After the Castle...(お城のあと)

千夏「唯ちゃん、おつかれさま」
「うん。ありがと、ちなったん!」
千夏「じゃあ…」
二人『乾杯』
チンッ
その言葉を合図に二つのグラスが合わさる。
「んくっ…ちなったんも見に来てくれてありがとっ」
千夏「こくっ…せっかくの唯ちゃん地元で晴れの舞台じゃない。お願いされなくても行ったわよ」
「嬉しかったよー、あんな観客席の近くまでトロッコで行けたし」
千夏「馬車でしょ、もう…」
「いーじゃんっ、だってみんなトロッコって言っちゃってたもん」
千夏「フフフ、確かにそうね…」
「でも何かさ、終わったら寂しいっていうか何だかなー」
千夏「言いたいことは分かるわよ。気が抜けたのでしょう?」
「うん。学校とかは普通にあるけど、お仕事とかはしばらくオフ貰っちゃってるし」
千夏「それが学生の本分よ、ちゃんと行ってきなさい」
「はーい」
千夏「よろしい。でも今日は帰らないで良かったの?親御さんも来られていたとかじゃないのかしら」
「ちなったんなら良いって言ってくれたもん」
千夏「こっちは二日前に言われて急に大変だったのよ」
「ごめんちゃい、レッスンとかしてたら言い忘れちゃってたんだ」
千夏「傍から見てても大変そうだったものね…」
「でもそう言ってちゃんと準備しててくれるちなったん優しいよー」
千夏「それは…いいじゃない。特別な存在だもの」
「あー、顔紅いー!」
千夏「そういう貴女もよ」
「…プッ、アハハハハっ!」
千夏「…フフっ、もうゆいちゃんったら…」
「ちなったんだってー」
千夏「でも、いいわ。今日は愉しみましょ」
ここは千夏の住んでいるマンションである。
「うんっ。あ、先にお風呂借りていい?もう一回ちゃんと汗流したいなー」
千夏「…ダメ」
「えーっ!?どーして?」
千夏「一緒なんだからたまには…ね」
「あれ?いっつも恥ずかしがって別々じゃん。今日は違うのー?」
千夏「私だってたまにはそういう気分の日もあるのよ」
「んー、じゃあこれ飲んだら一緒に入ろーね」
千夏「そうね…最近夜は寒いし温まりましょう」
「久しぶりだねー、一緒に入るのって」
千夏「ライブに向けてのレッスンより前かしら。それくらい最近来られなかったわよね……」
………
「んうー…身体に染みるーっ」
湯船に浸かっている唯。千夏は洗い場で身体を洗い始めていた。
千夏「本当にお疲れさま。ダンスレッスンとかも大変だったわよね」
「個人の曲もユニット曲もあったからねー」
千夏「その分、洗練されてたわ。Radio Happyのダンス、綺麗だったわよ」
「ありがとっ」
千夏「明日は観るだけになるでしょう?今日はゆっくり休んでもらうわ」
「でもでも、せっかくちなったんと一緒なのにそれはちょっと嫌かなー」
千夏「もう…それなら来た意味がなくなるじゃない」
「へ?」
千夏「これでもプロデューサーに言われているのよ。その辺についてもよろしくって」
「そーだったんだ。プロデューサーちゃんが何も言わないで送り出してくれたからヘンだなーって思ってた」
千夏「今日だと他にはあいとか美優さんとか、そう言われている人も多いのよ」
「薫ちゃんとか仁奈ちゃんとかも可愛かったよねー」
千夏「みんな本当に元気だったわね、控え室までは行けなかったけれどどうだったの?」
「やっぱり出番までは緊張してたよー。特に仁奈ちゃんはサプライズだったもんね」
千夏「そうだったわね。私はこういう役回りだから美優さんから聞いてはいたけれど」
「でもねー、始まったらもう緊張する暇がないくらい一直線だったよ」
千夏「その二人も今頃はこうして癒されているわ、きっと」
「そーだねー。あ、そういえばちなったん」
千夏「どうしたの?」
「お風呂上がったらさー、この前の学園祭の写真見せてー」
千夏「…えっ?」
「だーかーらー、学園祭の写真ーっ」
千夏「何の話かしら」
「もー、しらばっくれようとしたってダメだよー」
千夏「知ってたのね、ゆいちゃん達がレッスンしている間の撮影だったのに…」
「色んな人から聞いたもん。凄い格好したって」
千夏「あれは恥ずかしかったの。積極的には見せたいと思わない代物よ…」
「ちなったんって今いくつだっけ?」
千夏「制服を最後に着たのが5年前ね」
「…プロデューサーちゃん、頭大丈夫なの?」
千夏「知らないわ…あんなにされちゃうなんて…」
「なんか余計期待しちゃうなー」
千夏「いい大人にさせる恰好ではないのがきっと分かるわよ…」
「うんうん、楽しみにしてるね」
千夏「ゆいちゃん、そろそろ私もお風呂に入っていいかしら?」
「オッケー!…って前から思ってたけど、ちなったんのとこのお風呂って大きめだよね」
千夏「普通のより少し大きいのがあるところを選んだのよ」
「どして?」
千夏「ゆったり入りたいでしょう。こういう時間こそ癒しになるの」
「もしかしてここで読書とかしたりもする?」
千夏「本当にたまにだけれど、あまりすると本が傷んじゃうから程ほどにね」
「やっぱりちなったんらしいねー」
千夏「それに…」
「それに?」
千夏「…ゆいちゃんと一緒に入るためでもあるのよ」
「ゆい…と?」
千夏「だって寮を出たのも貴女と…誰にも邪魔されたくない場所が必要になるって思ったからじゃない…」
「…ちなったんは…優し過ぎるよぉ」
千夏「貴女の気持ちに応えたかったから…」
ザプンッ
身体を流し終えた千夏はそのまま唯の浸かっている浴槽へと入り始めた。
千夏「ゆいちゃん…」
「ちなったん…」
千夏の身体は唯の身体へと飛び込む…いや、押し倒すかのように傾れていく…
ちゅうっ…
その二人の唇はそうなるのが当然のように繋がっていった…
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あとがき
飛神宮子です。
今月の百合百合枠は二本。まずはサクラブロッサムの2話目です。
今月中旬のライブ後のお話。LVですがこの日だけ観に行きました…そして、色々と良い意味でやられた気がします。
それはそうと私はこの二人だと、恥ずかしさを見せないためにあえて千夏が積極的に行くと思っています。
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2016・10・31MON
飛神宮子
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