#044〜バレンタイン〜

2月14日、それは乙女にとっての大切な一日…
「はあ…」
朝一番に来て事務所の鍵を開けるプロデューサー。どことなく嬉しさの混ざるため息だ。
「貰わないと何か言われるし、貰ったらそれはそれで小鳥さんがなあ…」
ガチャッ
「ま、しょうがないか。とりあえず仕事だな」
プロデューサーは自分のデスクへと荷物を置いて仕事の準備に取りかかった。
………
その朝、最初に来たのは…
「おはようございます、プロデューサー殿」
「おはよう律子。どうした?今日はいつにも増して早いな」
「確かにそうだけど…でも、こういうの見られるの苦手なのよ」
その手には…
「はい。一応、お世話にはなってるから…」
何やら包装された箱を手渡す律子。
「ありがとう律子。大事に食べさせてもらうから」
「…って、そんなに紙袋まで用意して用意周到なのね」
「だってなあ、分かるだろ?」
「まあ渡す相手になるような男の人は、プロデューサーくらいですからね」
「律子がそう言うくらいならそうなんだろうな」
「でも食べ過ぎないように。体調管理だけはしっかりしてよね」
「分かってる。ありがとな律子」
「どういたしまして。じゃあ仕事入ろうかしら、処理しなきゃダメな領収書はある?」
「んーとそうだな…」
そこに…
「プロデューサー、おはようございまーっす!」
「これだけだな、律子。やよいか、おはよう」
「ん、了解。おはよう、やよい」
「プロデューサー、ちょっとアーンしてください」
「ん?何だやよい、いいけどさ。アーン」
口の中に入っていく何か。まあチョコしか考えられないわけだが
「あんまり高いのが買えなかったから、見ないで食べてもらおうかなって」
「ごちそうさまやよい…ありがとな。気持ちはちゃんと伝わったぞ」
「お粗末さまでした。どういたしましてです」
「そうだやよい、この前の衣装なんだけど微調整したのが会議室にあるから確認してもらえるか?」
「分かりましたー」
次に来たのは…
「おはようございます、プロデューサーさん」
「おはようございます、小鳥さん」
紙袋を見てため息を吐いた小鳥。
「はあ…やっぱり…」
「やっぱりって何ですか」
「みんなから貰うのはいいですけど、私の分の余裕は残しておいてくださいね」
「え、えっと…」
「今年も家に用意してますから…」
「わ、分かりましたよ」
あらあら、恋人同士お熱いこと。
………
それから少し時は流れて…
「おはようございます、プロデューサー!」
「おはよう真。ん?その手に持ってるのは何だ?」
「へへーん、プロデューサーも分かってるくせに」
「確かに分かってないとは言わないけどな」
「はい、プロデューサー。自分で作る時間が無くて出来あいの物ですけど」
「ありがとな、真。大丈夫だ、ちゃんと気持ちは伝わってきてるからな」
「プロデューサー…はいっ」
「あ!そういえば真、今日はダンスレッスンしに来たんだよな?はい、これ」
「ありがとうございます。じゃあ行ってきますね」
そして…
「プロデューサー、おはようございます…」
「雪歩、おはよう」
「これ…受け取ってください」
「ありがとう…ん?固形物じゃないみたいだけど何だ?」
「あまり甘い物ばかりだとと思ったんで、私が好きなお茶にしてみました」
「お、それはいいな。ありがとう雪歩」
「はい。あ…プロデューサー、湯呑みはありますか?」
「ん?あるけど…」
「これ、それを淹れてきたお茶です。飲んでみてください」
コポポポポ
雪歩は持ってきた水筒の中身をプロデューサーの湯呑みへと注いだ。
「ん、ありがとうな。あ、そうだ…今、真がダンスレッスン場にいるから、一緒にレッスンしてきたらどうだ?」
「真ちゃんがですか?分かりました。行ってみます」
………
さらに時は流れて…
「おはようございます、プロデューサー」
「おはよう千早。今日は確か表現力レッスンだったか?」
「はい。その前にこれを…」
「ん?何だ、この袋は…」
「あまり甘い物もどうかと思いましたので、チョコクロワッサンです。ぎ、義理ですから…」
「いや、義理でもありがとう。お昼に食べさせてもらうよ」
「はい…」
千早は逃げるように頬を紅く染めてその場を去っていった。それと入れ替わりに…
「おはようございます、あなた様」
「貴音か…おはよう」
「このような風習は良く分からないのですが、何やら楽しそうでしたので…」
「いや、無理しなくてもいいんだぞ」
「いえ、せっかくですから…これをどうぞ」
「…これ高そうに見えるんだが…」
「そう高い物ではないですが…わたくし自身で選んできましたので、味は確かかと」
「ありがとう、後で戴かせてもらうよ。そういえば今は雪歩が真と一緒にダンスレッスン場に居るけどどうだ?」
「…そうですね、それならば少しお邪魔させて戴きましょう」
次に来たのは…
「兄ちゃんおっはよーん!」
「おはよう…ん?真美、亜美はどうした?」
「あ、亜美から言伝だよ。『風邪引いたよ→、今日行けない分チョコに念を籠めといたかんね→』だって」
「そうか…で、何だ?その赤いのと黄色いのと黒いのと緑色の…」
「これが唐辛子味で、これが辛子味で、これが胡椒味で、これが山葵味だよん。どれ食べる?」
「いやいやいやいや、どれもいらないから」
「兄ちゃん、折角の手作りなのに…」
「うっ…分かったよ、でも一つだけな」
「どれ食べる?ちなみに真美のおすすめはこれだよ」
「じゃあそれでいいよ………か、辛ーーーっ!」
「やっぱりね。試食より多くしたんだけど辛かった?」
「あのなあ、もう少し加減と言うものを考えてくれよ…」
「アハハっ!ゴメンゴメン」
「あー、辛かった…。あ、そうだ。新しい衣装、会議室に届いてるから見に行ってきていいぞ」
「りょーかい。ちょっち行ってくんねー」
………
ようやく辛さも治まってきた頃に…
「プロデューサーさん、おはようなの」
「おはよう美希。珍しいな、こんな早いなんて」
「んー、今日やることないからこれ渡したら仮眠室で寝るつもりなの」
「まあ構わないが…適当な時間に起こすからな」
「んー。はいこれプロデューサーさんになの」
「ありがとな。はいこれ、仮眠室の鍵な」
「ありがとうなのー」
その入れ替わりに…
「プロデューサーさん、おはようございます」
「お、今日は電車大丈夫だったんだな。おはよう春香」
「はい。今日はこれの仕上げのために、早起きしましたから」
春香が取り出したるは、何やら入ってそうな箱である。
「ん?この大きさってことはケーキか?」
「そうですよ。食べやすいサイズで作ってきました」
「そいつはありがたいな。食べきれるか不安だったからさ」
「生モノなんで、早めに食べちゃってください」
「ああ、分かった。えっと…千早が表現力レッスンやってるけど、一人だから付き合ってやってくれないか?」
「んー、千早ちゃんレッスンだと厳しいから…でも、ちょっと行ってきますね」
………
少し経って…
「おはよ、プロデューサー」
「おはよう…って、伊織か。どうした?不機嫌そうな顔してるけど」
「まったく…何でアンタがこんなに貰ってるのよ」
「…それは俺に言わないでくれよ。貰わないと逆にどうなるかくらいは分かるだろ?」
「もう…はいこれ」
「ありがとう伊織」
「言っとくけど、義理よ!ド義理!」
「義理でもこういうのはありがたいさ。嬉しいよ伊織」
「なっ!…もう、アンタなんか知らない!」
あーあ、どっか行っちゃった。それに代わって来たのは…
「おはようだぞ、プロデューサー」
「お、おはよう響。何だか遅かったな」
「まあな。今日はペットの餌やり以外にもやることがあったからさー」
「ん?何かあったのか?」
「これあげるぞ。食べてくれるよな?」
「もちろんさ…これって、サーターアンダギーってやつだよな?」
「そうさー。いつも作ってるのに、溶かしたチョコまぶしただけだけど」
「これは美味しそうだな。おやつの時間はこれにするかな」
「残さず食べてな」
「もちろんだよ。あ…そうだ響、ちょっといいか?」
「何だ?プロデューサー」
「ちょっとやよいと真美の様子を会議室まで見てきてもらえないか?」
「んー、分かった。ちょっと行ってくるぞ」
………
時はいつの間にか10時のおやつの頃になっていた。
「プロデューサーさん、おはようございます〜」
「おはようございます、あずささん。今日はオフにしましたよね?」
「いえ〜、せっかくのバレンタインデーですから〜、プロデューサーさんにこれを渡そうかなと思いまして〜」
「そんな…気を使ってもらわなくても良かったのに…」
「そんな、日頃お世話になってるんですから〜受け取って下さい」
「それなら…いただきます」
「はい〜。ふわぁ…」
「あれ?どうしたんです?」
「早起きしたので、ちょっと眠くなってきたみたいです」
「それなら、美希が仮眠室で寝てるんで寝てきたらどうです?適当な時間に起こしますから」
「ではそうさせてもらいます〜」
………
その後…
「もう…私という人がありながら今年もこんなに…」
「そうは言っても仕方ないじゃないですか」
「分かってます。分かってますけど、でも…」
「それなら今、ちょっとだけください」
「え?」
チュッ
言うが早くプロデューサーの唇は小鳥の唇へと重ねられた。
「ごちそうさまでした。あとは夜までお預けにしておきます」
「プロデューサーさんったら…はい、夜は私の全てを…ね」
チョコも溶かしてしまうほどに、お二人さんは本当にお熱いこと。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
久々の「100のお題」、14本目はちょうど書いていたのがこのネタだったので100のお題に。
もともとアイマスで書こうとは思ってましたが、こうも長くなるとは…
それぞれの個性は出ているかと思います。渡し方も、タイミングも。
さてさて、社長が寂しがっているようですが…ま、それはそれとしてですね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2010・02・14SUN
飛神宮子
戻る