1月4日夕方の寮の一室… |
♪〜 |
千秋 | 「はい」 |
ガチャっ |
紗枝 | 「失礼しますー」 |
周子 | 「失礼するよー」 |
千秋 | 「あら小早川さんに塩見さん、どうしたのかしら?」 |
紗枝 | 「おばんどすー、京の街からかいらしい子連れて来ましたえ」 |
雪美 | 「……ただいま、千秋……」 |
千秋 | 「お帰りなさい佐城さん、もしかして一緒だったの?」 |
周子 | 「まー話は今日の昼に遡るんだけど。紗枝はんとアタシ、帰りが同じ新幹線だったんだー」 |
千秋 | 「小早川さんと塩見さんも仲が良いのね」 |
紗枝 | 「それで帰りの新幹線待ってたら、ペットのケージを持ったよく見た女子はんとその親御はんが近くにおってな…」 |
周子 | 「よくよく見たらやっぱり雪美ちゃんと両親だったんだけど、同じ号車のもう一つのドアのとこだったんよ」 |
千秋 | 「佐城さん一人で帰って来る予定だったの?」 |
雪美 | 「本当は神戸と大阪から……舞とクラリスと法子とみくが一緒だった……」 |
千秋 | 「あら?前川さんは昨日帰ってきてたし、クラリスさんとか他はまだ見てないわね…」 |
雪美 | 「みんな……予定変わった……だから一人……」 |
紗枝 | 「まあ聞いたらそういう話なんよ。ほんでみんな一緒にまとめて買うたのやめたんで雪美ちゃんの周りが空いとるん」 |
雪美 | 「来ないから一人だけ……周りはいない……」 |
周子 | 「ちょっと窓口に戻って聞いてみたら、臨時だから京都からでもまだ運よく埋まってないって話でねー」 |
紗枝 | 「それで隣同士にさせてもらいまして、一緒に来たいうわけどす」 |
千秋 | 「もう佐城さん、言ってくれれば迎えに行っても良かったのに」 |
雪美 | 「一人で帰るの……してみたかった」 |
千秋 | 「でも塩見さん、小早川さんありがとう。おかげで佐城さんも何事もなく帰ってこれたわ」 |
雪美 | 「ありがとう……紗枝、周子……」 |
周子 | 「千秋さん、雪美ちゃんのこと溺愛してるねえ…親御さんよりかもよ」 |
紗枝 | 「せやなあ…まるで実の姉妹みたいどす」 |
千秋 | 「二人とも…さすがに保護者的立場が長いとそうなるのよ」 |
雪美 | 「千秋お姉ちゃん……」 |
周子 | 「それじゃアタシ達はそろそろ自分の部屋に戻りますか」 |
紗枝 | 「お土産もぎょうさん買うてきてしもうたさかいなあ」 |
周子 | 「あ、雪美ちゃんにうちの和菓子持たせてるから良かったら食べてねー」 |
雪美 | 「バイバイ……周子、紗枝……」 |
紗枝・周子 | 『バイバーイ』 |
バタンッ |
紗枝と周子は自分の部屋へと戻っていった。 |
千秋 | 「もう本当にあの子達ったら…」 |
雪美 | 「千秋……ただいま……」 |
千秋 | 「あら雪美ったら…。ええ、おかえりなさい。本当に二人が一緒で良かったわね」 |
雪美 | 「ん……新幹線の中、楽しかった……」 |
千秋 | 「まずは荷物を置いてきて、手伝うわよ」 |
雪美 | 「ありがとう……千秋……」 |
|
雪美の部屋に荷物を入れて、周子のお土産のお菓子をテーブルへと持ってきた二人… |
千秋 | 「それで故郷はどうだった?」 |
雪美 | 「ゆっくりできた……私もペロも……ペロ、出ていい……」 |
カチャッ |
雪美は隣に置いていたいたケージの鍵を外した。 |
千秋 | 「それは良かったわ…きゃっ!ペロ、くすぐったいわ」 |
雪美 | 「ペロも……ただいまって言ってる……」 |
千秋 | 「そうなのね、おかえりなさいペロ」 |
雪美 | 「ペロ……こっち来て……」 |
千秋 | 「行ってらっしゃい」 |
雪美 | 「ん……千秋は……帰ったの……?」 |
千秋 | 「私?私は一昨日こっちに戻ってきたわ」 |
雪美 | 「帰るの……楽しくない?」 |
千秋 | 「同級生とかにも会えるから楽しいわ。でもね、それだけじゃないのよ」 |
雪美 | 「そうなの……」 |
千秋 | 「二十歳を過ぎるとね、帰ると両親が期待するのよ」 |
雪美 | 「……期待する……」 |
千秋 | 「お見合いの話とか結婚の話とか…ね」 |
雪美 | 「千秋、結婚するの……?」 |
千秋 | 「まだするつもりはないわよ、まだこうしてお仕事は続けていたいもの」 |
雪美 | 「良かった……」 |
千秋 | 「だからね、大人になると帰ったら帰ったでそういう話も出てくるのよ」 |
雪美 | 「そうなんだ……」 |
千秋 | 「そういえば雪美は夕ご飯は食べたの?」 |
雪美 | 「まだだよ……今日から寮で食べられるから……」 |
千秋 | 「それならもういい時間ね、食べに行きましょう。このお菓子はまた後にしましょ」 |
雪美 | 「うん……」 |
……… |
その後、雪美のベッド… |
雪美 | 「ふわぁ……」 |
千秋 | 「もう眠そうね、雪美」 |
雪美 | 「ん……帰ってくるの……疲れた……」 |
千秋 | 「それならもう今日は寝た方が良いわ」 |
雪美 | 「千秋……」 |
千秋 | 「どうしたの?」 |
雪美 | 「明日……宿題終わってない……」 |
千秋 | 「向こうでやってこなかったの?」 |
雪美 | 「こっちに忘れてた……半分だけやったドリル……」 |
千秋 | 「仕方ないわね、明日起きたらやりましょう」 |
雪美 | 「ありがと……」 |
千秋 | 「いいのよ。でも明日は私、午後がレッスンだから午前中と夜にね」 |
雪美 | 「お昼は……書初めやる……」 |
千秋 | 「それがいいわね。明日になったら浜口さんか松尾さんに頼んでおくわ」 |
雪美 | 「うん……」 |
もぞもぞ |
雪美は布団の中で千秋の方へと蠢きだした。 |
千秋 | 「あら、どうしたの?」 |
雪美 | 「この香り……安心する……」 |
千秋 | 「雪美…」 |
雪美 | 「帰ってきたって……気がするよ……」 |
千秋 | 「私もこの薫り…久しぶりだもの…」 |
雪美 | 「ただいま……千秋」 |
チュッ |
雪美の唇が千秋の唇に確かな感触を与えた。 |
千秋 | 「ええ、おかえり…雪美…」 |
チュッ… |
まだ寒い1月の夜、一つのベッドに確かな温もり一塊がそこに… |