Summer Frill Book 4 Pages(夏の本の4ページ《フリル付き》)

あずき編
あずき「いらっしゃいませ…あら○○さん、お久し振りです」
常連のお客さんに挨拶をするあずき。実家の手伝いのようだ。
常連客「あらー、あずきちゃん?すっかり綺麗になっちゃってぇ」
あずき「またまたぁ、綺麗なんてそんなことないですよぉ」
常連客「こっちに帰ってらしたのねぇ」
あずき「夏休みに少し帰省させてもらったんですっ」
常連客「東京でのお仕事も大変でしょう?」
あずき「それはあずき…じゃなかった、私が好きでやっていることですから。それで本日はどのようなご用件でしょう?」
常連客「そうそう、新しい柄が良さそうだとお母様から連絡があったのよ」
あずき「そうですかそれでは今呼んできますね、そちらの畳の方でお待ちください」
ちょっとして母の後ろにあずきも付いてきた。
あずき 母「何本かございますがまずはこちらです。○○様にお似合いの柄かと思いますがいかがでしょうか」
常連客「そうねえ、ちょっと私には明るすぎないかしら」
あずき 母「それではこちらはいかがでしょう。こちらは先程と比べると落ち着いた色合いかと」
常連客「柄が少し好みとは違う気がするの。もう少しこう小さなものが集まっているようなのはどうかしら」
あずき 母「それでしたらこちらはどうでしょうか。最初のものより少し色が強めなのですが」
常連客「柄は確かに好みねえ…ねえ、あずきちゃん。どれが私に似合うかしらねぇ」
あずき「へっ…私ですか?」
常連客「そうよ、あずきちゃんの感性で選んでもらうのも悪くない気がするわ」
あずき 母「そうね、大人だけでは分からないことが見えてるかもしれないわよ」
あずき「そうですね…それなら正直に言ってもいいですか?」
常連客「ええ、どうぞ」
あずき「○○さんにはそれよりも…」
新作の生地が入った棚を探り始めたあずき。
あずき 母「えっ、あずき…」
心配そうに見守るあずきの母親。
あずき「こちらなどいかがですか?」
常連客「ほう…これはこれまで持っていない色使いで新鮮ねぇ」
あずき「これからの季節から冬までならば、この色でも映えるかと思います」
あずきの感性に、お客さんも母親もただただ感心しきりだった…
 
柚編
キュキュッ キュキュキュキュッ
体育館にシューズの摩擦音が響く。
「よっと………っとっと、んっ!いけっ!」
同級生「うわっ!入れられたか!そのコース返されたらこっちも返せねーって」
「ふー…へへん、どうだっ」
今は同級生の男子バドミントン部員と学校の体育館で打ち合いをしていた。
同級生「でも衰えてないんだな」
「これもアイドルのダンスレッスンの成果ダヨ。ステップ結構エグいのもあるし」
同級生「まあ最近部活来てねーけどさ、忙しいんだろ?」
「部活は多くて週1か2くらいしか来れてないしさー」
二人はコートの外に出て、床の上へと座った。
同級生「今日は大丈夫だったのか」
「今日はオフというかお休み貰ったんだっ。登校日なんだからみんなに会えるの楽しみにしてたんだケド」
同級生「登校日自体自由登校だから帰省した人もいるし、登校日だけの人は終わって帰ったのもいるみたいだな」
「フリスクのみんなも地元に帰ってるからちょうど良かったんだけどねー」
同級生「俺はこっちが地元だからそういうのよく分からないな。でもおかげて三、四十人いるこの部活だってこの人数だぜ」
見回してもラケットケースがあと四つ。来ている部員も二人を含めて六人といったところである。
同級生「そういえば部活の時間まで居たってことは、何かあったのか?」
「お仕事で1日だけテストの日に出れなくてネー。今日その日の2教科受けたんだー」
同級生「俺はそのテストで1教科だけ山外して赤点喰らっちまって、この前まで補習だったさ…」
「だけどそれも終わったから…あとは宿題かあ」
同級生「そっちも頑張れよ。…だけどアイドルやってても喜多見は喜多見だな…何だかホッとした感じがする」
「楽しいことは昔から好きだったからネ!あ、そうだスマホ持ってる?」
同級生「え?スマホなら更衣室行けばあるけど?」
「今日は特別!誰にも見せないのを約束してくれるなら、アタシのことスマホで撮ってもいいゾっ!」
同級生「ええっ!いいのかっ!?いつも学校でお断りしまくってるのに」
「センパイ達も顧問の先生も今はいないし、こんな日に部活に来たくらいマジメな△△クンなら信用できるモン」
同級生「ま、先輩達も部活出てるていで用具室とかでいい雰囲気なんだろ。あのラケット並んでる組でカップルなんだぜ」
「むむっ、その話は詳しく聞かせてほしいナー。いいよねっ?」
その子のスマホの中と家のパソコンには厳重にロックされたフォルダが一つ増えていたという…
 
忍編
ミーンミンミンミンミンミーン…
蝉時雨の注ぐ墓地に一人の少女とその両親がいた。
「もう夕方近いのにあっついね、東京よりは少しはマシだけど」
忍 父「この墓も随分と汚れたな。彼岸に来た時には磨いてやらんと」
忍 母「そうねえ、今日は暑いから線香と花をあげて拝むだけで終わらせましょ」
「お父さん、ロウソクとマッチは?」
忍父「はい、忍。気をつけろよ」
「分かってる、アタシだってもう子供じゃないんだよ」
忍 母「ちゃんと大人になるまでお父さんっていうのは娘が心配なものなのよ」
忍 父「なっ…母さん!」
忍 母「はいはい、お参りをしたら忍も今日は約束があるんでしょう?」
「うん。夜には帰るつもりだからっ」
線香と花をあげて墓に手を合わせる3人。
忍 父「忍、今年はあの子は来ないのか」
「穂乃香ちゃん?今年は地元でやることがあるみたいだから来れないって」
忍 父「そうか…」
忍 母「お父さん、去年はびっくりしていたのよ」
忍 父「当然だろう、こんな遠くに他の家の娘さんに来てもらうことになるんだぞ」
忍 母「そうねえ。向こうではお世話になってるんでしょう?」
「うんっ。東京でもラジオの時に宮城でもね」
忍 父「先週のラジオで言っていた話、母さんの話だろう?」
「ラジオの話…ああ!うん、だってよく聞かされてたし」
忍 母「どこかで話していたのね」
「ねえねえ、また何か聞きたいな」
忍 父「何だ、昔みたいにまた川の字になって寝るか?」
「えー、お父さんとかー」
忍は少し考え込んで…
「いいよっ!こんな時くらいしかこっちに戻って来れないから、たまにはお父さんがしたいことをねっ」
忍 父「忍…」
忍の満点の笑顔に少し照れた父なのであった…
 
穂乃香編
穂乃香「失礼します」
とある施設へ入っていく穂乃香。
穂乃香「お久しぶりです、□□先生」
先生「今年は来てくれたのね、綾瀬さん」
穂乃香「はい。去年は来れなくてすみません。お正月にでも顔を出したかったのですけど急なお仕事で…」
先生「いいのよいいの。はいみんなちょっと休憩よ」
穂乃香「中断してしまってもよろしかったんですか?」
先生「そろそろ休憩の時間だったの。その間に着替えてもらえる?あなたの場所、空けてあるから」
穂乃香「はい!」
穂乃香は持ってきたお土産を先生へと手渡し、もう一つの袋を持って更衣室へと向かった。
先生「……はい、皆さん。2年前からこのスクールにいる人はこちらの方を知ってますね」
生徒『はーい』
先生「綾瀬さん、自己紹介をお願い」
穂乃香「おひさしぶりです、綾瀬穂乃香と申します。東京でアイドル活動をしています」
先生「彼女は数年前までこのスクールに在籍していました」
穂乃香「少し申し訳ない話になるのですが、伸び悩んだ時期に偶然こちらに来られていたプロデューサーにスカウトされたんです」
先生「あの頃は私もかなりきつく指導をしていたもの、仕方ないかもしれないわ」
穂乃香「それで□□先生、今日は私は何をすれば…」
先生「まだ踊りは覚えているかしら?」
穂乃香「曲にもよりますが、聞いて多少動きを確認できれば動けるかと思います」
先生「そのための衣装だものね。『〜〜〜〜〜』の第二幕のあの場面なのだけれど大丈夫よね」
穂乃香「はい!一番の得意曲でした。今でもステップは足慣らしに踏むことがありますので」
先生「ここにいる皆さんの前で踊ってもらおうかしら。相手役はやりたい子!」
『はいっ』 『はーい』 『はいっ!』
先生「じゃあ綾瀬さん、今手を挙げてる子は…綾瀬さんが知らない子もみんな相手役の経験者だから選んでもらえる?」
穂乃香「分かりました。では…久しぶりに☆☆さん、よろしくお願いします」
男子生徒「こうやって綾瀬と踊るのは久しぶりだな。よろしく」
穂乃香「あの…アイドルになっても節制はしていますけれど…当時とは多少その身体も…はい」
男子生徒「お、おう…当たったらゴメンな…」
少し頬を染めた一組の少年少女のステージが始まろうとしている…
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あとがき
飛神宮子です。
月刊フリルドスクエアの15本目。
夏休みに実家の方に帰省してのオムニバスです。地元で個々人になるとより性格も色濃く出てしまうんじゃないかなと。
それにしても、穂乃香と忍の水着まだですかー(願望丸出し)
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2016・08・27SAT
飛神宮子
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