Remembrance Wind(風の記憶)
「おはようございます、相沢さん」
「おう、おはよう天野。相変わらずそういうのが似合うな」
「相沢さん、私がおばさんくさいとでも言うのですか?」
「そこまで言ってないだろ、ったく」
「言ってないということは、そう思ってたってことですね」
「う…さすがだな。そこまで読むとは…」
「いいんです、どうせ私なんか…」
「そんなに卑下するなって…ほら行くぞ」
ぎゅっ
祐一は少し恥ずかしそうに美汐の手を握った。
「はい、相沢さん」
その手の温もりに、美汐の顔は少し紅くなりながらも笑顔になった…
その二人が向かった場所というのは…
「ちなみに一つ聞いていいか?天野」
「何ですか?」
「天野ってその…体重とかは気にしてる方か?」
「そ…それは女の子ですから一応は…」
「じゃあ今日はどうしてこのイベントに来ようと思ったんだ?」
「珍しい物も買えると聞きましたし、安いとも聞きましたから」
そう、食の見本市&即売会なのである。
「そうだよなあ、世界中から食材が集まるって話だしな」
「それ以前に、このイベントに誘ったのは相沢さんの方じゃないですか」
「え?そうだっけ?あ、そうか。秋子さんに言われたからだっけか」
「まあちょうど私も行きたいとは思っていたところでしたし」
「それならいいけどさ、まず何から見たい?」
「そうですね…まずは軽くお菓子なんてどうでしょう?」
「お菓子か…余りきつくないやつならいいけど」
「そうですね。ところで相沢さん、朝食の方は…?」
「もちろん…食べてきてるわけないだろ?天野は?」
「はあ…やはりですか。私はもちろん…と言いたいところだったのですが…」
「ん?どうしたんだ?」
「実は今日は寝坊をしてしまいまして…」
「つまり…そういうことか」
「やはり、先に何か食べますか?」
「そうだな。じゃあ今、ブースが空いてるうちにラーメンでも食べようぜ」
「そうですね、相沢さんはどんなのが好きですか?」
「漢ならやっぱり…何だろうな?」
「ふふ…相沢さんにはそんなセリフは似合いませんよ」
「言ったな天野、そんな天野こそどうなんだ?」
「そうですね、私はやっぱり塩のものが好みですね」
「そうか、じゃあ味噌のにするかな」
「やっぱり意地悪ですよね、相沢さんは」
「冗談だ冗談、好きな女の子をからかうのは常識だろ?」
「フフフ…分かってます、いつものことですから。それじゃああのブースにしましょう」
「お、俺の好み分かってるんじゃんか」
「それは…その、恋人ですし」
少し顔を紅くする美汐。
「今の言葉、真琴が聞いたら何て言うかな?」
「どうでしょう…真琴の恋人を取るな…か、ふーんと流されるかどちらかかと」
「そのどっちかだろうなあ、きっと」
「でも真琴ならば…今の私たちを歓迎してくれると思います、きっと」
「そうだな…」
「…って何でこんな場所でいい雰囲気になってるんでしょう、私達」
「そういえばそうだった」
と、そこに…
くぅぅぅぅぅぅ ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
「早く食べましょう、相沢さん」
「そうだな…天野」
二人は気恥ずかしそうに、そのブースへと向かっていった…
………
「やはりこういう場所に出展しているだけはありましたね」
「ああ、豚骨の醤油は初めてだったが…けっこういけたな」
「それでは次はどちらにします?」
「まだ食べられるのか?天野は」
「いえ、そうではなくて…展示ブースとかもあるんですから」
「あ、そういうことか。天野は見たい物はあるのか?」
「お菓子の実演販売…は駄目でしょうか?」
「いや、俺は構わないけど?まあどれも食べる気は起きないだろうけどな」
「では、突撃しましょう。戦場になってますから」
「おいおい…ま、いいか」
………
目的の物も一応買い終え…
「今日はどうしますか?相沢さん」
「え?どうするって…」
「今日は家族はみんな出てますが、夕食食べに来られます?」
「いや、いくら何でも悪いだろ、それは」
「大丈夫です、秋子さんには了承は貰ってますから」
「いつの間に…それならあとは特に問題は無いか…」
「デザートも買いましたし、今日は腕によりをかけますから」
「…お手柔らかにな。この前みたいに茄子が爆発なんてことは…」
「あれはただの失敗です、そんな一度の失敗を責めるなんて…」
「悪かった、悪かったって」
「許しません、いくら何でも度が過ぎてます」
と言いながら、美汐の眼は明らかにとある菓子を捉えていた。
「分かったよ、買えばいいんだろあれを」
「さすがは相沢さん、分かってますね」
「まあな、その眼にはかなわないな…ったく」
「あ、あともう一つだけ買いたい物があるのですが、いいですか?」
「構わないけど…いったい何だ?」
「私たちにとっては…大切な物ですよ…」
「大切な物?」
「はい…」
「真琴、来ましたよ。今日はいい天気ですね。相沢さんも来てくれましたよ」
「久しぶりだな、真琴。お前の好きな肉まん、今日は特別なやつだぞ」
答える相手は居ない、でも二人は「感じて」いるのだ。
「ここに置いておきますね、真琴」
「残さず食べろよな、高かったんだぞこれ」
「相沢さん、それは言わなくてもいいじゃないですか」
すると…
ひゅううん
一迅の風がものみの丘を吹き抜けていく…
『祐一のこと、許してあげるね美汐。祐一、美汐を泣かしたりしたら許さないんだからね。』
「「真琴…」」
どちらからとも無く抱きしめあう二人、そして…
チュッ
二人は口付けを交わした。
「ああ、真琴。それだけはここで誓ってやるよ」
「相沢さん…大好きです、本当に…」
「俺もだよ、天野」
………
「それでは参りましょう、我が家へ」
「そうだな、それじゃあお邪魔させてもらうぞ」
「もし良かったら、今日は泊まってもいいですから」
「もしかして、それも秋子さんに了承を?」
「はい、ぜひどうぞと言われましたが」
「それならデザートは変更だな」
「え…?それはどういう…」
「デザートとして天野を戴くことにしよう」
「そんな…どうぞ召し上がれ…とでも言うと思ってるんですか?」
「ああ、今の美汐は素直だからな。それくらいは」
「どうしましょうか…家についてからそれは答えましょう」
結局、祐一と美汐は朝までデザートに互いを食べあっていたらしい…
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あとがき
そして2本目、観飛です。
次はkanonから2度目の登場の美汐です。
しかし、暇つぶしに書いたとは言え…真面目にやってましたよ、バイトは。
美汐はけっこう書き易いといえば書き易いかもしれません。
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2007・08・26SUN
観飛都古