冬の夕刻、とある街角… |
雪菜 | 「はぁ……」 |
一人の女性が手に息を吹きかけながら誰かを待っていた。 |
雪菜 | 「遅いなぁ…」 |
そこに… |
海 | 「ゴメン、待った?」 |
雪菜 | 「ううん、待ってないよ」 |
海 | 「そんなことは…無いな。だってこんなに冷たくなってるし」 |
雪菜 | 「…ちょっとだけ待ってたかも」 |
海 | 「出る時になって朋が急に待ったしてくれてさ」 |
雪菜 | 「ええっ、どうしてぇ?」 |
海 | 「着て行こうとした服が破れたから縫ってくれって…まあやったけどさ」 |
雪菜 | 「もう朋ちゃんったら…」 |
海 | 「まあやってやったけどさ」 |
雪菜 | 「朋ちゃんも今日は…なのかなぁ?」 |
海 | 「そうじゃないか。繕い終わった後に何かウキウキ顔で出てったし」 |
雪菜 | 「ですよねぇ」 |
海 | 「でもここからはウチらの時間だからさ」 |
雪菜 | 「はい、行きましょう」 |
海 | 「雪菜はどこに行くつもりだった?」 |
雪菜 | 「そうですねぇ…特には決めてなくてぇ」 |
海 | 「レストランを予約しただけだしな」 |
雪菜 | 「それまでゆっくりお買い物がしたいなぁって」 |
海 | 「よし、じゃあ行こうか。この光の街をウチ達も楽しもう」 |
雪菜 | 「はい…」 |
そんな歩き出した二人の手はいつしか繋がれていた。 |
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遡ることある年の仕事始めの日… |
海 | 「んー?なーんか聞き捨てならない言葉が芳乃ちゃんから聞こえた気がするねえ雪菜」 |
雪菜 | 「同じユニットの仲間として、これはちゃんと朋ちゃんの口から聞きたいですねぇ海ちゃん」 |
朋 | 「これは芳乃ちゃん…逃げるよ!」 |
芳乃 | 「朋殿、待って欲しいのでしてー!」 |
朋と芳乃がユニット以上の仲となったのが発覚した日、その日の寮への帰り道… |
海 | 「朋がああなると、これでウチらの負担も少しは減ってくれるかな?」 |
雪菜 | 「そうだと良いですけどぉ…でもああいうの何か素敵な気がしますねぇ」 |
海 | 「傍から見てると、割とお似合いな気もするしな」 |
雪菜 | 「でも何がきっかけだったんでしょうねぇ」 |
海 | 「こういうのってどういう切欠で転がるか分かんないからな」 |
雪菜 | 「心の繋がる部分があったんでしょうねぇ…いいなあ」 |
海 | 「ん?どうしたんだ雪菜」 |
雪菜 | 「私、そういうのさらけ出せる人が居ないなぁって」 |
海 | 「ウチらには結構出してる方じゃないか?」 |
雪菜 | 「ううん、これはお化粧ちゃんとして見せてる顔だからぁ」 |
海 | 「ああ、なるほどな」 |
雪菜 | 「お化粧しないとただの地味な一人の女の子だから…自分に自信が無いっていうか…」 |
海 | 「そんなこと無いんじゃないか?」 |
雪菜 | 「えっ…」 |
海 | 「してもしてなくても、ウチは雪菜は雪菜だと思ってるけど」 |
雪菜 | 「そんなことないよぉ…性格だって自信がある時と無い時だと全然違っちゃうし」 |
海 | 「確かに公演の時の女帝とか、凄みがあったもんな」 |
雪菜 | 「あれはお芝居がちゃんとできるくらい作ったよぉ」 |
海 | 「だけどもそれは化粧だけの力じゃ無いんじゃないか?」 |
雪菜 | 「それは…」 |
海 | 「ウチは好きだけどな、雪菜の何ていうかその術ってヤツさ」 |
雪菜 | 「海ちゃん…」 |
海 | 「雪菜、そんなに自信が足りないならさ」 |
雪菜 | 「………」 |
海 | 「ウチの前で鍛えてみるか?」 |
雪菜 | 「海ちゃんの…前で?」 |
海 | 「ウチにはすっぴんの自分をさらけ出してみるっていうのさ」 |
雪菜 | 「ええーっ、それは無理だよぉ…」 |
海 | 「ユニット仲間の前でもダメか?」 |
雪菜 | 「だってぇ…うう…」 |
海 | 「ウチはもっと雪菜のこと、本当に知りたくなったんだ」 |
雪菜 | 「私のことを…?」 |
海 | 「同じユニット仲間なのに、そこまでちゃんと雪菜のこと知れてなかったなって」 |
雪菜 | 「うん…隠してた部分はあったかなぁ…」 |
海 | 「だからさ、ウチの前だけではそういうの無しにしてほしいな」 |
雪菜 | 「それならぁ、海ちゃんのことも私にさらけ出してくれますか?」 |
海 | 「ウチ?ウチは…まあそうだよな。それが交換条件ってヤツか」 |
雪菜 | 「それなら…してもいいかなぁ」 |
海 | 「ま、それくらいウチもしないとな」 |
雪菜 | 「何だか私たち、恋人みたいな話しちゃってますねぇ」 |
海 | 「えっ、そういやそうか…」 |
雪菜 | 「でも、海ちゃんなら悪い気はしないかもぉ…」 |
海 | 「…ウチもそうかな…」 |
……… |
時は戻って… |
雪菜 | 「ねえ海ちゃん、ここ寄りませんかぁ?」 |
海 | 「いいけど、何か買うの?」 |
二人は化粧品の店の前で止まった。 |
雪菜 | 「海ちゃんに口紅を選んであげたくて」 |
海 | 「ウチに?」 |
雪菜 | 「はい。こんなにいい唇なのに、可愛くなれてなくて勿体ないですから」 |
海 | 「そ、そうかな…あんまり普段は自分からしないからな」 |
雪菜 | 「男兄弟の家だと、やっぱりあんまりしないんですかねぇ」 |
海 | 「言われてみれば確かにそうかな。幸い服飾が好きだからそこまでだけどさ」 |
雪菜 | 「だから今日はどんな服にでも合わせられそうな一色を見つけてあげたいなって」 |
海 | 「それなら雪菜のお手並み拝見といこうかな」 |
雪菜 | 「はい、任せてくださいねぇ」 |
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寮へと戻って海の部屋にいる二人… |
雪菜 | 「今日は楽しかったですねぇ」 |
海 | 「朋たちも楽しんでるかな」 |
雪菜 | 「海ちゃんったら…今は他の子のことは言いっこなしですよぉ」 |
海 | 「ゴメンゴメン」 |
雪菜 | 「もう…」 |
海 | 「ほら…」 |
チュッ |
海 | 「これで許してよ、雪菜」 |
雪菜 | 「もっと、もっと海ちゃんのことが欲しいなぁ…」 |
海 | 「分かったよ…甘えん坊さん…」 |
その海の唇は満足いくまで幾度も雪菜の唇へと重ねられる… |