Autumn Sunday(秋色の日曜日)

9月に入りばなのある休みの日のこと…
「ねえシオン、今日暇あるかな?」
「何でしょうさつき、ちょっと待って…そうですね、今日は特に何もありません」
ここはさつきとシオンの二人で住んでいるアパートである。
「それなら一緒に出かけようよー、シオンのその服じゃそろそろ寒くなってくるでしょ?」
「わ・私はこれで動き易いですから…って、まあいいでしょう」
「んー、でもシオンって本当にスタイルが良くて羨ましいな」
「そ・そんなこと…さつきだって充分いいじゃないですか」
「そんなこと言ってもシオンには負けるから。あ、そうだ」
「どうしたんです?さつき」
「遠野君も一緒に連れて行く?」
「し・志貴…(ポッ)」
『志貴』の言葉に顔を紅くするシオン、そして…
「それは、つまり…志貴に見立ててもらうということですか?」
「んー、それそれ。あれ?そんなに顔を紅くして、恥ずかしがってる?」
「え、あ…それは、志貴も男ですから、その…」
「大丈夫だよ、遠野君って意外と鈍感なところもあるからね」
「それはそうですが…」
ピッピッピッピッピッ
「え、今電話を掛けている相手はもしかして…」
「シー、シオン。あ、もしもし。遠野さんのお宅でしょうか、弓塚です。はい、あの…」
シオンの顔が少しずつ強張ってきた。
「よろしいですか?ありがとうございます。それではそうお伝え下さい。では失礼します」
ピッ
「良かったねー、シオン。10時半にはこの近くのデパートに来てくれるって」
「さつき、もう一度説明してくれませんか?」
「だーかーらー、遠野君と10時半に近くのデパートで待ち合わせることになったから」
「う…それは私の服を見立てるため…?」
「もう…往生際が悪いよ、シオン。ほら、時間もないから準備したら行くよー」
「分かりました、ここまで来たら後には引けないですね」
「そうそう。はい、これ帽子」
「ありがとう、しかしまったく…どうして志貴を…」
「え、どうしてって…それくらいは分かると思うんだけどね」
「え、え・えっ…?」
「遠野君とデートしたかったからに決まってるじゃない」
「さつき、それはちょっと…単刀直入すぎます!」
「あれ?それじゃあ、シオンはしたくないんだ」
「えっと…」
「それなら私一人で遠野君とデートにしてくるけど、それでもいいの?」
「さつき…私の内心を分かって言ってるんですね、もちろん」
「どうしたの?フフ…何か言いたいなら言った方がいいよ」
「いつからそんなに積極的になったんでしょうね?あなたも」
「あははっ、シオンってこういうところに弱いんだよね」
「それはそうです。向こうに居た頃は、そんなことは考えもしなかったんですから」
「それはそれ、こことは違うんだから。ああっ、もうこんな時間だよシオン」
「大丈夫、私の分割思考によれば志貴は10分以上の遅刻をすることになっています」
「でも、早く行こう。もうどちらにしても時間が無いんだよ」
「そうですね、さつきは忘れ物は無いですか?」
「私は大丈夫だよ、もともと出かけようと思ってたし」
「それでは行きましょう、それにしても志貴と逢うのも久し振りです」
「あ、そうなんだ。私はよく学校で会うからね」
「それは学校なんですから当たり前でしょう」
「まあそうだけど…シオンも忘れ物は無いよね?お金は今日は私が出すから」
「そんな…それはダメです。私の物ですから、私が出さないことには…」
「だって今日無理に誘ったのも私だし、私が出さなきゃ悪いもん」
「それならばさつき、今日は折半にしましょう」
「うん、シオンがそれでいいならそれでもいいよ」
「私もこれで準備は大丈夫です」
「よーっし、じゃあ行こう」
「そうですね、部屋の鍵は…あ、ここに」
そしてそのまま二人はいそいそとアパートを出ていった…
 
10:32、待ち合わせに2分遅刻しながらも到着した二人…
「とーちゃーくっと、まだ遠野君は来てないみたいだね」
「やはり、分割思考で考えた通りでした」
「何で遅れるっていうのも分かってたりするんだよね?」
「秋葉を宥めるのに15分、翡翠を宥めるのに10分というのが、今のところの考えです」
「電話は琥珀さんだったみたいだけど…うーん、来るよね?遠野君」
「それは大丈夫のはずです、琥珀なら何とかしてくれるはずですから」
「そうだといいんだけど…あ、そうだシオン」
「何ですか?さつき」
「シオンに先に聞いておかないとって。シオンはどんな服が好みなのかな?」
「どんな服…そうですね、先にそれを言っておかないとでしたね」
「一緒に住んでるけど、シオンの私服ってそんなに見ないもん」
「だいたいいつもこの格好か、寝巻きかですから」
「だからどんなのがいいのかって分からないんだから、下着は別だけど」
「ちょ・ちょっとさつきっ!こんな公共の場でそういうことを言うのは…」
「だって事実だよ、風呂上がりとか着替え中とか見てるもん」
「だからって、こんな場所で言うことも…まったく、さつきにはデリカシーが無いんですか?」
「うーん、でもシオンって気付いてなかったの?私が覗いてたの」
「さすがに気付いてましたよ、もちろんです」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「一緒に住んでいる人にならまだ、見せても構わないですから」
「ふーん、そうなんだー。一緒に住んでるならね…」
「さつき、何か企んでるようですが…その手には乗りませんよ」
「えー、せっかく遠野君をそのままアパートに連れてこようかと思ったのに」
「やはり…まあ嬉しいですが…いや、何でも無いですよさつき」
「聞いちゃった、聞いちゃったっと。よーし、今日は意地でも連れて帰ろうっと」
「あ・え・冗談ですよね、それは」
「それは想像に任せるけど、たぶん今日のシオンにかかったらイチコロだと思うな」
「今日の私ですか?それはどういう意味で取ればいいのでしょうか?」
「今日これから、私のお人形さんになってもらうシオンの魅力にだけど?」
「私はそんなに魅力は無いですから。むしろさつきの魅力ではないですか?」
「私?私は今日は裏方だもん。今日はシオンの魅力を存分に引き出してあげるから」
「分かりました、今日はさつきに全て委ねることにします」
「そうそう。それでいいの。あとは任せてね」
と、そこに…
「遠野君来たみたいだよ。おーい、遠野くーん!」
「あ、ちょっとさつき、待ってください!」
二人が駆け出した先には、愛しのあの人が少し照れた顔で手を振っていたという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
ある意味記念日SS、観飛です。
そう、今日はこのサイトの5周年ですよ。5年経っちゃいました。
あ、何でこの二人かって? 5→5月→皐月→さつき です。
それで路地裏同名ってことで、シオンを相方に出してみました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2006・09・03SUN
観飛都古
短編小説に戻る