#034〜手を繋ぐ〜

ぎゅっ
伊織の手を握るプロデューサー。
「な、何よいきなり!アンタっ!」
「危ないだろ、人も凄いんだからさ」
「で、でも何でこんなところでアンタと手なんか繋がなきゃいけないのよ!」
「はぐれるよりマシじゃないか、まったく…」
「もう…しょうがないわね…」
………
バタンッ
ここは駐車場に停めてあるプロデューサーの車の中。
「ふう…この中なら大丈夫だな」
「はあ…凄い混みようなのね…疲れたわ」
「当たり前だって、金曜日にオープンしたばっかりだからな」
そう、ここはオープンし立てのショッピングモールなのである。
「もうおかげで髪はぐちゃぐちゃになるし散々よ」
「そんなこと俺に言ってもしょうがないだろ、来たいって言ったのは伊織だろ?」
「そうだけど…でもこんなに混んでるなんて思って無かったわよ!」
「まあ新し物好きな人とか、バーゲン目当ての人が多いだろうけど」
「確かに目の色が違う人が居たわね…少し怖かったわよ」
「でもどうして俺を連れてきたんだ?」
「そ、そんなの決まってるじゃない。プロデューサーなんだから」
「え?でも伊織の家だったら俺じゃなくてもいっぱいいるんじゃ…」
「そんなの…いやよ。休日まであんな人たちと一緒になんか居たくはないわ」
「じゃあ俺だったらいいってことなのか?」
「…そうね」
「まったく、休日に呼び出されて何かと思ったら…」
「いいじゃない、私のプロデューサーなんだから」
「おいおい、俺だって休ませてくれよ少しは」
「何言ってるのよ、仕事無い時は休んでるんでしょ?」
「そんなことないぞ、残務処理だってあるんだから」
「ふうん、それなら悪いことしたわね」
「まあいいけど、もうこうなったら徹底的に付き合うまでだからな」
「いいの?」
「良いも何も伊織の方じゃないのか?『今日は夜まで付き合って』って言ったのは」
「そうだけど…疲れてるんでしょ?」
「何だ伊織らしくないな、いつもならこっちが嫌って言っても付き合わせるのに」
「そんなの…いいの?」
「ダメって言ったらどうするつもりなんだ?」
「そんなの…付き合わせるに決まってるじゃない!」
「そう言ってくれなきゃ伊織じゃないな」
「何だか乗せられたみたいで悔しいわ…フンっ!」
「よし、それじゃあ行きたい所を行ってくれよ」
「そうね…」
………
「…寒くないのか?伊織」
「…大丈夫、そんなに寒くないから」
「でもこうしてゆっくり海を見るのも久々だな」
ここは海岸の堤防の上。
「そうなの…ま、私には関係ないけど」
「ゆっくりすることすら忘れてた感じだからなあ」
「やっぱり私のせい?そうよね…」
「いや、俺の仕事の効率が悪いせいだ。伊織は全然悪くない」
「そんなこと言ったって、無理言ってるのは私じゃない」
「その無理を聞くのが俺の役割だからな」
「…そんなこと言っても何も出ないわよ、プロデューサー」
「ま、だけど最近だと休日でもこんなにゆったり過ごすこともなかったからな」
「へえ、そうなの」
「だから、こうして仕事を忘れて過ごすってのも悪くないぞ」
「ふーん」
「最近は家に帰ってもつまんなくてな」
「どうして?」
「家が帰って寝るだけの場所、いやそれ以下の場所にしかなってないから」
「それ以下って何なのよ?」
「帰れない日もあるくらいだぞ、最近は残務処理も多くて泊り込みもあるし」
「やっぱり私のせいじゃない、それって…」
「いいんだよ、それが俺の仕事なんだから」
「でも、アンタが身体壊したら私はどうすればいいのよ」
「それは…」
「アンタだけのことじゃないんだから、しっかりしなさいよね」
「そうだな…ってその休みに呼び出したのは伊織じゃないか」
「そうだけど…そんなだとは思ってなかったわよ」
「まあ乗った俺も俺だけどな」
「本当に…アンタがそんなんじゃ…ねえ」
「どうせ俺はそんなプロデューサーですよ」
「でも…べ、別にアンタのそういうところ、嫌いじゃないわよ」
「え?」
「あー、もうっ!恥ずかしいじゃない、二度も言わせないの!」
「ま、いいか。今日はゆっくりするかな」
ゴロンっ
横になるプロデューサー。
「…ん?何だ?伊織」
ふと上を見ると伊織がプロデューサーを上から見つめていた。
「何でも…無いわよ、その…」
「その?」
「アンタの顔、こうやって見ること無かったから…」
「こんなの、いつも見てる顔だろ?」
「べ、別に…いいじゃない。私が見たいだけなんだから文句言わないの!」
「別にまあ、それならそれでいいけどさ」
「でもよく見るとかーわいいのね、プロデューサーって、にひひっ」
「…え?」
「寝不足とか言ってる割には肌も綺麗だし、顔立ちもそんなに悪くないし…」
「伊織にそう言ってもらえるなら嬉しいもんだな」
「本当にこれで変態じゃなければいいのにもう…」
「変態って…それがちょっと心外なんだがな」
「だって本当のことじゃない、でもそんなところも嫌いじゃないから」
「伊織…」
「プロデューサー、これからも頼むわね」
チュッ
そのまま伊織は顔を下ろしてプロデューサーへと口付けをした。
「伊織…任せてくれ、絶対にアイドルの頂点にさせてみせるからな」
「うん、一緒に頑張りましょ」
「それじゃあそろそろどこかに移動するか?」
「そうね、それにこんなところ記者になんか見つかったらまずいわね」
「あ、そうだな。よし、行くか。どこに行きたいんだ?」
「そうね………」
ぎゅっ
車へ向かう二人の手は車まで離れることは無かったという…
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あとがき
「100のお題」、10本目もアイマスから。
最初と最後にテーマを入れてみました。
いやー、伊織は難しい…まだ完全にキャラが掴みきれて無いなあ…難しかった。
試験前に書きたくなるのは相変わらずなんだなあ…と思います。
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2008・06・27FRI
飛神宮子
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