら焼き立てを一緒に食べましょう歌鈴ちゃん」
歌鈴「良いんですか?」
愛梨「もちろんです〜。茜ちゃん、これ残りですけどこっちのみんなで食べてください」
「いいんですかっ!愛梨さん」
愛梨「はい〜、たくさんの人に食べてもらった方が嬉しいですから」
「それではありがたく戴きますっ!」
愛梨さんは近くにいた茜さんにアップルパイの残りを渡しました。
歌鈴「愛梨さんはもう帰っても大丈夫なんでしゅ…なんですか?」
愛梨「資料も貰いましたし、レッスンももう終わってますから」
歌鈴「それなら一緒に帰ってお風呂入りましょう」
愛梨「そうですね〜、汗で少しペタペタしちゃってますし」
わたしは愛梨さんと一緒に寮へと帰りました。
 
歌鈴「ふう…夕方になりゅと少しまだ肌寒いですね」
二人でお風呂に入った後、夕ご飯までの短い時間にわたしは愛梨さんの部屋におじゃましていました。
愛梨「昼間はもうあんなに暑い日もあって、脱ぎたくなる時もあって〜」
歌鈴「もう、ダメですよっ愛梨さん。でもこの暖かさで桜ももう散り始めちゃってて」
愛梨「今年も桜は早かったって、こっちに来てから特に思っちゃうかな」
歌鈴「愛梨さんもですか?わたしも地元よりも早いんだって来た時は驚いちゃいました」
愛梨「今年はちょっとお花見できなくて残念だったな〜って」
歌鈴「事務所の桜は見ましたけど、桜の下で過ごせませんでしたね…」
愛梨「雨もありましたし、色々お流れになったなぁ」
歌鈴「天気が恨めしかったでつ…」
そこで愛梨さんがまさかの言葉を呟きました。
愛梨「だから…桜、見に行きませんか?歌鈴ちゃん」
歌鈴「えっ…?」
愛梨「再来週の週末に色々な手続きの書類を持ってちょっと実家に行こうかなって思ってたんです」
歌鈴「愛梨さんの実家って秋田でしゅよね?」
愛梨「ちょうど再来週頃に秋田は見頃だってこの前見ましたから」
歌鈴「でもわたしがついてって良いんですか?」
愛梨「実はですね……」
ピラッ
愛梨さんはある物を見せてきました。
歌鈴「ドウミョウジカリン様……ってええっ!?!?」
愛梨「もう歌鈴ちゃんの分も取っちゃいました〜」
そうなんです。わたしの分の航空券が既にあったんです。
歌鈴「取っちゃったって…ど、どど、どうしたんですかこれぇっ!?」
愛梨「もともと飛行機で帰る予定だったんですけど、私はグラビアとかでよく海外とか沖縄にも行ったりしてたからマイルが貯まっちゃって」
歌鈴「わたしの分は愛梨さんが使う予定だったお金ってことでしゅよね?」
愛梨「これは私から歌鈴ちゃんへのプレゼントってこ・と・で〜」
歌鈴「再来週にお仕事や予定が入っていなければですけど…」
愛梨「前のAI'sの打ち合わせの時にプロデューサーさんに確認しちゃいました」
歌鈴「外堀埋めちゃってるじゃないですかぁ」
愛梨「ダメ…かな?」
歌鈴「そんなこと…」
チュッ
唇で愛梨さんの頬に答えちゃいました。
歌鈴「そこまでされてダメって言うわけないじゃないですか」
愛梨「エヘヘ…勝手に後ろで話を進めちゃってゴメンね、歌鈴ちゃん」
歌鈴「いいんです。ここまでわたしのことを想ってくれてて…嬉しかったでしゅから…」
2週間後の旅立ちが今から楽しみです。
………
2週間後…
愛梨「えっ!?」
歌鈴「どうしてぇっ!?」
秋田空港からリムジンバスで秋田駅に来たわたし達を待っていたのは桜だけではなくて…
沙織「愛梨ちゃん、秋田さなして来たんだべ?」
風香「歌鈴さんもどうされたんですか?」
沙織さんと風香さん…だけではなく…
雪菜「あら?歌鈴さんじゃないですかぁ」
「愛梨さんも雪菜と同じで秋田の人だったな」
雪菜さんと海さんまで居たんです。
愛梨「皆さんこそどうしたんですか〜?」
沙織「わだすは風香さんとのローカル番組の収録らすけに、新潟通っていなほで昼過ぎに着いて近くで昼食をとってたんだべな」
雪菜「私は地元の会社でプロデュースした化粧品サンプルを試しに来たんです。いっぱいあるからこっちでやった方が良いからって、再開した新幹線でさっき着きましたぁ」
風香「雪菜さん達が羨ましいです。私達は前々から収録が決まってたので、新幹線が再開するか分からなくて日本海周りのルートでした」
「アタシはその化粧品で色黒な人のデータも欲しいってことで、雪菜に連れてこられたんだ」
沙織「雪菜ちゃんたちはそういう話だったべか。んで愛梨ちゃん達は秋田さなして来たんだ?」
愛梨「私は久しぶりに実家に行こうかなって思ってて〜。親に相談しないといけない書類とか判子が必要な書類も結構あって〜」
雪菜「歌鈴ちゃんはどうしたんですぅ?」
歌鈴「わたしは…桜が見られるって言われて愛梨さんに付いて来ただけで…その…」
「ん?これはもしかして…」
風香「愛梨さんと歌鈴さんも…そうなんですか?」
愛梨「歌鈴ちゃん…いいですよね?」
歌鈴「ひゃ、ひゃいっ!」
愛梨「好きな人でなかったら、ここまで連れては来ないですから〜」
歌鈴「愛梨さん…はい…」
沙織「そうだべな。わだすはお仕事らったら、ユニット名目で連れてこれるすけ」
風香「沙織さんとユニットにしてもらえていて良かったです」
雪菜「私達も本当は朋ちゃんがいないのは不自然だもんねぇ」
「そうなんだけどな。ま、今度その朋にでも歌鈴ちゃんの話は聞いておこっか」
歌鈴「朋さん…ああっ!わたしのMFTと雪菜さん達のハートウォーマーのどちらにも朋さんがあ!」
愛梨「歌鈴ちゃん、私達のことはもう話したんですか〜?」
歌鈴「この前、MFTでレッスンの時にみんなに詮索されちゃってつい…」
愛梨「フフッ、もう気にしなくていいかなって」
歌鈴「でも、愛梨さんは迷惑じゃないですか?」
愛梨「歌鈴ちゃんのそういうところも含めて大好きなんですから…ね」
歌鈴「エヘヘ…ありがとうございます」
「お、何だか丸く収まったみたいだな」
雪菜「そうですねぇ」
沙織「そったらこっからみんなはどうすんだ?」
風香「私達は夕方からの収録の後に沙織さんの実家泊まりですが…」
雪菜「私達は今日は私の実家に泊まって、明日会社ですねぇ」
「今日はお世話になるよ、雪菜」
愛梨「私達はこれから私の実家に行きま〜す」
歌鈴「今日はよろしくお願いします、愛梨さん」
沙織「明日は何時の何で東京に帰るんだべ?わだすらは16時50分の飛行機らろも」
雪菜「私達も確かその時間だよねぇ。会社の人が帰りは飛行機で良いって言ってくれたからぁ」
愛梨「歌鈴ちゃんと観光してから帰りたかったから、私達もその時間の飛行機です〜」
風香「それなら帰りも皆さんと一緒ですね…」
「そうなるみたいだな」
歌鈴「今度は空港で集合でつ…ですね」
沙織「そんならこっちでも連絡取りあうべさ」
雪菜「秋田組のグループLI○E内で連絡取りあおうねぇ」
愛梨「分かりました〜。雪乃さんと日菜子ちゃんにはちょっと悪いかもですけど」
沙織「んだな。それならわだすらの写真を撮って、一言添えて載せておくべな」
雪菜「それなら一緒にいるって分かるし、いいかもしれないねぇ」
愛梨「じゃあ私が撮りますね〜。こうすれば…はい、これでいいかなっ」
LI○Eには3人の写真と『雪乃さん、日菜子ちゃんへ 私と雪菜ちゃんと沙織さんが秋田で一緒になったので連絡用にこのグループを使わせてください〜』と書かれていました。
雪菜「あ、日菜子ちゃんオッケーだってぇ」
沙織「雪乃さんも大丈夫だって言ってくれたわ」
愛梨「じゃあそろそろ分かれましょう〜。また明日空港で〜」
雪菜「秋田を楽しんでくださいねぇ、愛梨さん、歌鈴さん」
沙織「ゆっくりしていくといいべさー、歌鈴ちゃん、愛梨ちゃん」
沙織さん組と雪菜さん組とはひとまずここでお別れすることになりました。
愛梨「じゃあ行きましょう、歌鈴ちゃん」
歌鈴「あ、ひゃいっ!次は何に乗るんですか?」
愛梨「次はですねぇ…」
愛梨さんの実家は、愛梨さんみたいにポカポカな優しくて温かな家でした。今度はわたしの実家に招待…してあげたいなって。まだ願望ですけどっ!
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あとがき
飛神宮子です。
とある合同誌にSSで参加しまして、桜でSSをもう一本書きたいなと思って書きました。
それでLilyのどの組で書こうかと考えましたが、時期的に満開が近かった北東北関係で「桜」の曲を歌っている…ということで秋田の愛梨と『桜の頃』の歌鈴の組になりました。
今年は急に暑くなったりが多くて桜の時期が例年になく短かった気がします。何だか少し寂しい気もしてなりません。
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2022・04・20WED
飛神宮子
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