#059〜グランドキャニオン〜

ここは異国の土地。千早とプロデューサーの海外へと活動の場を移し、それが少しずつ芽生え始めてきた頃…
「どうした千早、疲れてるのか?」
「えっ…そんなことは無いですが…」
「俺の気のせいかもしれないけど、声の出方が何か弱々しく聴こえるんだけどな」
「プロデューサー…な、何でも無いです」
「いや、そんなことは無いはずだろ」
「(どうしてこういうことには敏感なの?プロデューサー…)」
「話してみろよ、俺は千早のプロデューサーなんだから」
「でも…こんなことは話せません…」
「そうやって自分に押し込めるなよ、それとも俺が信用できないのか?」
「いえ、そうでは…分かりました。あの…思い切り声を出したいんです」
「思い切りって…スタジオじゃなくてってこと?」
「はい…」
「そういうことか…分かったよ」
「すみません、何だか私のわがままになってしまって」
「いや、それを聞くのが俺の役目なんだからさ」
「ありがとうございます…」
「ちょっと待ってな。今、予定を確かめるから」
と、手帳を見るプロデューサー。
「千早、明日から三日間のレッスンは全てキャンセルでいいか?」
「えっ?プロデューサーがそう言うなら、私は構いません」
「よし、それなら行くか。ちょっと遠出になるからな」
「どこに行くんですか?」
「どこに行くかは言わないけど、寒い場所なのは間違いないよ」
「この時期に寒いとなると、山ですか?」
「ああ、そうなるな。多少長旅になるから覚悟しておけよ」
「分かりました」
「他の準備は俺がしておくから、心配しなくていいからな」
………
翌日の昼…
「よし、準備は大丈夫だな?千早」
「はい、問題ありません。何時間くらいですか?」
「半日くらいだな、アメリカはやっぱり広いなと思うよ」
「そうですね…」
「寒かったり暑かったりしたら言ってくれ、適宜調節するから」
「分かりました、プロデューサーも休みながらでいいですから」
「分かってるって、長時間の連続運転は避けるよ」
「お願いします…」
チュッ
千早はプロデューサーへと軽く口付けをした。
「ち、千早…」
「あ、挨拶代わりです。それに頑張って欲しいですから」
「サンキュ、千早」
「それでは気を付けて、運転は任せます」
………
翌朝…
つんつんつん
千早の頬をそっと突くプロデューサー。
「んっ…」
「千早、朝だぞ。それに着いたぞ」
「…おはようございます、プロデューサー…ここは…」
「おはよう千早、まずこれを飲んで目を覚まして」
と、魔法瓶に入れておいた紅茶を差し出すプロデューサー。
「はい…んぐっ…ここは…?」
「そうだな、ヒント。俺たちが居たロス・アンジェルスのあるカリフォルニア州じゃない」
「オレゴン州ですか?それともアリゾナ州?」
「アリゾナ州だな。あ、もう入場料は払ってあるから」
「と、なると…グランドキャニオンですか?」
「そういうこと。折角アメリカなんだし、日本じゃ無理だろ?こんな場所」
「…思い切り歌って…いいんですか?」
「構わないさ。でもアカペラでいいか?演奏するものは持ってきてないからさ」
「構いません。ただ…思い切り歌いたいだけですから…」
バタンっ バンっ
車を降りた二人。目の前には峡谷が拡がっている。
「…よしっ…」
深呼吸一つ、そして…
「♪〜」
千早の唇から…いや、全身から朝の峡谷へと歌が拡がっていく…
 
3曲目を歌い終わった頃…
「ふう…あれ?プロデューサー?」
ふと千早が周囲を見回すと、何やら別の日本人と話し合っているプロデューサーの姿が。
「どうしたんですか?プロデューサー」
「千早、ちょうど良かった。その…な、あそこに見える物は分かるよな?」
「そこ…って、テレビカメラ!?」
千早の視線の先、そこには…日本の朝○放送のカメラがあったのだ。
「旅番組のロケで、グランドキャニオンに来ていたらしい」
「まさか…私の歌声も入ってしまったとか…ですか?」
「そのまさかだよ…」
「ど、どうしたらいいのでしょうか?」
「入った部分は音楽を被せるとか言ってるからいいんだけど、そのな…」
「その?」
「千早もここからのレポーターに加わってくれないかってさ」
「わ、私がですか!?」
「どうやら日本での人気はまだ衰えてないらしいんだって。春香とかが紹介してくれてるんだろうな」
「こんな突然、私が入っても良いのですか?」
「構わないってさ、あとは千早の気持ち次第だから。千早が嫌と言えば、簡単なインタビューだけで終わるってさ」
「一つ聞いていいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ここまでリポートしていたのは…あそこに居る…」
「そういうことだ…こっちに来るとの連絡、社長には受けてなかったんだけどなあ」
………
某月某日の土曜日の朝のこと…
「見てください!この雄大な景色!2億年の歴史が作り上げた景色ですよ!」
『目の前に拡がる雄大な景色、無限に拡がっているような感じさえ覚えます』
「あれ?何か聴こえますね。ちょっと行ってみましょう…」
『地元の方では無さそうですが、お話が聞けるかなーって思って行ってみました』
「…この歌声、聞き覚えがあるような…もしかして…」
『そのまま近づいていくと、そこに居たのは…』
「は、春香っ!?ど、どうしてこんなところに!?」
「千早ちゃんっ!!!」
ぎゅうっ
『えへへ、思わず抱き着いちゃいました。そうです、世界進出のために渡米していた如月千早ちゃんが、オフを利用してここに来てたんです!』
………
「海外マンスリー、来週もアリゾナ州からです。天海春香さんありがとうございました」
「あ、次回からこのシリーズ終わるまで、千早ちゃんも一緒ですよー」
「それにしても元気そうだったね、如月さんも」
「はいー、積もる話も色々話せちゃいました」
それから数週間、この番組の視聴率が上がっていたというのはまた別のお話である…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
久々の「100のお題」、5本目はアイドルマスターです。
12個の選択肢の中から選んでもらってこれにしました。
千早とこれが意外と言われましたが、割と展開はすんなりといけました。
最後の展開ですが、実はアリゾナ地元のテレビ局にするかで迷いましたが…この方がいいかなって。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2008・04・18FRI
飛神宮子
戻る