#094〜釦〜

それはある春の日のこと…
「くっ…いたっ…」
「ん?どうしたんだ?あかね。針でも刺したの?」
「う、うん…ご主人さま、できれば救急箱を早く…」
「分かった、すぐに出すから血が出た指の根元を押さえといて」
ガタタンッ パカッ ガサガサガサ
「絆創膏をつける前に、ちょっとこの血は取った方がいいな」
ちゅぷっ
ご主人さまの口はあかねが止める隙も無く、あかねの指を捕らえていた。
「ご、ご主人さまっ…!」
ピリリリリリ ペタン ペタンッ
「これでよしっと、あれ?そういえば、針仕事なんて何かあったの?」
「え?あ…うん。ちょっとボタンが取れてしまったんだ…」
「ん?ボタンって…パジャマのか。あかねは針仕事は苦手かい?」
「うん…ちょっと金属のものの扱いは苦手なのかもしれないな…」
「そっか、じゃあ僕が付けてあげようか?これくらいなら簡単だし」
「え…ご主人さまって裁縫できるの…?」
「できないわけ無いじゃないか、君たちが来る前は全部一人でやってたんだからさ」
「あ…そうか。でも、ご主人さまの手を患わせたくないな…こんなことで」
「別にそんなこと考えなくてもいいよ。ほら、貸して」
「うん…あ、ご主人さま針に気をつけて…」
数分後…
「ありがとう…本当に裁縫上手なんだ…ご主人さまって」
「一応家事全般はできるようになっちゃったしね、一人暮らしが長かったしさ」
「これだけ丈夫に付いてるなら、ずっと大丈夫かも…」
「うん。でもそのパジャマ、だいぶ色褪せてきちゃってるみたいだね」
「うん…もう何十回も洗っちゃってるから…ご主人さまのだって…もう真っ白に近いよ」
「そうだよなあ、ずっとずっと着てるからさ。夏はランニングだけどね」
「夏のご主人さま、何だかかっこいいよ…」
「そ、そうかな?ありがとうあかね」
「でも、起きた時いつもお腹が出てるのは…どうかと思うけど…」
「あ、うん。しょうがないと言えばしょうがないけど、それは善処するよ」
「でも今日はありがとう…あとはこれを洗濯物に入れて…あ…」
「ん?どうしたの?あかね」
「今日の洗濯、全部終わっちゃってる…これ洗濯できるの明日だ…」
「替えのパジャマって無いの?2枚くらいなくちゃ冬とか洗濯が大変だろうし」
「あることはあるけど…あまり好きな柄じゃないから…」
「よし、じゃあ買いに行こうか。今なら行って帰ってきてもまだ遅くならないからさ」
「え…いいの?でも…」
「ん?どうしたの?そんなに怖気づくなんて」
「何だかみんなに悪い気がして…私だけ…いいの?」
「いいんだよ、そうやって自分の中に閉じ込めちゃうのはあかねの悪い癖だよ」
「う…うん。分かった…じゃあ行こう、ご主人さま」
「よし。それじゃあはい、この上着だっけ?」
「うん…はい、これ。ご主人さまの上着だよ…」
「ありがと、財布はあるし鍵も持ったしこれでOKかな」
「うん…行こう、ご主人さま」
「そうだね、あかね」
二人はそのまま街へと玄関を出て行った。
 
デパートで…
「まずはあかねのからか…どんなのがいいんだい?」
「え…えっと、あまり派手でないのなら…どんなのでもかまわないかな…」
「そういえばあかねって、身長何cmだっけ?」
「157だったはず…前に測った時とそれ程変わってないはずだから…」
「それだと子供用よりも婦人用で探した方がいいかもね、向こうの方に行こう」
「う…うん」
………
「に…似合うかな?これ、ご主人さま…」
「うん、似合うと思うよ。あかねらしさが出る気がするな」
「え?えっと…ありがとう、ご主人さま。ちょっと恥ずかしいな…」
それは薄紫色の地に胸部分に文字が書かれたボタン止めのパジャマであった。
「でもちょっと大きいかもしれない…サイズが…」
「多少なら大きくてもいいと思うよ。あかねはまだ成長期だし、それに…」
「え…それに…何だい?」
「それに、そういう着方の方が可愛く見えると思うよ」
「え…あ…そうなの…かな?」
「うん。ちょこんとしてると、いつもとは違った可愛らしさが出ると思うな」
「う、うん。それならこれにしようかな…。ご主人さま、ちょっと試着室で着てみるよ…」
「分かった、できたら呼んでね」
………
「いいよ、ご主人さま。やっぱりちょっとだけ大きいかもしれないな…」
シャーーーッ
カーテンを開けた先には、さっきのパジャマに身を包んだあかねの姿があった。
「でもそれでいいと思うよ、だってあかねはまだ成長期だしさ」
「そうかな…うん、そうだね…これに決めたよ…」
「よし、じゃああかねはそれで決まりだね。それのお金を払ったら次は僕のを見立ててね、あかね」
「もちろん…喜んで…ご主人さまのためにきちんと選ぶよ…」
「うん、お願いね」
二人の帰り道…その片手は相手の手が、もう片手はさっき買ったパジャマの袋が握られていた…
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あとがき
「100のお題」、1本目はあかねのSSです。
でもこれ、釦と言うよりはパジャマですかね?
まー気にしない気にしない。
何でトップバッターがあかねかって?理由はありますけど…
みどり→選択語句の季節感の問題・ピピ→連続関西弁になるため です。
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2006・03・30THU
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