加奈 | 「美羽ちゃんっ…!」 |
美羽 | 「加奈ちゃんっ!んっ…」 |
美羽の唇は加奈に奪われてしまった。 |
|
時は遡って、少しばかり前のこと… |
P | 「今日からしばらく矢口さんもこちらで担当しますので、こちらのアイドルルームの鍵をお渡ししておきます」 |
美羽 | 「ありがとうございます。私の方のプロデューサーさんから私のことをよろしくお願いしますってお話がありました」 |
P | 「はい、先輩からは先ほど電話をもらいましたので。これから今月末までよろしくお願いします」 |
美羽 | 「私からもよろしくお願いします。それで加奈ちゃんは…」 |
P | 「加奈さんはこの件の打ち合わせもありますのでおそらくもうすぐ来られますよ」 |
ガチャっ |
加奈 | 「おはようございます。美羽ちゃんはもう来てます?」 |
美羽 | 「おはようございます!加奈ちゃん」 |
加奈 | 「あっ、もう来てたんですね。おはよう、美羽ちゃん」 |
P | 「加奈さんもこちらへ。大事なお知らせもありますので」 |
加奈 | 「大事なことですか?はい、じゃあメモも用意しないとっ」 |
P | 「いや、話を聞いてもらえるだけで構わないんだけど、心の準備が必要という話で」 |
加奈 | 「そうだったんですかー、はい」 |
ぽふっ |
加奈は美羽が座っている隣に腰を下ろした。 |
P | 「はい、それでですが今回はお二人が一緒にミニドラマに出演ということで、私が担当という形を取ることとなりました」 |
美羽 | 「はいっ、あらためてよろしくお願いします」 |
加奈 | 「お願いします。それでどんなドラマなんですかっ?」 |
P | 「それが…心の準備をしてもらえるとありがたいんだ。実はな…………………………」 |
二人 | 『ええーっ!?!?』 |
プロデューサーの話を聞いた途端、二人は驚いて顔を見合わせた。 |
P | 「企画書の方にも軽く説明が書いてあったと思うけど、そこまで驚かれるとはな」 |
美羽 | 「でもどうして私たちなんでしょうか?」 |
P | 「以前の矢口さんと加奈さんの別々に主演された公演を見た脚本の方と監督が、ユニットであるあなた方を推したようです」 |
加奈 | 「美羽ちゃんの戦国公演と私の青春公演ですか?」 |
P | 「はい。以前お渡ししたプロットに強そうに見えて圧されると弱い矢口さんの役と、弱そうに見えて芯はある加奈さんの役ということが書いてあったはずですが」 |
美羽 | 「あっ…確かに書いてたような…」 |
加奈 | 「美羽ちゃんどうする?プロデューサー、どう思いますかっ?」 |
P | 「そうだな…私は大丈夫と思ってこの件は上に通したんだけど、ダメだったかな?」 |
美羽 | 「いえ、そうじゃないんです。大丈夫…かな?加奈ちゃん」 |
加奈 | 「私は美羽ちゃんの意志にお任せしちゃいます」 |
美羽 | 「私は…はい。加奈ちゃんとならきっと乗り切れる気がしますっ」 |
P | 「そうか、それなら昨日来た台本を二人に渡します。意思は確認してからの方が良いと思ってましたから」 |
加奈と美羽へプロデューサーから台本が手渡された。 |
P | 「今日のところはまず読み込んできてください。レッスンや台本あわせなどはお二人の都合を見てなのでこれから相談になりますが」 |
美羽 | 「撮影は三連休でですよね?」 |
P | 「今のところはその3日間で撮影したいという先方の話です。撮り切れなければその翌週の土日までにはとのことですよ |
加奈 | 「わかりました。やりましょう美羽ちゃん」 |
美羽 | 「はいっ!みうかなっ!」 |
加奈 | 「ファイファイっ!」 |
二人 | 『オー!』 |
……… |
数日後… |
美羽 | 「加奈ちゃんはどう?」 |
加奈 | 「私?うーん…まだどうもいまいち入らない感じで…」 |
二人は台本あわせをしていた。 |
美羽 | 「参考になりそうな話とか聞いても、やっぱりこの役柄って難しいなって思えて」 |
加奈 | 「美羽ちゃんのことは好きなんだけど…でもこういう気持ちの役ってどうやるんだろう…」 |
美羽 | 「あ、そうだっ!加奈ちゃんってこの週末何か用事とかある?」 |
加奈 | 「私ですか?今はこの仕事に集中しなくちゃだから特に何も入れてないかな」 |
美羽 | 「それなら一緒にデートしましょうっ」 |
加奈 | 「ええっ!?で、デートっ!?」 |
美羽 | 「役柄を掴むなら一度実際にやってみる方が良いかもって未央ちゃんとかに言われたんです」 |
加奈 | 「なるほど…メモメモ…そういうのもあるのかなぁ」 |
美羽 | 「だから一度一緒に過ごしてみるくらいの方がいいかなって」 |
加奈 | 「やってみましょう、何事もチャレンジしてやるだけやってみてからの方がいいよね」 |
美羽 | 「それじゃあ金曜日、一緒に私の家に帰って土曜日にしよっ」 |
加奈 | 「私がお邪魔しても大丈夫なの?」 |
美羽 | 「今週末は家族が温泉に行くことになってるはずだから。このお仕事が入って私は行けなくなっちゃって」 |
加奈 | 「そっかぁ…うん、じゃあそうしようかなっ。帰ったら寮で手続きとかしないといけないなぁ」 |
……… |
そんなこんなでデートをした日の夜… |
加奈 | 「今日は美羽ちゃんのこと前よりずっと知れたかなって思うよ」 |
美羽 | 「私も加奈ちゃんの色んなところが分かって良かった」 |
ここは美羽のベッド。そこに二人並んで座っていた。 |
加奈 | 「一緒に作った夕食も美味しかったし、一緒ってこういう気持ちになるんだね」 |
美羽 | 「好きな人と過ごす時間かあ…うん。あ、そうだ…せっかくだから買ってきたポッ○ーも食べちゃおう」 |
加奈 | 「ポッ○ーかぁ…うん。えっと確か…」 |
美羽が買ってきた袋からポッ○ーを取り出している間に加奈はメモ帳をめくった。 |
加奈 | 「あっ、美里さんの話…今こそだよね」 |
とあるページを見た加奈は一瞬躊躇ったものの、その目はもうやることを決意していた。 |
加奈 | 「ね、ねえ美羽ちゃん。ポッ○ーゲームっていうのしてみる?」 |
美羽 | 「ポッ○ーゲームって…ええーっ!?」 |
俄かに顔を上気させていく二人。 |
美羽 | 「でも私たち…女の子同士だよ…?」 |
加奈 | 「ダメ…かな?」 |
美羽 | 「………ううん」 |
加奈の真剣な表情に美羽の心は今度やる役柄のように揺り動かされていった。 |
美羽 | 「加奈ちゃん、はいっ」 |
渡された箱の小袋から1本のポッ○ーが取り出されて… |
加奈 | 「美羽ちゃん…んっ…」 |
そのチョコの方を口に咥えて、加奈はもう片方の端を指差した。 |
美羽 | 「うん…」 |
美羽もプレッツェルの方の端を咥えて… |
ポリポリポリ ポリポリポリ |
食べ進めていくにつれ近づいていく二人の顔。 |
ポリポリポリ ポリポリポリ チュッ… |
その距離が0となった時、感情のステップはまた一つまた一つ上へと歩んで行く。 |
美羽 | 「加奈ちゃん…しちゃったね」 |
加奈 | 「でも嫌な気分なんてこれっぽっちもしなかったよ」 |
美羽 | 「私も…台本の子の気持ちってこんななのかな」 |
加奈 | 「きっとそうだよ…結ばれたい気持ちってこうなんだね」 |
美羽 | 「不思議な気分になってきちゃったかも…うん」 |
加奈 | 「美羽ちゃん…もっとしても…いい?」 |
ぎゅうっ ぼふんっ |
答えを聞くより先に美羽は身体を掴まれてそのままベッドへと押し倒された。そして… |
加奈 | 「美羽ちゃんっ…!」 |
美羽 | 「加奈ちゃんっ!」 |
美羽の唇は加奈に再び奪われてしまった。 |
加奈 | 「んっ…」 |
次第にその唇からは水の音が…求め合う二人の雫の音が奏でられていく。 |
美羽 | 「んくっ…んっ…はあっ…加奈ちゃんっ…!」 |
加奈 | 「ぷはっ…美羽ちゃん…っ!」 |
二人は唇を離した後もお互いの温もりを求めるように抱きしめ合った。 |
加奈 | 「美羽ちゃん…これが今の私の気持ち…なんだっ…」 |
美羽 | 「…加奈ちゃん…加奈ちゃんのこと…離したくない…っ」 |
声が少しずつ艶っぽく染まっていく… |
加奈 | 「大好きっ…美羽ちゃん…ううん、美羽のこと…愛してるっ」 |
美羽 | 「私も加奈ちゃん…じゃないよね、加奈のこと誰よりも大好きっ…」 |
加奈 | 「役になりきるための一日だったけど、それ以上…きっともう私、抑えられないよ」 |
美羽 | 「…いいよ。加奈になら…もうこの一瞬一瞬ももったいな…んむっ!」 |
最後まで言葉を告げるより早く美羽の唇は再び加奈の唇で塞がれてしまった… |
|
そして撮影の日… |
監督 | 『はい、オッケー!この画、最高よ!今井さんも矢口さんもお疲れっ!』 |
加奈 | 「ふう…美羽ちゃん、オッケーだって」 |
美羽 | 「うん…加奈ちゃん、無事に終わったね」 |
二人は抱きしめ合っていた腕をようやく解いた。 |
監督 | 『まるで本物のカップルになったみたいで、見ていてこっちが恥ずかしいくらいだったわ』 |
美羽 | 「ありがとうございます。そこまで褒めてもらえて嬉しいです」 |
加奈 | 「難しい役どころでしたけど、その分なりきるための色々なことを学べました」 |
監督 | 『うんうん、これはまたお仕事お願いすることになるかもしれないわ。こんなに出来るなら今度はもっと長い尺のを用意しちゃうから』 |
加奈 | 「は、はいっ、お手柔らかな感じでお願いしますっ」 |
美羽 | 「加奈ちゃんと一緒なら…大丈夫かな?」 |
加奈 | 「うん。美羽ちゃんと一緒なら絶対にやれるよ」 |
監督 | 『二人のシーンの撮影はこれで全部お終いね。いい出来に仕上げるから期待していてね』 |
二人 | 『はいっ、ありがとうございましたっ!』 |
ぎゅっ |
二人は手を固く握り締めて楽屋へと帰っていった。 |
……… |
楽屋で着替え中の二人。 |
加奈 | 「撮影全部終わっちゃったね」 |
美羽 | 「加奈ちゃんとずっと一緒だったから何だか寂しいな」 |
加奈 | 「美羽ちゃんとはしばらくまた別々の活動かなぁ」 |
美羽 | 「そうだね。またもっともっと一緒にお仕事したいね」 |
加奈 | 「できるように頑張ろう。私たちならできる気がするよ」 |
チュッ |
加奈は美羽にそっと口付けをした。 |
美羽 | 「…うんっ。あ、そういえばこれってもらってもいいんだよね?」 |
加奈 | 「私たち用のサイズで作ってもらったから、もらえるって助監督さんが言ってたよ」 |
美羽 | 「じゃあこれだけは…」 |
チュッ |
美羽も加奈に口付けを返した。 |
美羽 | 「また付けて帰ろうっ。確かこの指は友情の証だって、未央ちゃんに教えてもらったんだ」 |
加奈 | 「そうなんだぁ、うん…」 |
P | 『おーい、そろそろ入って大丈夫かい?』 |
加奈 | 「ああっ、まだ着替え途中だからもう少し待っててください、プロデューサーっ!」 |
帰りに楽屋から出た二人の左手の小指にはお揃いのシルバーリングが輝いていた。 |
二人の役柄?ふとしたことから相手の女の子を好きになってしまうけど嫌われたらどうしようという役だったそうですよ… |