The Black cat Requests(黒猫之求)

アイドル寮、それは遠方出身のアイドルのための居住場所。
勿論だがペットと共に入居してきたアイドルもいる。例えば…
七海「瞳子さん、今度寮でもお魚さんを飼うかもしれないって本当れすか?」
瞳子「まだちゃんと決まってはいないのだけれども…あいから話は聞いてるわ」
七海「この瞳子さんのよりもっと大きな水槽になるんれすかねぇ〜」
瞳子「飼うとなったらそうなるわね。管理も私達に頼むかもしれないって」
七海「そうれすかぁ…いいれすね!」
 
他にも例えば…
麻理菜「小春ちゃん、台所まで取りに来てー」
小春「はーい、麻理菜さーん」
麻理菜「はい、これでヒョウくんのご飯には充分かしら」
小春「ありがとうございますー」
麻理菜「ふぅ…まだ餌をあげるのは苦手なのよね…」
 
これはそんなペットが居るとある居室のお話である…
雪美「千秋……ペロのことお願い……」
千秋「分かってるわ。学校行ってらっしゃい、佐城さん」
雪美「……むぅ……」
千秋「どうしたの?遅れるわよ」
雪美「千秋……名前……」
千秋「あっ……つい、慣れちゃっていたから…」
雪美「……学校行ってくるね……千秋」
千秋「ええ、行ってらっしゃい…」
チュッ
雪美の高さまで屈んでそっと頬へ口付けた千秋。
千秋「これはさっきのお詫びだから」
雪美「……ん、ありがと……」
ガチャっ バタンッ
雪美は寮の自室からようやく学校へと出掛けて行った。
千秋「さて…と。ペロ、おいで」
その声に駆け寄ってくるペロ。
千秋「ご飯も終わっているし、事務所に行くまではゆっくりしましょう」
千秋はリモコンでコンポのスイッチを入れ、クラシック音楽を流し始めた。
千秋「今日のラジオ収録のためにも、最後にもう一度聴き込んでおかないとね…」
ペロをソファの上のクッションに乗せ、その隣に腰を下ろした。
………
時はお昼頃のとあるプロデューサールーム。
コンコン ガチャっ
千秋「失礼します。おはよう、プロデューサー」
「おはよう千秋、今日はペロと一緒なのか」
ネコ入りのケージを持って千秋が部屋へと入ってきた。
千秋「ええ、寮に置いていくわけにもいかないもの」
「それだったらあいとかに預けておいたりは?」
千秋「今日は留美さんが部屋に来るからってどうしてもね」
「あー、和久井さんは猫のアレルギー持ちだもんなあ…この前も大変だったみたいだし」
千秋「それで今日はここ13時出発で良いのよね?」
「今のところはその予定だな。今のところ14時半頃から3本録りで16時半頃上がりだ」
千秋「それなら17時には帰ってこれるわね」
「その後に用事か何かでも?」
千秋「佐城さんが学校から帰ってくるまでには帰って来れればって…」
「了解。それでペロはどうする?戻ってくるまでアイドルルームの誰かに預かってもらう?」
千秋「ラジオブース内って入れても大丈夫かしら」
「動物を入れて生放送とかしている場合もあるから、おそらくは大丈夫だろうさ」
千秋「確認の方はお願いするわ。ダメなら預かってもらえる?他の人に任せるのはちょっとね…」
「それくらいならいいよ。ということはもしかしてペロの声も放送に乗せる気…?」
千秋「いるのなら今日のこぼれ話にでも使おうと思って」
「なるほど…その辺は応相談になりそうだけどちゃんと聞いておくよ…」
………
ラジオ収録も終わり、ケージを持って自身のアイドルルームへと戻ってきた千秋。
雪美「あっ……千秋、おかえり……」
千秋「あら、もう帰ってたのね」
雪美「ペロも……ただいま……」
千秋「今ケージから出すわね」
カチャッ
ペロはソファにいた雪美の膝へと掛けて行った。
雪美「……おとなしくしてた……?……そうなの……」
千秋「今日はラジオの収録にも連れて行ったけど、いい子にしていたわ」
雪美「……ペロもうれしそう……」
千秋「佐城さん寮に戻りましょう。佐城さんも疲れているでしょう?」
雪美「……うん……」
………
夕ご飯もお風呂も終え、居室へと戻ってきた二人。
千秋「雪美、明日の学校の準備は大丈夫?」
雪美「大丈夫……あっ……宿題教えて……どうしても分からなくて……」
千秋「ええ、いいわよ。どんな宿題なの?」
雪美「展開図……」
千秋「…そうね、これは作って見せたほうが良いかもしれないわ……」
 
雪美「……これでいい……?」
千秋「ええ、そうね。これで大丈夫よ」
雪美「終わった……これをカバンに片付けて……明日の準備終わり……」
千秋「じゃあもう遅いし、そろそろ寝ましょう」
雪美「うん……教えてくれてありがとう、千秋……」
チュ…
雪美は隣にいた千秋の頬へとそっとキスをした。
千秋「お礼を言われることはないわ。分からないなら大人の人が教えるのは当然のことでしょう」
雪美「ううん……私、こうして親身になって……教えてくれる人がいてくれて……幸せだから……」
千秋「雪美…っ…」
ぎゅっ
千秋は感激のあまり雪美の身体を椅子から立ち上げて抱きしめた。
雪美「千秋……ちょっと苦しい……」
千秋「ゴメンなさい…そう言ってくれるのが嬉しくて、つい…」
雪美「いいの……千秋にこうされるの……好き……」
千秋「私もこうしてあげるの…好きよ」
雪美「このまま……朝までぎゅっとしてて……」
千秋「今日の雪美は甘えん坊さんね…」
雪美「……これは千秋にだけ……だから……。……千秋……大好きっ……」
千秋「こちらこそ愛してるわ、雪美」
チュッ
千秋は雪美を少しだけ持ち上げて、その唇の感触を確かめるようにそっとキスをした。
千秋「今日は私のベッドでいいわよね?」
雪美「……うん……ペロも一緒に……」
千秋「ええ、一緒に眠りましょう」
雪美「……ペロ、一緒に来て……」
千秋「あっ…それならこれでどうかしら」
千秋は雪美の身体をお姫様抱っこの体勢へと変えて…
雪美「……!?!?」
千秋「ペロも雪美に乗っていいわよ」
ペロもそれが分かったのか雪美の身体に飛び乗った。
千秋「雪美、ドアの開け閉めは頼むわね」
雪美「ん……」
翌朝までのしばしの時間、二人と一匹の温もりが布団という舞台で一つのハーモニーを奏でゆく…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
飛神宮子です。
今月の百合百合枠。今回はいわゆる「黒雪姉妹」です。東郷さんのSSで存在自体は匂わせていました。
この二人は固い信頼と仄かな愛情。二人にとって今の場所が何事にも変え難い放したくない価値の物なのです。
タイトルは「ものすごく高い価値のあるもののたとえ」を意味する「黒貂之裘」という四字熟語からです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2016・11・21MON
飛神宮子
短編小説に戻る