A Focal Range From me to you(あなたへの焦点距離 2017)

ここは金曜日夕方の寮のとある部屋の前…
春菜「すみません杉坂さん、またよろしくお願いします」
「大変だねえ…上条さん。また泣き付かれたの?」
春菜「はい…部屋がもうどうにもならないと」
「あれ、前に行ったのは…それも頼まれたときだから3ヶ月くらい前?」
春菜「たった1シーズンですよ。うちの千枝ちゃんも呆れちゃってます」
「明日には帰ってくるね?」
春菜「一応そのつもりではいますけど…状況次第では日曜日になるかと」
「分かった…ま、頑張ってきな。千枝ちゃんの事は心配しなくていいからさ」
春菜「ありがとうございます、よろしくお願いします」
バタンッ
春菜はドアを閉じて一つため息を吐いた。ただ…
春菜「さて千枝ちゃんのことは頼んだので、館長に連絡したら行きましょうか…」
その表情はどことなく嫌がっている様子ではなかった。
………
ピンポーン
比奈「はぁい…」
ガチャンッ ガチャっ
鍵を開けてドアを開けたのは…
春菜「玄関はまあ…いいですけどまた帰ってくるなりそんな格好してるんですか?」
比奈「いやぁ、これが楽なんスよ」
春菜「そうやってだらしない格好しているから、部屋もだらしなくなるんじゃないですか」
比奈「むぅ…あ、立ち話も難だし入ってください、春菜ちゃん」
春菜「勿論そのつもりで来たんですけど?荒木さん」
バタンッ ガチャンッ
春菜は比奈の居室へと入っていった。
比奈「今日は何時まで居られるんスか?」
春菜「今日は泊まっても大丈夫です。寮は点呼ありませんし、それに許可ももらってます」
比奈「…その手に持っているのは…」
春菜「これは各種眼鏡と…お泊り用のセットですけど」
比奈「…あー、アタシのために申し訳ないっス…」
春菜「ま、まあとにかく今日は泊めてもらうつもりですからね」
比奈「わかったっスけど…とても春菜ちゃんまで一緒に寝られる場所が…その…」
春菜「そ、そんなに…」
比奈「見てもらえればいいんですけど…」
春菜を居室兼作業場へと通した比奈。
春菜「…前よりマシなレベル程度じゃないですかコレ…」
比奈「ですよねー…」
春菜「たった3ヶ月でどうしてこんなになるんですかーっ!」
比奈「結局自堕落なところは治らなかったんスよね」
春菜「分かりました。今日はとりあえず、片付けられる場所だけ片付けましょう」
比奈「お世話になります、春菜ちゃん」
春菜「本格的な掃除は明日にしましょう、この部屋と台所くらいですよね?比奈ちゃん」
比奈「そうなりますね…いやー、〆切もようやく片付いていざやろうとしたんスけど…」
春菜「…はあ…(どうして私…)」
比奈「どこから手を付けたらいいか分からなくて…」
春菜「とりあえず今は私達が二人で寝られるだけのスペースを作ります」
比奈「はい…分かったっス」
春菜「さてと、掃除用の眼鏡は…コレっと」
比奈「…よっと、あれ?前のと違うじゃないスか」
春菜「前の眼鏡はちょっと再調整が必要でして…これはこっち…今日のは予備用の方ですから」
比奈「あ、春菜ちゃんそれはこっちの棚に入れるんで」
春菜「はい、比奈ちゃん。本当に洗濯物とかも脱ぎっ放しだなんて…」
比奈「この部屋着以外は家にいると着ないっスからね」
春菜「えっとこれとこれとこれと…今洗濯機に全部入れてきます」
比奈「洗濯はお風呂の時に回すんでそのまま入れといてください」
春菜「はい………」
………
2時間後…
春菜「これでとりあえずベッドで寝られて食事も摂れますね」
比奈「これだけでも随分と掛かっちゃったっスね」
春菜「日頃からちゃんとしていれば、こうはならないんですよ」
比奈「年下の春菜ちゃんに言われると…面目ない」
春菜「さてお風呂入りましょうか。さすがに汚れたまま寝るわけにもいきませんから」
比奈「それなら春菜ちゃん先入ってください。アタシは食事の準備するんで」
春菜「へ?」
比奈「え?」
春菜「一緒でいいじゃないですか。まとめて入った方が節約できますし」
比奈「春菜ちゃんはそれでいいんスか?アタシはいいスけど…」
春菜「…だってもう比奈ちゃんには私の全部を見られちゃってますし…そんなに気にはしませんけど…」
比奈「それならまた今日も今後の参考にさせてもらうスよ」
春菜「ここに来た時からその覚悟はできてます」
比奈「じゃあ膳は急げっス。お風呂行きましょう」
………
比奈「やっぱり春菜ちゃんみたいな十代の肌が羨ましいっスよ」
春菜「比奈ちゃんも綺麗じゃないですか。とても二十歳とは思えませんよ」
お風呂の二人。春菜は洗い場で身体を洗い、比奈は浴槽へと浸かっている。
比奈「お世辞でも嬉しいっス。いやー本当に春菜ちゃん今日はありがとうございました」
春菜「どういたしましてです。明日も掃除やりますけどね」
比奈「そうっスけどね…」
春菜「はあ…」
比奈「さっきもため息してなかったスか」
春菜「たぶんその時と同じ気持ちだと思います」
比奈「同じ?」
春菜「どうしてこんなずぼらな人を私は好きになっちゃったのかって…思ったんです」
比奈「…アタシ、春菜ちゃんにとって迷惑だったっスか?」
春菜「いえ、迷惑とかじゃないですよ。迷惑だったらこんな風に来たりはしません」
比奈「春菜ちゃん…」
春菜「それ以上に比奈ちゃんの魅力的なところは、いっぱい知ってますからね」
比奈「………」
春菜「比奈ちゃん?」
比奈「いや、何かありがたいなって。こんなアタシを好きになってくれる人がいてくれて」
春菜「…違います」
比奈「違う?」
春菜「私はこの比奈ちゃんだからこそ好きになったんです」
比奈「…春菜ちゃん…アタシも春菜ちゃんのこと大好きっスよ」
春菜「はい…」
比奈「その眼鏡の向こうからこれからもアタシを見続けて欲しいっス」
春菜「…比奈ちゃん…っ!」
チュッ…
バスタブのこちら側と向こう側、その唇はしっかりと二人の愛を繋ぎとめる…
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あとがき
飛神宮子です。
今月の百合百合枠は「サイバーグラス」のお二人。
先月の「ピュアリーツイン」と同じく、眼鏡勢×眼鏡外す勢です。この組み合わせも書きたかったんです。
この後二人は食事をして一緒に寝ただけですよ…同じベッドでですけどね。
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2017・02・08WED
飛神宮子
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