#023〜パステルエナメル〜

それはある秋の曇の日のこと…
「さて…」
あゆみは画材道具入れから様々な絵の具のチューブを取り出していった。
「今日はこの作品の色でもぬりましょうか、ずっと晴れでしたから溜まってしまいましたし」
「ん?これから何か塗るのかい?あゆみ」
「あ、ご、ご主人さま…はい、最近晴れておりましたのでスケッチが多く溜まってしまいましたから」
「スケッチだけ?画材道具とかは持っていかなかったんだ」
「ちょっと持っていくにも大きすぎるので…これだけなら鉛筆だけで大丈夫ですわ」
「そうなんだ、でも色なんて憶えているの?」
「はい、情景が綺麗なものばかりですので、記憶にも多く残っておりますわ」
「ふーん、なるほどね。今日はどんな作品を塗るの?」
「確かこれは…みどりちゃんとご主人さまと少し遠くのブドウ園に行った時の絵ですわ」
「あ、この前のか。美味しかったね、あの時のブドウも」
「そうでしたわね…あ、そういえばまだ少し残ってましたわ。出しましょうか?」
「んー、そうだね…あゆみは作品に色を塗っててよ、僕が出してくるからさ」
「あ、ご主人さまの手を煩わせるわけには…」
「それならあゆみは紅茶を出してくれるかな?あゆみの紅茶と一緒に食べたいな」
「分かりました、すぐに持ってきますわ」
二人はそれぞれ、必要なものを取りにいった…
 
「でも、本当に色んな色があるもんだね」
「はい。ご主人さまに良いものを買っていただきましたから、本当に使いやすいですわ」
「もう4年前だっけ、これを買ったのもさ」
「そうでしたわね、どの色もだいぶ減ってきてしまいましたわ。何本かは買い直したくらいですわ」
「本当だね、あれ?今無い色が一本あるけど、どうしたの?」
「これは…けっこう使ってしまいまして、先日無くなってしまいましたわ」
「それじゃあ今から買いに行こうか?これを飲んだらさ」
「え、えっと…わたくしはいいのですが、ご主人さまはどうなのですか?」
「嫌だったらこんな申し出はしないだろ?僕はかまわないよ」
「分かりました、ではこれを飲んだら二人で参りましょう」
ごくんっ こくんっ
カップに入った紅茶が二人の中へと飲み干されていった。
 
そしてその道中にて…
「でも、どうしてあの色だけ無くなっていたんだい?」
「最近はどうも買いに行く暇がありませんでして、そちら方面に行く用事もありませんでしたし」
「そうか…確かに僕もあの辺に行くのも久し振りかもな」
「え?あの辺に他に行かれたことがあるのですか?」
「うん。2年前だったかに、あかねと一緒に近くの占い用の道具屋に行ったんだ」
「そうだったのですか…あ、そういえばありましたわね」
「でも、それから1回も行ってないってところなんだよね」
「そうなのですか…わたくしも行くのは3ヶ月ぶりになりますわ」
と、そんな話をしている間に裏通りにある一軒の店へと行き着いた。
ガーッ
自動ドアを開き、店内へと入っていく2人。
「お、あゆみちゃんいらっしゃい。お久し振りだね」
「はい、大内さんお久しぶりです」
「ん?今日は何を買いに来たんだい?」
「あ、あの…絵の具が一つ切れてしまいまして…それで買いに来たのですわ」
「あの画材セットのかい?かなり長いこと使ってるけど、まだ大丈夫なのかい?」
「はい。何回も買い足してますから、まだまだ大丈夫ですわ」
「それでどの色なんだい?番号が分かればそれで言ってくれたらありがたいんだけど」
「確か23番だったと思うのですが…パステルエナメルでしたわ」
「23番か…それなら確か在庫があるはずだな。今取ってくるさ」
バタン
主人は店の奥に入っていった。
「あ、あれってパステルエナメルって言うんだ。知らなかったよ」
「はい、ちょっと薄めの黄色なのですわ」
バタン
店の奥から主人が戻ってきた。
「持ってきたよ、あゆみちゃん。23番だからこれでよかったんだよね」
主人が持ってきたアクリル絵の具チューブには、英語で「PASTEL ENAMEL」と記されていた。
「はい、確かに間違いありませんわ。えっと、おいくらでしたっけ?」
「300円だね、1本だけでいいんだよね?」
「はい、それではこれでお願いしますわ」
「うん、それじゃあ700円のお返しと商品ね」
「ありがとうございました。それではご主人さま、帰りましょう」
「そうだね、あゆみ」
ガーッ
そして店を出た二人。
「こんな色だったんだ、確かに使い勝手が良さそうな色だね」
「はい、海の砂みたいな色はこの色がかなり良いベースとなりますわ」
「そうなんだ…クリーム色っぽさも入ってるしね」
「それじゃあ帰ったら、また紅茶でも飲みながら…ね」
「はい、そうですわね。温かくて美味しい紅茶をお出ししますわね」
「楽しみにしてるよ、あゆみ」
チュッ
ご主人さまはあゆみの頬へとそっとキスをした。
「ご…ご主人さま…」
秋の曇天の下、二人は仲良く手をつないで家路を帰っていった…
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あとがき
「100のお題」、2本目はP.E.T.S.からあゆみです。
明日・明後日とちょっと東京に出るので、先に何かやっておきたかったので…
この作中の画材屋さんは、P.E.T.S.SSの誕生日小説(2002年度)のあゆみのものに出てきたものです。
あゆみは書いているとどことなく気分が落ち着いてきます、はい。
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2006・05・04HOL/THU
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