Far Side of the Feel Hill(心の丘の向こう側)

ここは夏から秋に変わりゆく風が吹く、そんな丘の木陰。
「ねえ、アニキ」
「どうした?鈴凛」
「私のこと、どう思ってる?」
「え?どうって…」
「私、妹としてどうなのかなって…」
「またどうして急にそんなこと言うんだよ」
「私ってこんな妹だよ。女の子っぽいとこなんて何も無い妹なんだよ」
「あのな鈴凛、一つ言っておくけどな」
「えっ…?」
「それなら今、俺の横に居るのは誰だっていうんだ?」
「誰って…私しか居ないじゃない」
「ならそれはどうしてだと思ってる?」
「どうしてって…その…」
「別に俺は友達としてとか兄弟としてとかでそこに置いているわけじゃない」
「…そうだよね…」
「それこそ俺が、お前を一人の女の子として見ている何よりの証だ」
「こんな女の子でも…いいの?」
「こんな女の子だからじゃない、そんな鈴凛だから…だ」
「ありがと、アニキ。私、アニキの妹でよかった」
「俺も鈴凛を妹として持てて誇りに思うよ」
「でも、本当に今ここに居るの、私で良かったの?」
「どういうことだ?」
「だって私以外にも11人居たのに…」
「どうしてそこまで自分を卑下するんだよ、そんなに自信がないのか?」
「正直に言うとそうかも…魅力なんて私…無いし…」
「お前は勘違いしてる。そんな単純な物じゃないんだぞ」
「えっ……?」
「何て言うかな、全てをひっくるめたお前自身が…俺は好きなんだ」
「私の…全部?」
「ああ、確かに他のみんなはお前より秀でてる部分があるかもしれない。でもそれは一部分でしかないんだよ」
「アニキ…大好き…」
ぎゅうっ
兄の横に寄り添い、抱きしめる鈴凛。
「どうしたんだ?急に」
「アニキは…アニキは本当に優しすぎるよ」
「そうかな?良く分からないよ」
「だって12人も妹が居るのに、みんなに愛を注いで…」
「それはそうさ、大切な妹だからな」
「内気だった私をこうして変えてくれたのも、アニキだったよ」
「…ううん、でもそれは半分違うぞ」
「半分違うって…どういうこと?」
「俺はただ、鈴凛を解放するための鍵でしかないんだから」
「だけど変われたのはアニキが居なきゃ…私…」
「でも変わったのは、鈴凛自身だぞ」
「私自身…そうだよね、変われたのはアニキのおかげだけど…変わったのは私自身…」
「そういうこと。大体そんなこと気にするなんてお前らしくないぞ」
「…そうかな?私だって悩むことが無いわけじゃないんだからね」
「そうだな。でも、そういえば…」
「アニキどうしたの?」
「さっきから思ってるんだけどな…あの…」
「え?はっきり言ってよ、アニキ」
「胸、大きくなったな」
「ちょ、ちょっと…でも気付いてくれてたんだ」
「まあな。お前と四葉、あと雛子に咲耶らへんは割と突撃とか密着してくるからな。その時結構感じてるんだよ」
「だって嬉しいんだもん。それを身体で表現してるだけだから」
「少し嬉しくもあるんだけどな、胸の感触」
「アニキ…それじゃただのスケベオヤジだね」
「男はみんなそんなもんだ。そんなこと言ってるとここで襲うぞ」
「私は別にいいけど?あ、でも新聞沙汰はカンベンして欲しいな」
「…ま、それはラボで…な」
「え…うん。今日ならOKだったと思うけど…」
「はあ…まったくノリがいいな、お前は」
「アニキが乗せるのが上手いから、ついね」
「でも普通こんな話には乗らないだろ。他の妹なら赤面か疑問顔で終わるぞ」
「確かにそうかもね、でも私はアレを作ってるから」
「なるほどな、そういうことか」
「だから自分の体のことは分かってるつもりだし、あんまり恥ずかしくないのよね」
「あれってそんな精密なんだ、じゃあ…」
「アニキ、今変なこと想像してたでしょ。まったく…」
「悪かったな、どうせ俺はスケベオヤジだよ」
「まあその辺はまだ微調整中だけど、ほぼ実装してあるから」
「確かにそこまでやれば耐性は付くか、こんな話でも」
「でも、今日はホントに…するの?」
「鈴凛次第だな、俺は別に構わない」
「私も今日ならたぶん…大丈夫のはず」
「…それはいいとして夕飯はどうする?」
「もちろんアニキの奢りだよね、今月ちょっと苦しくてね」
「ちゃっかりしてるな…まったく。しょうがないな…」
「そう言いながら出してくれるアニキ、大好きだよ」
「俺も少し苦しいから、どっかで食材買って飯は作る方向で良いか?」
「私は構わないよ、何作って欲しい?」
「タイスキ以外」
「…私をバカにしてるでしょー」
「てかあんまり辛いのはこの時期勘弁してくれよ。カレーならまだしもあれはきついぞ」
「確かにそれだけはやめとく、言っただけで汗が噴出すって」
「何でも作れるのか?料理苦手だったんじゃ」
「一応アレのために試しに作ったりしてるから、ほとんど白雪ちゃんのレシピ通りだけど」
「なるほどな、自然と腕を上げたんだな」
「んー、この時期ならさっぱりした物がいいかな?」
「そうだろうな、パスタ関係は?」
「冷製のやつ?いくつかレシピは知ってるけど…」
「それにするか、材料はちゃんと覚えてるんだよな?」
「バッチリだよ、私の記憶力をバカにしないでよね」
「よし、じゃあそれを買いに行きながら帰るとするか」
「うん」
二人は立ち上がり…
ぎゅうっ
互いの手を握ったまま…
「よし行こう」
「うん」
チュッ
一つの口付けと共にこの丘を去っていった…
「ねえアニキ…」
「どうした?鈴凛」
「私…幸せだよ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
そしてこれが4本目、観飛です。
最後はシスプリから鈴凛、意外にもXOverを除いて初登場です。
バイト中に書いた4作中では一番短いですが、割と素直に書けました。
等身大の女の子、鈴凛はそんな感じがします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2007・08・26SUN
観飛都古
短編小説に戻る