Scent for Myself(私のための香り)

穂乃香「…やっぱりどこか懐かしい香りです」
穂乃香はその香りに思わず微笑んだ。
 
時は12月の頭に遡る。
あずき「ちょっと遅くなったけど、今日は柚ちゃんお祝い大作戦だよっ!」
「ありがとねー。と言っても明日はラジオあるし徹夜とかは無理カモ」
「明日は生放送の週だから仕方ないよ」
穂乃香「そうですね。柚ちゃんのお家でお泊り会させていただけるだけでも嬉しいことです」
「やっぱり4枚だと布団だけで結構いっぱいいっぱいになっちゃったカナ」
あずき「そうだね、でもこうやって…」
ゴロゴロゴロゴロ
あずきは並んだ布団の上で横に転がった。
あずき「すっごいゴロゴロできるよっ」
「あー、アタシもやるーっ」
ゴロゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロゴロ
柚もあずきと並んで転がっていく。
「…まあ柚ちゃんの誕生日だしいいのかな」
穂乃香「こういうところが柚ちゃんらしくていいかなと思います」
今日は使わないベッドに腰掛けていた二人はその光景を見ながら微笑んでいた。
あずき「ほらほらー忍ちゃんも穂乃香ちゃんもやらない?」
「いや、アタシ達はいいよ」
「そんなこと言って、本当はやりたいんじゃないのカナ?」
穂乃香「私達はこうやって見ているだけで…ね、忍ちゃん」
「うん。あ、そういえば誕生日プレゼントまだ渡してなかったね」
穂乃香「そうでした。これは…誰が選んだんでしたっけ?」
あずき「あ、それはあずきだよっ。あずきもちょっと気になっててねー」
穂乃香「柚ちゃん、ハッピーバースデーです。これをどうぞ」
「わー、みんなありがとー…開けてみていい?」
あずき「いいよっ、これが良さそうだったらあずきもそのシリーズのを使ってみようかな」
柚が袋から取り出した物は…
「何だろ?これ…練り…香水、これ香水なのっ!?」
あずき「吹き付けるんじゃなくて手で塗り付ける香水なんだって。柚ちゃんに合わせて柚子のにしたんだけど」
「うわー、こういうのは初めてカモ。制汗剤とかはするけど、化粧品って感じじゃないし」
「アタシもお気に入りの以外はこういう香水とかは持ってないなー」
あずき「あずきもファンの人から貰ったのだけかなっ。忍ちゃんはどんな香りの?」
「アタシのもファンの人から貰ったのだけどリンゴの香りのだよ。普段は使ってないから特別な時のだけどね」
「そうだったんだー、確かに見たこと無いカモ。あずきチャンは?」
あずき「あずきのは桃のヤツだね。この前のグラビアの時に雰囲気でるって褒められちゃった」
「アレ?そういえば穂乃香チャンは?」
穂乃香「わ、私ですか?…そういえばそういうのは付けたことも貰ったことも無い…かもしれないです」
三人『あっ……』
「でも確かに分かるカモ。アタシとかあずきチャンは名前から連想できるし、忍チャンは出身地で分かるけど穂乃香チャンは…」
穂乃香「そうなんでしょうか。でもそう言われると自信がないです」
あずき「穂乃香ちゃんでイメージする香りってことだよねー…うーん、どうかな?」
「アタシ達そういえばこういうグッズ発売してなかったよね」
「もしかして忍チャン、これもグッズに加えてもらおうってこと?」
「それもいいんじゃないかなって。こういう機会だし穂乃香ちゃんの分も考えてさ」
あずき「それはいいかもっ、穂乃香ちゃんのイメージフレグランス大作戦っ」
穂乃香「あの、あの…勝手にこういうのって進めてもいいんでしょうか…?」
「これは次にプロデューサーに会った時に話してみればいいでしょ」
「あ、でもぴにゃこら太に逃げるのは禁止ダヨ?」
穂乃香「ええーっ、ダメですか?」
「実は前に調べたんだけど、ピニャコラーダの香水は売っているらしいんだ」
あずき「名前で気になって色々と調べたんだよねっ」
穂乃香「うう…そうなると難しくなってしまいました」
「これに関しては期限も無いんだし、ゆっくり考えたらいいんじゃないかなっ」
あずき「そうだよっ、この話はこれくらいにしてまったりガールズトークタイムするよっ」
「あー、そういえばこの前のさー……」
………
穂乃香「私らしい香り…地元らしい香り…それって何でしょうか…」
それから数日後の事務所のビル。穂乃香はまだ同じ悩みを抱え続けて廊下を歩いていた。
穂乃香「どれも特には名産とは…」
考え込んでいたためか、前から来る女性に気が付かず…
ドンッ
穂乃香「キャッ!」
???「にゃっ!?」
そのまま女性にぶつかってしまった。
穂乃香「あ、すみません!大丈夫でしょうか?考え事をしててつい…」
???「大丈夫大丈夫だよ、っと…ハスハス…んー、いい香りだにゃぁ…」
ぶつかられた体勢のままハスハスされてしまう穂乃香。
穂乃香「へ?え?わ、私がですか!?」
???「うん、いい香りだねー。これは…嗅いだことないボディソープの香りかな?」
穂乃香「分かるんですか?えっと…あ、志希さん。一ノ瀬志希さんですね?」
志希「ご名答〜、いつもラジオの方でアタシとかの宣伝ありがとねー、穂乃香ちゃん」
穂乃香「いえ、それが私や忍ちゃんのお仕事ですので。それにしても香りに敏感のようですね」
志希「薫りに関してはちょっと煩いからね〜、それで何か悩んでたようだけどどうしたのかな?」
穂乃香「ああっ、志希さんなら頼りになるかもしれないです。あのですね…」
穂乃香は志希へと事情を事細かに伝えた。
志希「なるほどにゃー、そうだね確かにそうなるとだけど………」
ピコーン
志希の中で何かが閃く音が響く。
志希「む?これは面白そうなのが思い付いたんだけど…少し時間が貰えたら嬉しいよー」
穂乃香「どれくらいかかりそうですか?」
志希「そうだねー、2日ないし3日かな。それくらいならどう?」
穂乃香「はいっ、分かりました」
志希「じゃあ完成したらそっちのアイドルルームにお邪魔するねー」
穂乃香「お願いします」
………
3日後…
穂乃香「これが完成品ですか」
志希「んー、一応ね。香りの成分は人体に問題無いのにしといたからねー」
目の前に置かれた小瓶には液体が入っていた。
シュッ
それを空中へ一吹きしてみる志希。
穂乃香「この薫りは…何だか田舎の感じですね」
志希「もう一歩踏み込んで、これは田舎の子とかにやったら一発で分かったよー」
「何か懐かしいというか親しんでいる感じがするね」
志希「お、忍ちゃんいいとこに目を付けたねー」
「あずきチャンは分かるカナ?」
あずき「んー、これは何だか難しいけど好きになっていく薫りだねっ」
「分かる分かる。心に響いてく感じっていうのカナ?」
穂乃香「もしかして…ああっ!!確かにこれが私って言ったのが分かりました!」
「穂乃香ちゃん分かったの?でも、んー…あれ…だよね?あ、そういうことか。確かにこれは穂乃香ちゃんだった」
志希「たぶん穂乃香ちゃんと忍ちゃんの想像で正解だねー。じゃ、これとレシピは穂乃香ちゃんに預けるからねー」
穂乃香「はい、ありがとうございます。後でお礼はさせていただきます」
志希「んー、じゃあまた何かあったらよろしくー」
志希はルームから出た。
あずき「それでこれって何の薫りってことなのっ?」
穂乃香「確かに柚ちゃんやあずきちゃんには馴染みが薄いかもしれません」
「それはどういうことカナ?」
「意外とアタシ達、毎日言っているのに盲点だったってこと………」
………
さらに数週間後…
あずき「いよいよ今日のミニライブであずき達の香水が発売だねー」
「やっぱりぴにゃこら太の分も出すんだ…」
あずき「これは完成度高いから、しっかり販促大作戦しなくちゃっ」
穂乃香「忍ちゃんのアップル、柚ちゃんの柚子、あずきちゃんのピーチ、ぴにゃこら太のピニャコラーダ、そして私の…」
「うん、稲穂の香りだね。これを志希さんはよく思いついてくれたよ」
あずき「みんな呼び慣れてたからすっかり忘れてたんだよねー」
「答えはすぐそこにあったってヤツだよ」
穂乃香「でもまずはこのミニライブもちゃんとやらないとですよ」
あずき「そだねー、頑張ろうっ!」
4人+1体のイメージ香水は完売したのは言うまでも無かったのだが、その後そこに協力者として書かれていた『S.I.』のイニシャルが話題になったのはまた別の話であったという…
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あとがき
飛神宮子です。
(とりあえず)月刊フリルドスクエアの7本目。
ふと、他の3人は香りが想像つくのに穂乃香は?→穂・の・香じゃないかというところからの発想でした。
志希にゃんもちょうど東北なので、いいくらいにネタに使えるなあと。
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2015・12・27SUN
飛神宮子
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