July Wind(七月の風)

7月…それは梅雨と夏の狭間の月…
「どうして私なんか…冬弥…」
「別にいいだろ、たまには気分転換ってのも必要だからな」
「それなら由綺とでも別に…」
「由綺は忙しいからダメだって言ってたぜ」
「だからって私なんか…私とだとつまらないと思うよ…」
「つまらないかどうかは、終わってみないと分からないだろ?」
「………」
「ほら黙ってないで行くぞ、はるか」
「冬弥…」
「ん?どうした?」
「今日はよろしく…全部冬弥に任せるから…」
幼なじみ以上恋人以下、以下だから一応恋人ではあるけれど…
「ああ、早く乗ってくれ。一回どっか寄って飯でも買うからさ」
「うん…今日は冬弥に身を委ねるから…」
「委ねるって…まあいいか。シートベルトお願いな」
「ん…」
カチャンッ カチャッ
二つのシートベルトが締められ、冬弥とはるかを乗せた車は近くの店へと走っていった…
 
買い物袋を手から提げて、店から出てきた二人
「それだけでいいのか?はるか」
「うん…あまり食べないから、これくらいでいい…」
「よく考えたら昔からそんなだったな、お前って」
「たぶん…冬弥はよく食べてたけれど…」
「そうだったな、はるかの家に呼ばれた時も食べてたからな」
「お母さんが言ってた…その姿が可愛くて愛らしいって…」
「…何だか言い返せないな、そこまで言われると」
「それでこれからどこに行くの…?」
「ああ、これから近くの海岸に行くつもりだけどさ」
「どうして…?」
「いや、何となく。ただ、はるかと二人きりになりたかっただけだしな」
「冬弥と…二人きり…」
珍しく頬を少し紅く染めたはるか。
「私となんか…そんな…」
「はるか、お前は俺の恋人なんだからな。こういうことをするのは普通だろ?」
「恋人…だったっけ…?」
「由綺だって俺たちのこと認めてくれてるんだから」
「そうだったっけ…すっかり忘れてた…」
「はるからしいな、何だか」
「そうなのかな…」
「ああ、いい意味で自分らしさが出ている気がするさ」
「何だか良いように言われていない気がする…」
「それなら一つ聞くけどな、何で今日の俺の誘いに乗ってくれたんだ?」
「何となく…特に用事も無かったから…」
「だからって別に、俺の誘いに乗らなくても良かったんじゃないか?」
「…それは違う…」
「ん?」
「やっぱり私…冬弥のことが好きなんだろうな…」
「………」
「好きだから、こうして着いてきたのかも…」
「はるからしいな、うん。それじゃあ行くから乗ってくれ、はるか」
「うん…」
ブルン ブロロロロロロ
二人を乗せた車は海岸に向けて走り始めた。
 
ザザーン… ザザーン…
海岸の岸壁に二人。
「こうして二人なのも、久し振りだなはるか」
「冬弥とこうして…二人でいるなんて…」
「二人でいるなんて?」
「思わなかった…冬弥とこういう関係になるなんて…」
「そうだな、由綺が来てからみんなと一緒にいることが多かったからな」
「でも幸せなのかな…今の私って…」
「え!?」
「由綺も美咲さんも冬弥のこと好きだったんでしょ…?」
「そうだったみたいだな、特に由綺は高校からの同級生だったし」
「そんな二人が居たのに、私がこうして冬弥の恋人になって…」
「なるほどな。でもな、はるか…」
ギュッ
はるかの身体を後ろから抱きしめる冬弥。
「と、冬弥…」
「俺はこんなはるかが、由綺よりも弥生さんよりも好きなんだからな」
「やっぱり私…幸せなんだなきっと…」
「もう、そういうことは考えなくていいぞ」
「えっ…」
「そんなことを考えるなんて、はるからしくないからな」
「そうだね…私らしくないかも…」
「はるかにはいつまでも、今のままで自然体でいて欲しい」
「冬弥も…そのままでいてくれるなら、なれるかも…」
「俺もか。今だったら、このままの俺たちでいれそうな気がするな」
「うん…」
二人はしばらく何も話さずに、その場で佇んでいた…
………
びゅうんっ
一陣の風が二人の傍を駆け抜けていく…
「気持ち良いな、今の風って」
「うん…冬弥」
「夏になりきれていない、でも雨も連れてない、そんな季節の風だな」
「ん…どうしたの…急に詩人みたいになって…」
「何となく言ってみたかっただけだ」
「冬弥らしくない…」
「だろうな、でもこんなことが言えるのもな…」
チュッ
冬弥ははるかのその唇へと口付けをした。
「冬弥…」
「お前がいるからだろうな。いやお前しかいないからかな」
「冬弥…私、冬弥を好きで良かった…」
チュゥッ
はるかから自然体なお返しのキスが、冬弥の唇へと降り注ぐ。そしてその唇から一つの言葉…
「幸せだよ…冬弥」
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あとがき
夏なのにWhiteAlbumから、観飛です。
はるかは2回目ですね、前回より難しかったです。
書けそうで実はかなり難しいキャラだということを、あらためて感じましたよ。
一昨日と昨日の風が気持ちよかった、それだけがこの作品を書いた理由です。
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2006・07・31MON
観飛都古
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