They are asked out to Aestival Wind(夏風にいざなわれ)
朝のものみの丘に夏風が吹く…そんな場所に一人の男が座っていた…
「相沢さん、やっぱりここに居たんですか…」
と、そこに来て横へと座る一人の少女。
「…天野か…ああ、どうしたんだ?天野こそこんなとこに来るなんて」
「今日一緒に出かけるって約束してましたから、でも家に行ったらもう出たとのことでしたので…」
「ああ…それは憶えていたけどな。何となくここに来ただけだ」
と、草の上に寝そべる祐一。
「まったく…そんなことだと相沢さん、嫌われてしまいますよ」
「なんだ?天野は俺のことが嫌いなのか…なっ?」
ぎゅっ かさんっ
祐一は急に美汐の身体を引き込んで抱きしめた。
「天野は俺のこと、嫌いなのかな?」
「こんなことされたら…嫌いになるわけないでしょう…」
「素直なそういうところが好きだよ、天野の」
「…(これが相沢さんの魅力なんです…こんなこと言われたら返せません…)」
「ん?天野、なに考えてるんだ?」
「何でもありません、相沢さん。だいたいいつまで抱きしめているつもりですか?」
「そうだな、天野は嫌か?こうされるのは」
「え…えっと…嫌じゃありません…しかし…」
「それならいいだろ?お互い嫌じゃないんだからさ」
「でもそろそろ行かないと、もうこんな時間です」
と、美汐は腕時計を祐一へと見せた。
「まだこんな時間なのか、それじゃあおやすみなさい」
「え?え?ちょ、ちょっと相沢さん!起きてください」
「冗談だ、冗談。よし、じゃ行くとするか」
がばっ
祐一は美汐を腕に抱きしめたまま、草枕から起き上がった。
「それで今日はどこに行くんだ?天野」
「え…?今日は相沢さんが行きたい場所があるから、日を空けておけって言ったのでしょう?」
「そうだったっけ?逢う予定だけ憶えてて、すっかり忘れてたかもな」
「それでは今日はどうするんですか?私は午後まで帰らないと家に言伝は残してるのですが」
「そうだな…行きたいところがあったら言ってくれ、それに従うことにした」
「それなら、まずは百花屋で作戦会議といたしましょう」
「ん、じゃ行くか」
「そうですね、相沢さん」
ぎゅっ
ふたりは手を繋いで、ものみの丘を後にした。
そして百花屋で…
「で、天野は行きたいところは本当に無いのか?」
「はい、特に今はありません」
「俺も何で呼び出したんだか憶えてないんだが…何か俺言ってなかったか?」
「特に何も聞いてませんけど、でも声からよほど行きたそうでしたが」
「俺がよっぽど行きたかった場所か…あ、思い出した」
「思い出したんですか?」
「ああ、そこの券を貰ったから誘おうと思ってたんだった」
「そういうことでしたか、それなら早く行った方がよさそうですね」
「でも一度家に戻らないとダメだけどな、天野もだけどな」
「それは…何かを取ってくるということでしょうか?」
「そういうことだな、つまり………に行くから………をな」
「分かりました、何時にどこに行けばいいのですか?」
「え…いいのか?てっきり天野の事だから嫌とか言うと思ったんだけど」
「折角のお誘いですから、断る理由もありませんし」
「それなら11時半までに俺の家に来てくれるか?」
「今からですか…何とか大丈夫かと思いますが…」
「よし、11時半に俺の家ってことで、とりあえずここは出るか?」
「そうですね、もうここにいる理由も特にありませんからね」
二人はグラスに入っていた飲み物を飲み干していった。
時は変わって11時15分…
ピンポーン カチャッ
「あらこんにちは、天野さん。祐一さんですか?」
「こんにちは秋子さん。はい、11時半との約束になりまして」
「そうですか、それなら今呼んできますわね…」
と、1分も経たないうちに…
「来たな天野、それじゃあ行こうか。秋子さん、行ってきますね」
「行ってらっしゃい、祐一さん。遅くなりそうなら連絡してくださいね」
「はい、分かりました。なるべく遅くならないようにします」
二人はそのまま駅の方へと歩みを進めていった…
『それではお釣りの200円です。』
「あ、はい。じゃ、また中でな天野」
「はい、すぐ着替えてきますから」
………
「やっぱり恥ずかしいです…相沢さん、私のこれ似合ってますか?」
「ん?似合ってるぜ、美汐らしく落ち着いた感じがしてな」
「あ…ありがとうございます」
頬を紅くして祐一を見つめている美汐。その素肌には水色のワンピース型水着が纏われていた。
「天野の水着姿、一回見てみたかったんだ。これは照れ隠しじゃないからな」
「…は、早く入りましょう。ここは確か温泉プールでしたね?」
「そうだな、それじゃあまずあっちの方で一緒に浸かろうな」
「はい…」
………
「どうした天野、もっとこっちに来ればいいのに」
「そ…そんな酷なことないでしょう…相沢さんは恥ずかしくないのですか?」
「今更そんなこと言ってもしょうがないと思ってるからな」
「それはそうですが…」
「だいたいお互いもう見合ってるんだから、俺は恥ずかしいとも思わないんだがな」
「それとこれとは話が違いますっ、ここは公共の場ではないですか」
「ん?じゃあ天野、あの辺とかあの辺にいる人たちはどうなのかな?」
今日は夏休み。よくよく見渡せば家族連れも居るが、高校生や中学生のカップルもそこかしこに見受けられた
「し、しかし…そこまで言うなら分かりました、相沢さん」
すすす ぴとっ
美汐は祐一にぴったり寄り添う格好になった。
「まったく、素直じゃないな天野も(そういうところがまた、可愛いんだけどな)」
「相沢さんのそのテクニックには敵いませんから(こういうところが好きなのかもしれませんね)」
「今日はここでゆっくり楽しもうぜ、時間はまだ沢山あるからな」
「はい、今日は相沢さんに一日を委ねる事にします」
「次はあのウォータースライダーにでも行くか?」
「エッチなところを触ろうとしたら怒りますからね」
「…ちっ。勘が良いな、天野も」
「相沢さんの考える事なんてだいたい予想つきますから」
と、結局恋人っぽく二人は夏のひと時を過ごしていった…
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あとがき
3ヶ月ぶりの2本目。kanonからです。
美汐は実は初書きになりますかね。秋子さんはちょい役で1回、香里も佐祐理さんも1回ずつクロスオーバーに登場してますけど。
話が自然とこういう風に流れました。
いつのまにやらプールの話に…ってか、よくもまあ春に夏のSSを書くなあって感じです。
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2006・04・30SUN
観飛都古