Former Flower of the Prop(支えの先の花)

時は少し戻って5月第3週の月曜日のこと…
♪〜
寮にいたあずきのスマホがとある人からの着信を告げた。
あずき「もしもし、桃井です。いつもお世話になってます。はい、今時間は大丈夫です」
かしこまった様子から、相手は目上の人のようだ。
あずき「はい、私ではないですけれどありがとうございます。それで…ああ!それはいいですねっ!」
その話にあずきもすっかり乗り気になった。
あずき「それではサプライズ大作戦ということで…今週はクロスもありますけど…」
どうやら相手先はラジオの番組関係者であるらしい。
あずき「私からも伝えておきますけど、そちらからもお願いします。詳細はまたメール等でお願いしますっ、ではっ」
あずきは電話を切った後、寮内の内線電話の受話器を取った。
あずき「もしもーし、忍ちゃん?」
『あずきちゃんどうしたの?内線使うなんて珍しいね』
あずき「L●NEだと不用意に発言しそうだったからさっ、それでね……………」
『ふーん…あ、そっか。今週はアレあるからか』
あずき「だから先に連絡までってことでっ。後でどっちかの番組から連絡来るからそれも伝えとくよっ」
『うん。穂乃香ちゃんにはアタシから伝えとくから』
あずき「そうしてもらえると助かるっ、よろしくねー」
ガチャっ
あずき「さーってと、色々と………考えないといけないよね…。決めてたもんっ…うん…」
そこにあったのは少し楽しそう…でもどこか不安そうな、ただ意味深なあずきの表情だった…
………
そしてその週の土曜日…
「柚と」
あずき「あずきの」
二人『フリルドクロッシング!!』
♪〜
音楽とともにパーソナリティの柚とあずきが喋り始めた。
あずき「11時〜!今週もフリクロスタートだよっ」
「この番組はフリルドスクエアの埼玉出身喜多見柚と…」
あずき「長野出身桃井あずきが、北関東と信越のアイドル情報や私たちフリスクのこととかを」
「埼玉の××からラジオ局6局をネットして、ゆるくお喋りする番組だゾ」
あずき「まずは…柚ちゃん、あらためておめでとっ!」
「へ?」
あずき「事務所の総選挙記念CDのことっ。あずき達の中ではお祝いしたけど、こういう場では初めてでしょ?」
「エヘヘ、ありがとう。何かこういうところで言われると照れちゃうネ」
あずき「レッスンとかすれ違いが多くて昨日やっと4人集まれてお祝いできたんだ。個別には会えてたけどっ」
「今回の発表が日曜日だったモン。みんな学校とかもあるからアタシも毎日はレッスン来れなかったし」
あずき「そうそう、学校とかではどうだったの?」
「もう大変だったゾー。クラスだけじゃなくて学年…ううん、学校中から注目の的になったっ」
あずき「それでそれで?」
「朝礼で教頭センセからみんなにお達しが出たくらいだったナー」
あずき「そうなんだ…ランクインした忍ちゃんも大変になったって言ってた」
「でも嬉しい悲鳴ってヤツなのカナ。本当に楽しくなってきたっ」
あずき「そっかあ…憧れるなあ…ということで今日のフリクロは…柚ちゃんおめでとうスペシャルだよっ!」
「…えっ?」
あずき「さっきの打ち合わせはぜーんぶフェイクっ。ほらさっきのすれ違いであずきが居ない日、あったでしょ?」
「えっと…一昨日だっけ?」
あずき「実はその日にもう今日の打ち合わせは済んでまーす」
「ええーっ!?!?」
あずき「ホームページのブログも一昨日に書き加えてあったの、気が付かなかった?」
「ぜーんぜん気が付かなかったヨ」
あずき「先週言ってたメールテーマは来週やるから安心してっ。今週は柚ちゃんについてなら何でもオッケーっ!」
「メールは〜〜〜、FAXの方は埼玉048の〜〜〜まで、恥ずかしいけどお便り待ってるよー」
あずき「ツイッ●ーのハッシュタグは#〜〜〜〜、呟いた内容も読むかもしれないよ」
「もう今日はこうなったらヤケだっ、いっぱいサービスするゾっ」
あずき「おっ、柚ちゃんもノッてきたね。じゃあ今日のオープニングナンバーは………」
………
いつもならラジオ終わりであずきは寮に戻るところなのだが…
「あれ?今誰に掛けてるの?」
あずき「忍ちゃん達だよ。明日のレッスンの変更があってそれについてとか、今日のラジオについてとかっ」
あずきはそのままスマホをテーブルの上へと置いた。
「そっかー、そうなんだ。でも本当に今日はビックリしたんだヨ」
あずき「あずきも月曜日にスタッフさんから連絡があって、秘密裏に動くの大変だったっ」
「アタシもお祭りごとは好きだしさ、リスナーのみんなに喜んでもらえて良かった」
あずき「そうだねー…んーっ!」
「でもあずきチャン、今日は帰らなくていいの?」
あずき「明日は今のところレッスンだけだし、時間も早くないもん」
「そっか…アタシも別のとこでレッスンとスチル撮影だから一緒に行こっか」
そう、今日も柚の家に泊まることにしていたのである。
あずき「そだね。だけどあずきこそ迷惑じゃなかった?今日も泊まるとは今週会った時に伝えてたけど」
「いいのいいの。お母さんもみんなも良いって言ってくれてたからネ」
あずき「…で、そのお母さん達は?姿は見てないんだけど…」
「だって今日いないモン。お父さんは出張だし、お母さんはお母さん仲間の人達の旅行っ」
あずき「なーんだ。どうりで柚ちゃんがご飯作ってたって思ったよ」
「今日あずきちゃんが来るって言わなかったら、アタシが寮に泊まろうかなって思ってたしサ」
あずき「そうだったんだ。あずきはそれでも良かったけどっ」
「せっかく一晩自由にできそうだったからネ」
あずき「そっか…じゃあ今日は二人きりなんだ…」
「え…あっ…そうだネ…」
あずき「(なんだろ…変に緊張してきちゃった…)」
「(…急に意識しちゃって何だか…ど、どうしようカナ…)」
二人『あのさっ!』
二人きりの部屋…見つめ合った二人だけの空間…
「な、なな何カナ?あずきチャン」
あずき「ゆ、柚ちゃんこそどうしたの…?」
「えっ…あずきチャン、先に言っていいヨ」
あずき「い、いや柚ちゃん先にお願いっ…」
「…わかった…。…あのね、こういうことダシにするのも本当は違うと思ったんだけどサ…」
あずき「うん…」
「前回の総選挙、はぁとさんに抜かれてアレだけ悔しい想いしたでしょ」
あずき「あの後1ヶ月くらい立ち直れなかったね」
「アタシがまた立ち上がれることができたのってさ…一番近くで支えてくれたあずきチャンが居たからダヨ…」
あずき「だってあずきの相方と思ってる柚ちゃんが、見てられないほど落ち込んでたし…ここにもちょくちょく通ったね」
「本当に嬉しかった…今のアタシがあるのもあずきチャンのおかげだなって思ってる」
あずき「そう言ってもらえると、あずきも嬉しいよ」
「だから決めたんだ。次の総選挙で目指す場所に辿りつけたら…」
あずき「(……………えっ、うそっ…柚ちゃんも…これって………ううんっ…もう覚悟決めたっ……!)」
「(あれっ…あずきチャン…………もしかして次にアタシが言う言葉………分かってたのカナ………?)」
瞑られたあずきの瞳…この想いは自分だけだと思っていた柚の唇はその感情を素直な動きに変えていた…
あずき「(……柚ちゃんの……温かいよ……嬉しいのにでも……どうしよう……止められないよ……)」
「(あずきチャン……受け入れてくれたんだよネ……その涙……嬉し涙ってことで……受け取るよ……)」
それはたとえ短くとも、二人にとってそれは数十分にも感じられる時空間だった…
 
唇が離れてその後…
「あずきチャンも同じ想いだったんだネ…」
あずき「あずきも柚ちゃんの総選挙の結果にかこつけるつもりで…今日絶対に伝える大作戦決行中だったんだよ」
「だから今日も泊まるって…」
あずき「自力じゃないっていうのは後ろめたかったけど…あずき自身は無理だって…そんな気がしてたし」
「そんなことないっ!」
あずき「柚ちゃんっ?!」
「あずきチャンはセクシーだし、ちょっと抜けてるとこもあるけど可愛いし、みんなの見る目が無いんだよっ!」
あずき「そこまで言われると、何だか顔がぁ…」
「…アタシにとっては魅力的で大好きな相方なんだからっ…もっと自信持ってっ…」
あずき「…あずき…そんなに柚ちゃんに思われてたんだっ…」
「この想い、もう隠したくないからネ…」
あずき「それはあずきだって同じだよっ」
「う、うん…」
あずき「アクティブでちょっぴり小悪魔的で、でも根は優しくて…その全部があずきのことを魅了してくれるんだ」
「そう真っ直ぐに言われるのって…さっきのあずきチャンの気持ち…分かったよぉ」
あずき「あずきの…あずきがみんなに自慢したい大好きな相方だからねっ…」
「あずきチャンの想い…ちゃんと受け取ったヨ」
あずき「ね、ねえ…柚ちゃん」
「どうしたの?あずきチャン」
あずき「このこと穂乃香ちゃんと忍ちゃんにも伝えた方がいいのかな」
「今はまだ、アタシ達だけの秘密にしとこうよ」
あずき「いずれはきちんと伝えないと…っ!?」
「どうしたの?あずきチャン」
あずき「そういえばさっきまでグループ通話してたけど…柚ちゃんに代わるつもりで切った記憶がっ…」
机の上にあったあずきのスマホには…
あずき「つ…繋がってるっ…。柚ちゃん家のWi-fiで料金掛からないから、通話を代わろうと思って忘れてたっ…」
「も…もしもし…?」
『………』
「あれ?誰の声も聞こえないけど…」
あずき「代わって。もしもーし!おかしいね、向こうも切ってないみたいだし…聞こえてると思うけど…」
『……こっちも寮のWi-fiだから、代わってくれるまで待とうかと思ってたらねー』
あずき「やっぱり聞かれてたっ!忍ちゃんに全部筒抜…」
穂乃香『……忍ちゃんにだけじゃありませんからね』
あずき「穂乃香ちゃんにもだ…」
「エエーっ!?」
『通話料金掛かるわけじゃないし。そんな会話が聞こえるなら切らないで聞いてるよね、穂乃香ちゃん』
穂乃香『忍ちゃんとこの後どうなるのか、ドキドキしながら通話してました』
『もうこっちは全部知っちゃってるから、気にしないでどうぞお幸せにー』
穂乃香『あずきちゃん、明日戻った時に詳しく聞かせてくださいね』
あずき「ちょ、ちょっと待ってっ…」
あずきの懇願も空しく、グループ通話は切れてしまった。
あずき「も、もうさっ、忍ちゃん達に話す手間が省けたと思う大作戦でっ!」
「もう過ぎちゃったことはしょうがないよネ」
あずき「でも柚ちゃん、嫌そうな顔はしてないよ」
「そういうあずきチャンだってっ」
二人『………アハハハハっ!』
どちらからともなく笑いあう二人。お互いの笑顔は色々な心を一つずつ解いていく…
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あとがき
飛神宮子です。
月刊フリルドスクエアの番外編[25作目] 兼 今年の総選挙記念3作目 兼 今月の百合百合枠その1です。
ついにフリスクから…向こうは向こうでくっ付く予定ですが…それはそれでまだ先の話でしょう。
去年の悔しさをバネにした柚。ただそれは一人だけでは無理だったのではないかと思います。
誰かの支えがあったから…きっとそれを支柱に立ち上がり花を咲かせて実を結んだのでしょうね…
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2017・06・16FRI
飛神宮子
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