Fortuitous Time(偶然の時間)
季節が春から夏へと移ろいゆく、そんな風が吹く頃のこと…
「アニキ、まだかな?」
ラボでとある人を心待ちしている少女が一人。
「でも私の運が…ううん、日頃の行いの賜物よねー」
いつもは工具が載っているような作業台に、今日は食べ物が色々と載せられていた。
「この出費は…ダメダメ、今日だけはそんなこと言わないでおかないと」
そこに…
Ding Dong♪
呼び鈴がラボに響き渡った。
「あ、来たっ。はーい」
扉の向こうには、その待ち人が五月の風を運びながらやってきていた。
………
ラボの方へと兄を迎え入れたその少女。
「ど、どうしたんだ…も、目的は金か?鈴凛」
作業台に載せられている料理の数々を目の当たりにして驚いているようだ。
「どうしてすぐにそういうことになるわけ?じゃあいいよ、私だけで食べるから」
「ゴメンゴメン、でも良かったのか?」
「私がこんなことするキャラじゃないと思ったわけ?」
「そんなことないよ。だけどいつもこんなことされると、何らかの見返り要求されてたからさ」
「もう…私だってたまには純粋に祝いたい気持ちだってあるんだよ」
「分かってるって」
ぽんぽんっ
兄は鈴凛の頭へとそっと手を載せた。
「ありがとな、鈴凛」
「どういたしまして、ほら冷めないうちに食べて欲しいんだから」
「うん、ありがたくいただかせてもらうよ」
「あ、アニキ」
「何だ?」
「まだ言ってなかったから。誕生日…おめでと」
「…ありがとう、鈴凛」
「じゃあアニキはそっちの椅子に座って。私はこっちに座るから」
「分かった…って、通り道がまた狭いな」
「そっかなあ?ああ、今日はこの上の荷物そっちに寄せてたっけ」
「どうりでな。料理だけ時間通りに作ってて、片付けるの忘れてたんだろ?」
「う…図星だけどいいじゃない」
「別に悪いなんて言ってないさ…っと」
二人はようやく席へとついた。
「よーしアニキ、食べて食べて。私の自信作だからね」
「うん、でもその前に一緒に…」
『いただきます』
二人のささやかな誕生日会が始まった。
「しかし鈴凛も料理の腕を上げたな」
「私だって、メカの方に憶えさせるために必死でやってるからね」
「メカの方の具合はどうだ?」
「メカ?んー、何とか今週中には治りそうかなあ」
「でも驚いたぞ。この前俺の家に来た時、急に蒸気出して熱暴走だろ?」
「だってまさかアニキが急にあんなところ触るなんて、プログラムが想定してなかったし」
「鈴凛の表情からして、嫌な予感はしてたんだよな?」
「まあね。スケベなアニキなら薄々想像してたけど、まさか本気でやるなんてね」
「男なら当然の行動だと思うけどな。それにしても表情は随分と豊かになったな」
「基本的には私が思った通りに出せるようにしてるけど、まだまだかなあ」
「まだ鈴凛には使えるレベルになってないってこと?」
「うん。いつか必ず完成させたいとは思うけど、こだわっていくとやっぱり難しいから」
「頑張れよ、少しくらいは援助してやるからさ」
「ありがと、やっぱりアニキは優しいよ」
「それくらいしか俺にはできないしな。だって…」
「だって?」
「お前だって、か、仮にも妹の一人…だからな」
「仮にもって…私はアニキのその程度の存在だったんだ…」
「いや、ゴメンっ!今ちょっと恥ずかしくて言葉濁しただけだ」
「えっ、それって…」
「聞きたいのか?鈴凛」
「…うん、一応聞いときたいな」
「か…可愛い妹の一人って言いたかっただけだからな」
「…アニキ…えっと…ありがと」
二人は少し顔を紅くしながら、食事を再開した。
「アニキ、どうだった?」
「だいぶ腕上がったんだな。このケーキも美味しかったぞ」
「だって、アニキのためを思って作ったんだから」
「ごちそうさま。で、今日は何か手伝っていこうか?」
「え、いいの?折角の誕生日なのに」
「別に構わないぞ。ここに来るのも久しぶりだしさ」
「じゃあメカ治すのちょっと手伝って欲しいなあ。力仕事になりそうだから」
「俺が見たり触ったりしていいのか?一応はお前と同じ身体じゃないか」
「ちょっと恥ずかしいけどね…でももう何回も見られてるし」
「確かにそうだけどさ…ま、鈴凛がそう言うならいいよ」
「じゃあ私が食器片付けるから、アニキは片付けたこの台の上に載せて」
「メカはあっちのボックスの中だな?」
「うん。じゃあちょっと行ってくるね」
………
「しかし見れば見るほど本当に精巧になってきたな」
「将来のこと考えてだから。アニキが私が居なくても淋しくないようにね」
「そうじゃないだろ?」
「う…うん。私のこと、忘れて欲しくないから…」
「でもこんなの無くても、絶対お前のことは忘れるわけないって」
「だけど、心配だもん」
「行く前にちゃんと、忘れられない程のことをしてもらうからな」
「うん…私もアニキにはアニキのこと、刻み込んでもらうつもりだよ」
「ああ、俺だって忘れて欲しくはないからな」
「アニキ…アニキは今日はまだ時間ある?」
「明日から連休だから他の妹と逢うことになってるけど、今日いっぱいなら何とか大丈夫だ」
「それなら…今日は最後まで…私と一緒に居て欲しいな」
「何だよ、鈴凛がそう言わなくてもそうするつもりだったから構わないさ」
「えっ…いいの?」
「いいんだよ。誕生日なんだしこれくらいしても罪は無いだろ?今日が誰のお兄ちゃんの日でも、一日その子の家にいる予定だったからな」
「アニキ…」
ぎゅっ
鈴凛は兄へと抱きつき、一言小さな声でこう言った。
「今日が私のお兄ちゃんの日で良かった…大好きだよ、アニキ…」
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あとがき
このジャンルは4年ぶり!?観飛です。
シスプリから鈴凛、自分の誕生日SSです。
いつもはあんな感じですが、アニキの誕生日くらいはこういうことをしてあげるんじゃないかなと。
やっぱり私は鈴凛が一番年頃の等身大な女の子の感じがします
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2011・05・02MON
観飛都古