#018〜ハーモニカ〜
「ご主人さまー、わーいっはやくはやくー!」
「ナナ、待ってよー。ふう…はあ…」
「まったくぅ…ご主人さま、運動不足だよっ」
「確かにここのところ動いてなかったのは反省しなくちゃいけないかもな」
と、二人はお散歩中。そして着いたのは高台の公園だった。
「ご主人さま、ハーモニカ持ってきてたよね?」
「あ、うん。何かたまに吹きたくなるんだよなあ…」
「吹いて吹いてっ!久し振りにご主人さまの吹いた曲聴きたいなっ」
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冬の半ばの晴れた空へと、澄んだハーモニカの音が響き渡る…
「あら、ご主人さまおはようございます。今日はお早いのですね」
「ユキさん、おはよう。うん、何だかちょっと目が覚めちゃってさ」
と、朝のベランダにユキとご主人さまの姿があった。
「それにしても今日は寒いですわね、急に雪も降ってまいりましたから」
「うん、でもこんな空も悪くないかな」
「そうですわね、この白い物と同じ名前の私もそう思いますわ」
「ちょっと朝だけど、これだけ積もってれば消音になるし…」
「え…ご主人さま何を…?」
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晩冬の朝の雪空へと、鮮烈なハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人さまおつかれさまでした、このお茶でゆっくりなさってください」
「ありがとうラン…うん、申し分ない味だよ」
偶然二人しかいない夕刻の部屋、電気を点けていない部屋は夕陽だけが灯りとなっていた。
「こういうのも何だか久しぶりだね、ラン」
「はい?何がでしょうか?」
「いやさ、こうしてランと二人きりでいるのもさ」
「………」
「………」
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春を分けるの日の頃の夕闇へと、照れ隠しなハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人さま、今日は連れてってくれてありがとうれす」
「どういたしまして、ミドリ。楽しかったかな?」
「はいれす、ご主人さまのお仕事姿が見れて楽しかったのれす」
「そっか…うん、楽しんでもらえたなら嬉しいよ」
「れもご主人さま、仕事しているところ本当にかっこよかったれすよ」
「ありがとうミドリ。それじゃあ言ってくれたお礼にちょっと聴かせてあげようかな」
「あー、ハーモニカれすか?わーい聴きたいのれすっ」
「ちょっと待ってね…ん、良しっと」
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新緑の季節の夕空へと、楽しいハーモニカの音が響き渡る…
「それっ!ご主人さまっ!」
「うわっとっ、とっ、とっ、とっ、うわあああっ!」
ズザーーー
テニスコートへと派手にスライディングするご主人さま。
「ご・ご主人さま、大丈夫っ!?」
「ちょ…ちょっと休ませてくれる?さすがに大丈夫じゃないし」
「う・うん…。ゴメンねご主人さま、ケガさせちゃって…」
「ツバサ、これくらいで落ち込まないでよ。ほら、元気を出して」
♪♪♪ー♪ー♪ー ♪♪♪ー♪♪♪ー ♪ー♪ー♪♪♪♪♪ー♪♪ー
GWの季節の昼空へと、清々しいハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人たまは雨は好きらお?」
「うーん、どっちでもないかな。雨には雨なりのいいこともあるしさ」
「ふーん、ルルは雨が大好きらお」
「そうだよね、ルルは元はと言えば蛙だからね」
「だからルル、こんな雨の日にいっしょに出かけられるのがうれしいお」
「そっか、僕も出かけられて嬉しいかな」
「わーい、ご主人たまもいっしょらおーっ」
「じゃあちょっとあのあずまやでちょっと休憩してから、雨の中で遊ぼうね」
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梅雨の季節の雨空へと、瑞々しいハーモニカの音が響き渡る…
「どうしたの?ご主人さま」
「いや、財布が見つからなくてさ。クルミ、知らない?」
「えっと…確かどこかで見覚えがあるの。…えーと、そうなのっ!昨日のままなら、洗面所の洗濯籠の中かもなの」
「そっか…えっと、あった!ありがとうクルミ」
「えへへ、どういたしましてなの」
「それじゃあお礼に、これ久し振りに聴かせてあげるよ」
「え…うん、久し振りに聴いてみたいの」
「それじゃあいくよ」
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梅雨明けの季節の夏空に、純粋なハーモニカの音が響き渡る。
「ご主人さま、今日はおつかいに付き合ってくれてありがとうございました」
「いいんだよタマミ、たまにはこういうのも良いと思うしさ」
「でも、本当はご主人さまの手を煩わせるわけには…」
「いいんだって、タマミも本当にそういうところは几帳面だね」
「むー、ご主人さま何だか」
「ゴメンゴメン、タマミ」
「あ…ご主人さま…この大通り渡るんですよね…」
「そうだけど…じゃあおまじないのあの曲、聴かせてあげるからさ。ちょっとこっちの公園に寄ろう」
♪ー♪♪♪ー ♪♪♪♪ー♪ー ♪♪♪ー♪ー♪ー♪ー
灼熱の季節の茜空に、清らかなハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人さま…」
「何だい?ミカ」
「何だか眠れないの…どうしてだか分からないけど…」
「そっか…うーん、それなら僕の蒲団に入りな」
「ミカが入ってもいいの?ご主人さま」
「いいよ、ほらこっちに入りな」
「ご主人さま…うん、やっぱりご主人さまって…温かい…」
「ミカも温かいよ、とってもさ」
♪♪♪ー♪ー♪ー ♪♪♪ー♪♪♪ー ♪ー♪ー♪♪♪♪♪ー♪♪ー
ミカの夢の中で、いつの間にかハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人さま、いったいどうしたの?急に家を飛び出すだなんて」
「いや、何でもないよ。アカネこそどうして僕について来たの?」
「ご主人さまが…何だか心配だったから…」
「ゴメンねアカネ…そういう心配させるのってご主人さまとして失格かも」
「いいんだ…それをも包み込んで癒してあげるのが…私たち守護天使の役目だから…」
「ありがとう…何だか楽になれた気がするよ」
「どういたしましてご主人さま…。あ…これ、走ったとき落としてたよ」
「アカネ…ありがとう…うん」
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秋風吹く季節の夜空に、静かにハーモニカの音が響き渡る…
「段々と寒くなってきましたわね、ご主人さま」
「うん、こんな季節だからいいこともあるんだけどね」
「それもそうですわね、こういう季節は色の移ろいが綺麗ですわ」
「うん、それに音の響きもいいからさ。何だかこの季節はこれが吹きたくなるんだ」
「ご主人さま、今日は持ってお出でだったのですわね」
「うん、じゃあアユミは絵を描いててよ。邪魔にならないように吹いてるからさ」
「いえ、こういう時はゆったりと聴くのも悪くないのですわ」
「そっかなあ…ま、いいや。アユミがそうしたいならさ」
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晩秋の色とりどりの季節の空に、溶け込むようなハーモニカの音が響き渡る…
「ご主人さま…」
「ん?どうしたんだい?モモ」
「あの…その…ご主人さまのここに寝てもいいですか?」
「え?うん、いいけど」
「ありがとうございます…」
ぽふっ
「ご主人さま…ん…何だか堅いものが頭に当たってて…」
「あ、ゴメン…これを取り出すのを忘れてたから」
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冬の始まりの季節の空に、ゆったりとしたハーモニカの音が響き渡る…
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あとがき
「100のお題」、4本目は連続で天使のしっぽです。
しかも今回は10行連作で全員という形、つまりこれが「作品」自体のSSです。
ハーモニカは無印の天使のしっぽを見ている人にとってはお馴染みのアイテムですね。
なのでこれを、「作品」自体のSS用のタイトルにしました。
すんなりいける人もいればそうでない人も、やっぱり苦手はありますね。
それにしても10行にそれぞれを詰め込むのもなかなか苦労がいります。
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2006・06・06TUE
雅